登場する人物、団体、名称はすべて架空のものです。


この小説は


”Obsessed with you”、”Forbidden Affection”との連動小説となっています。


初めてごらんになる方、お読み直しなさりたい方は


→ 小説インデックス をご覧ください



今年もまた文化祭の季節がめぐってきて


学校が一年の中で一番の活気に湧いた。


ただ、楽しいことは


あっという間に終わりを迎え、


文化祭の後に来るおまけのような存在の


体育祭を控えていたある日のことだった。



この日、俺は朝の校門当番だった。


所謂、生徒の朝の身だしなみを


チェックする役目だ。



普通なら生徒から倦厭される役どころなのだが


俺の当番のときは


寧ろ、生徒が寄ってくる。



自分で言うのは何だが


俺は所謂イケメンとして分類される顔立ちらしく


女生徒は喜んで俺に挨拶をし、


そして、そこに屯する生徒までいる。



以前、他の教師から


もっと厳しくしたほういいのでは


と助言されたことがある。



が、しかし、


このくらいのことで


「早く行け」などと


暴言を奮うわけにもいかないし


穏やかに「早く教室に入りなさい」


と促しても言うことを聞く生徒は誰もいない。



舐められたもんだ。



自分の前に増える生徒の数に


厭き厭きしながら


なんとか少しずつ生徒を校舎内へ送り込む。



そんな風に朝から


本来ならする必要のない苦労に


手間取っているときだった。



一人の女子生徒が


校門の外の道の遠くのほうから


こちらに駆けてくるのが見えた。


それは・・


校内でも


一番テンションが高い生徒の一人


2-Bの城崎 亜由美だった



そして・・・その彼女に


腕を引っ張られるようにしてもう一人。





九条 美桜だ。



俺の目が彼女の姿を捉えると


それに連動して


心臓の音が大きくなったように感じた。




誰にも言えないことだが


俺は教え子である九条に


他の生徒、いや、女性には抱いたことのない


一方ならぬ思いを抱いている。



俺がこんな気持ちでいることを


彼女本人は知らないし


絶対に知られてはいけない。




こんなことを話すと誤解を生むから


説明しておかなければならない。


彼女を『教え子だから』好きになった


わけではない。



言い訳がましいが、


俺は所謂、教え子を『食う』タイプの


教師ではないし、


そんなことをしようとも思ったこともない。




ただ・・・


彼女が1年生の時に


ちょっとした(?)出来事が重なって


俺は彼女をただの生徒の一人としてではなく、


人として、女性として見るようになっていった。




だから・・


俺は今、自分の教師という分際と


この気持ちとの間で


ジレンマに陥っている。



しかし、そのジレンマは


どうやったって解決することもできない。



彼女への気持ちを忘れようとしたって


忘れられない。


かといって、自分の気持ちを


ぶっちゃけてしまうことも


教師という立場上できない。



正直言って、辛い。



しかも、これだけきつい立場だが


彼女への気持ちは


それに気づいたときから


今まで、全く変わっていない。



俺は本当に彼女に惚れてしまっているらしい。


男こそ一途な動物なのかもしれない。



だから、俺はやっぱり今日も、


なるべく彼女を


意識していないかのように振舞わなきゃいけない。


それで、俺は近づいてくる2人に気づかないふりをした。





「せんせー、おはようございまーす!!」


城崎は俺が絶対に


聞こえないふりをできないような


大きな声で挨拶してきた。




俺はわざとらしく


その声に驚いたように


彼女たちに振り向く。




「おっ、城崎、おはよう。


朝から元気いいなぁ。


宿題ちゃんとやってきたか?」



それは彼女たちが近づいてくるのがわかった時に


即座に頭の中で準備した挨拶だった。




「やってきましたよぉ!!


でも、わからないところがあったから


今日の放課後、教えてほしいなぁ!!」



城崎が元気よく返答する。




俺が個人授業を求める彼女を窘めるように


「わかったわかった。


でもまずは授業中にちゃんと説明聞いておけよ」


とアドバイスすると



城崎は



「はーい。。」


と、嬉しそうに素直な返事をした。






しかし、俺の視界の隅に映る


九条の顔は曇っている。



『あまり拘わりたくない』


そう言わんばかりの顔。



正直、ショックだ。



でも、そのくらいでいいのかもしれない。


これでもし、九条が俺を慕ってくれでもしたら


俺は自分のこの気持ちを抑えられなくなるだろう。



そんな風に彼女のことを考えていたら、


一瞬、俺の視線は彼女に行ってしまって


彼女と目があった。



彼女は仕方なく、という感じで


「ぉ・・おはようございます」


と小さな声で挨拶をした。



たくさんの生徒でザワザワとする中、


それでも、俺は彼女のその小さな声を


聞き逃さなかった。


あいさつは、唯一彼女が俺にかけてくれる


声の貴重な一つだ。




こんな事を感じるなんて。


俺はマジで彼女に惚れていると思い知らされる






「おはよう」



意識しすぎているせいか


俺の声は小さくなる。




俺は彼女と絡まっていた視線を


慌てて不自然に解いた。



彼女と目と合わせていると


俺の気持ちが伝わってしまいそうで


怖い。



情けなくも泳いでしまう俺の目。


俺はわざとそこらにいる生徒に


目を落として挨拶をした。




そして再度素知らぬふりで


九条に目を向けたが



城崎が一人、うれしそうにこちらを見つめているだけで


彼女はもうそこにはいなかった。



俺は焦ってきょろきょろしながら


後ろを振り返ると


たくさんの生徒に紛れて


九条の背中が俺から、というか


城崎から遠ざかっていくのを見つけた。


校舎に向けて足早に歩いていく。



彼女のその素っ気ない態度に


俺の心は痛みに似た感覚を覚えた。




でも・・・これでいい。


これでいいんだ。





そんな風に自分の


どうしようもない気持ちを制しているうちに



俺の前に屯する


生徒が少なくなっていき


やがて一人もいなくなった。


そして、遅刻組が


校門をすりぬけるように


急いで校舎に入っていくだけになった。



ホームルームの時間が近づいてきたのだ。




今日は3限目に2-Bの授業が入っている。


・・・九条のクラスだ。




最後の一人と思われる生徒が


構内に入るのを確認すると、


俺は密かに3限目が早く来ないかなんて考えながら


職員室に戻った。






時間が早く経たないかと思えば思うほど


それはゆっくりと流れるものだが


やはりそこは俺も教師の端くれである、


講義に身が入り、あっという間に3限目を迎えた。



3限目開始のチャイムが鳴ると同時に


入った教室。


ザワついてはいるが


そこはやはり進学校。


みんなきちんと着席してくれている。



そんな教室内を俺はわざとらしく見まわして


教室中央ラインの一番後ろの席から2番目に


九条の姿を見つけた。



彼女はいつにも増して、


不機嫌そうな顔をしていて


俺の心は少し凹んだ。





・・・?・・





俺に一かけらの興味も持っていないとは言え


普段の九条は


授業は真面目に受けてくれる。



しかし今日の彼女は


授業を開始しても


終始、下を向いたり


窓の外の景色を見て、


まったく俺の話を聞いていないかのようだった。



いくら俺が彼女に


特別な関心を持っているとはいえ


その授業態度は


あまり芳しくはないことを


認識せざるを得ないほどだった。




しかし、ぺちゃくちゃと


おしゃべりしたりして


授業を妨害しているわけでもない。



何か気に入らないことでも


あったのかもしれないな。



俺はそう思って


黙っていることにした。




授業終了まであと15分。


今日は九条の声を一度も聞くことができなかったな・・・


そんなことを一瞬考えて、九条に目を向けたその時だった。





彼女がなにやら手を後ろに回したのを


俺は見逃さなかった。



割と長身の俺だが、


一番後ろの細かい動きはやっぱり良く見えない。



しかし、彼女はどうも何かを


自分の後ろの席の城崎に渡しているようだった。



・・・おいおい・・・



授業を聞いていないうえに、


城崎まで巻き込むのは、


あまり感心できないよな。



ここは教師として


きちんと注意しなければなるまい。




「九条!」



俺はおもむろに彼女の名前を大きめの声で呼んだ。



すると2人は驚いたように


その手を引き戻した。


終始穏やかに進んでいた授業だったので


急に声を荒げた俺に


クラス中がびくりとし、


そして、俺が呼んだ名前の持ち主に


視線が集中した。



俺は九条の前まで行って彼女を


見下ろした。



「何を渡そうとしていたんだ。


手の中のものを渡しなさい」


そう促すと、


彼女は一瞬驚いたような目をして、


俺を見上げ、


直後、怒っているのか困っているのか


わからない表情になったが


しばらく躊躇した後、


握りしめられていた右の掌を解いた。



その掌の中には小さく折りたたまれた紙片があって


彼女はそれを彼女の前に差し出した俺の掌の上に置いた。







「授業中は授業に集中しなさい」


俺はそういうと、その紙片を


スラックスのポケットに押し込んで


教壇に戻った。



教壇に戻って九条をみると


九条はまるで膨れています


とでも言わんばかりの表情を浮かべて


そっぽを向いていた。




なんだよ・・・


だって、九条。


お前が悪いんだろ?


お願いだからそんな顔しないでくれよ…。




俺は情けなくも心の中で哀願していた。




しばらくすると


授業の終わりを告げるチャイムがなり、


生徒たちは


俺が「じゃぁ、今日はここまで」


と言わないうちから、


机の上の教科書を閉じて片づけだした。



「じゃぁ、きょうはここまで」


俺はそう声をかけながらもう一度ちらりと九条をみると


九条の表情が気持ち綻んでいるように見えて


少しだけほっとして


2-Bの教室を出て、職員室に戻った。



職員室内はいつも


コーヒーの香ばしい香りが漂っていて


たくさんの教師の気持ちを落ち着けてくれる。


俺もそんな教師の一人だった。


片手に持っていた教科書を


自分の机の上にポンと置いて


ふぅと一つため息をつく。





それにしてもあいつ、


あの紙を取り上げたとき


珍しく抵抗しようとしていたな…。


何だったんだ?



俺はスラックスのポケットに手を突っ込んで


折り畳まれた小さな紙を取り出し


何気なく開いてみた。





「っ!!」



俺はその紙を見て驚いた





「やばい。


桧山のこと、


あたしマジで好きかも」




その文字の羅列に



俺の心臓の鼓動は急上昇した。




続く


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