登場する人物、団体、名称はすべて架空のものです。


この小説は


”Obsessed with you”との連動小説となっています。


初めてごらんになる方は


→ 小説インデックス をご覧ください。


今日一日、神経がすり減るような思いで


授業を行って、


5時限目が終わるころには


俺は疲労困憊していた。




今日の最終授業、


6時限目。



俺は最後の気力を振り絞って


1Aの扉を開けた。



やはり・・・


教室は静まり返っていた。



俺は俯きながら


上目づかい気味に教室を見渡した。




「じゃ、前回の復習。


Open your textbooks to page 46.」



一日がんばって保ち続けた気力も

途切れかかっていた。



どうせこのクラスでも


誰も参加してくれるはずがない。



俺はこの授業を投げ出して


家に帰り、


熱いシャワーでも浴びて、


寝てしまいたい気分だった。




しかし、そう言うわけにはいかない。



あと50分。


今日最後の50分・・・。



We can finish this work within a week.


俺は黒板に例文を大きく書き、


「誰かこの文章を受動態に直してください。」



と回答者を募った。




やはり・・・誰も手をあげない。



このクラスも


指名しないと誰も答えてくれないか・・



ふぅっと大きなため息をついて


教室を見渡した時だった。




普段からあまり積極的に授業に参加しない


九条が


すっと手を挙げた。



!!



クラス中が手を高く挙げる


九条に注目した。




一番驚いたのは、誰でもない、


俺かもしれない。




「・・じゃぁ・・・九条」


俺が九条を指すと


九条は黙って立って



「This work can be finished within a week.」



と言ってすとんと座った。




「その通り」


俺はそう言って、


九条の言ったとおりに黒板に書いた。



書きながら、俺は心の中で九条に感謝した。



九条が手を上げてくれたおかげで


6限目の1Aのその後の授業は


何人かが授業に参加してくれた。




俺は今日この1日の最後に、


一番ましなクラスを持つことができて、


麻痺していた心に少し暖かさが戻った様に感じた。



さて・・・

問題はこれからだ。




秋川は先週水曜日のことを


なんて答えるんだろうか。




6時限目が終わり、俺は職員室にいて


教頭に呼ばれるのを黙って待っていた。



1時間ほどの待ち時間だったが


俺には何倍もの時間に感じた。



「桧山先生」


やっと教頭に呼ばれて


俺は今度は校長室に案内された。



中には校長と


保健室の職員である瑞穂 香先生がいた。




「桧山先生、お疲れ様」



校長がねぎらいのあいさつをかけてくれた。



「お疲れ様です」



俺は小さく返した。




「そこにどうぞ」



校長に向かいにソファーに腰掛けるように指示され、


俺は腰をかけた。




「結論から言うと・・・」



校長がかけていたメガネを外して


指に引っかけてぶらぶらと揺らしながら


話し始めた



「秋川君はこの件に関して



沈黙を貫いているようです」




俺はそれを聞いて、


天井を見上げて


・・ッハァ・・・


と留めていた息を一気に吐き出した。




そして一度深く呼吸をして



「そうですか」


と答えた。




すると、俺の隣に座っていた


保健教員の瑞穂先生が



「女性にとっては



非常に敏感な問題でしたので



私が保健室で伺ったんですが、



秋川さん、



しゃべりたくないの一点張りで・・・



あまりしつこく聞きだそうとしても



逆にどんどん心を閉ざしていってしまうので



今日は、結局、何も聞き出せなかったんです。」


瑞穂先生がそこまで言うと、


校長がそれを引き継いで話した。




「ですので、



桧山先生の言い分がウソだとは



申し上げるつもりはありませんが



やはり、相手が何も言わない以上、



やはり、学校側としては、



真相はまだ分からないと



結論せざるを得ない状態です。」




校長はそこまで言うと


深くため息をついて


俺の顔をまっすぐに見た。



「それでですね


明日からの話なのですが・・・


大変申し上げにくいのですが、


これ以上の混乱を避ける意味でも


真相が分かるまでは


桧山先生には


しばらく『自宅待機』という形を


とってもらってもよろしいでしょうか?」



校長は疑問形で聞いているが、


これが命令であることは


誰が聞いてもわかることだった。



『自宅待機』


それは体の良い賞罰、


自宅謹慎ようなものだ。



俺がうなだれてふぅっとため息をつき、



「わかりました」


と小さく返事をすると




「真相がわかり次第



すぐにご連絡を差し上げますので」


と校長が付け加えた。




「はい。」



俺は短く返事をし、


立ち上がって一礼をすると、


教頭と一緒に校長室を出た。



校長室から職員室へ戻ると


たくさんの教職員が見つめる中、


俺は机中に広がった


書類を適当に整え、


鞄を持って職員室を後にした。




職員室を出たところで九条とすれ違ったようだが、


俺は全くそれに気付かなかった。




今まですれ違うと必ずその存在に気づいていたのだが…




俺の浮ついた気持ちは


既にどこかに行っていた。




自分の気持ちの緩みから


こんなことになってしまった。




今は自分を責めるしかなかった。



気がつくと、俺は家に帰ってきていた。


鍵を開け、


スーツをそこらへんに脱ぎ捨てると


すぐに熱いシャワーを浴びた。




学校で今日一日中、欲し続けた


このひととき。




シャワーが


今日一日で俺の体にこびり付いた


タールのような真黒な気持ちを


幾らか流し去ってくれたようだった。




浴室から出て


キッチンにある冷蔵庫から


ミネラルウォーターを取り出すと


俺はキャップをねじり開けて


渇いた喉に水を


流し込んだ。



喉が痛くなるほど冷えた水。


俺は心地よさを感じていた。



水をボトル一本分を


一気に喉の奥に流し込むと


プハっと息をついて


リビングを見回した。



すると、テーブルの上の携帯に目が留まった。


無意識に置いたそれが


メールを受信したことを


緑の光を発して俺に伝えていた。




俺はゆっくりと携帯に手をのばして


メールを開いた。



里奈からだった。




「昨日はありがとう。



とっても楽しかった。



まだ仕事よね。私も仕事。



月曜日の仕事、憂鬱です。



また今週末にでも会いたいです」




俺はメールを読み終わって、


昨日の里奈との時間を思い起こした。




昨晩、まさか翌日の朝から


こんなことに巻き込まれるなんて


全く想像していなかった。




「もう家にいるよ・・・。



今週の仕事は・・・



今日で最後みたいだ・・・。」




俺は小さくつぶやいて、


パタンと携帯を閉じた。




ごめん。


今は・・里奈に返信する気になれない。




俺は携帯を手に握ったまま


ベッドに倒れ込み、


そのまま眠りに落ちた。




___________________




どのくらい寝ていたんだろう?



手の中で何かが細かく振動して、


俺を起こした。




俺はゆっくりと身を起こすと


眠い目をこすりながら


手の中のものを見た。




携帯だった。



まだ光りながら震え続けている。




携帯を開くと


ディスプレイに表示されていた


文字を見て一気に目が覚めた





「翔陽高校 職員室」




続く

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