登場する人物、団体、名称はすべて架空のものです。


この小説は


”Obsessed with you”との連動小説となっています。


初めてごらんになる方は


→ 小説インデックス をご覧ください。





「俺たち、もう一度やり直してみるか・・・」




口を衝いて出てきた言葉。


5年以上会っていなかった


元彼女に久しぶりに会って


2時間足らずで出た言葉。




「え??ホント?本当に?


やだ・・・すごく・・嬉しい・・・」



里奈は俺の発言に驚きながらも


嬉しそうにそう言った。



先ほどまで、非常に大人の女性の表情をしていた


彼女があまりにも屈託のない笑顔を見せた瞬間、


先ほどの衝動的すぎる自分の発言を後悔しそうになった。





本当によかったのか?




そんな後悔を払拭しようと


俺は頭の中で無理やりのように


里奈と付き合うメリットを頭の中で


急いで並べ立てた。



①里奈と俺は年も近い。


②関心事も似ている。


③だから、多分切磋琢磨し合えて・・


④そのうち、愛も芽生える。


⑤愛が芽生えれば


教え子へのおかしな興味がなくなる




うん。そうだ。


そうなんだ。


こんなにたくさんのメリットがあるじゃないか!



里奈も俺とやり直したがっているようだし。



ちょうどいい。


30過ぎた男女。


愛やら恋やらで付き合う歳でも


ないのかもしれない。


いや、むしろ、条件で交際したほうが


案外うまくいくんじゃないか?



俺は一番いい選択をしたんだ。



自分の軽々しいともいえる発言に


正当な理由づけができて、


俺はほっと胸をなでおろし、


笑顔で里奈の目を見ることができた。




そんな里奈の瞳は輝きをたたえ、


やはり、こちらを見つめ返していた。


里奈のあまりにも無邪気なその瞳に


少し照れを感じ、



「じゃ、そう言うことで、


これからまたよろしく。」




と、俺がまるで仕事仲間に言うかのようにそう言うと


フフっと里奈が笑って




「こちらこそ。よろしく。」




と微笑んだ。



その後、俺たちは


7年の隙間を埋めるように


自分たちが今どこに住んでいるかとか


今日までどんなことをしていたとか、


そんなことを話しあった。



会話が自然に途切れて


時計を見ると、23時をまわっていた。


俺たちは、「明日からまた仕事だからね」


とお互いに言い合って、早々にバーを後にした。


外に出ると、オフィス街のこの西新宿は


人がまばらになり始めていて


俺は里奈を西新宿駅まで見送った。




里奈は改札を入ると、


こちらに一度振り返って


手をふり、「またね」と口を動かした。




俺もそんな彼女に手を振って、


「オウ」


と口だけ動かして返事をした。




里奈の後姿が人ごみにまぎれて


見えなくなって、


俺は改札口に背を向け


新宿駅のほうに


足を向けた。



明日は月曜日。朝から職員会議だ・・・。


少し憂鬱に感じながら


俺は家路を急いだ。




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翌朝7時半。


俺は学校の駐車場にいた。


所定の位置に車を止めて、ドアを開けた。



つい1週間前まで


朝から暑かった日差しも


秋の優しい光に変わりつつあり、


車から降りると、


ほほに当たる空気が少しひんやりとしていた。




職員会議まで、あと15分。


俺は朝の新鮮な空気を感じながら


ゆっくりと職員室に向かった。



職員室に入ると既に


殆どの先生が出勤していた。




俺は持っていたカバンを


自分の机の上において


向かいに座る太田先生に




「おはようございます」



と挨拶をした。



お・・おはようございます




太田先生は


俺の顔をちらっと見て


目を泳がせ、小さな声であいさつした。






いつもと違う太田先生の雰囲気に


なんだろうと思った時だった




「桧山先生、ちょっと」



教頭の井の頭先生が


職員室の入口近くに立っていて、


俺の名前を呼んで


手招きをしていた。




「・・・はい」




俺が教頭の前まで行くと、


教頭は「ちょっと一緒に来てくれますか?」


と言って、


俺を職員室の隣にある


進路指導室に案内した。




進路指導室に入ると


教頭が後ろ手で扉を閉め、


「ま、そこに座ってください」


と椅子を指さした。





俺は「なんだ??」と思いながら


言われたとおり、椅子に腰を落とした。




俺が椅子に座ると


教頭もギィっといすを引いて


俺に向かい合うように座った。




??



教頭は机に両肘をついて


顔の前で自分の両手を合わせたり、


握ったりしながら



「えーとですねぇ」



と斜め下を見るようにして


切り出した。




「先週の水曜日の放課後のことを


思い出していただきたいんですが、


桧山先生、3Aの秋川 悠実と


一緒にいませんでしたか?」




その教頭の質問に


俺はドキリとした。



何か大きな問題が起こってしまった。


瞬時にそう感じた。



俺は、教頭が俺に何を言わんとしているのか


早く知りたくて




「・・・はい。


英語でわからないところを


教えてほしいと言われまして。



・・・なにかあったんですか?」




と聞いた。




「いやぁね・・・。


桧山先生が秋川に・・・・


なんていうか・・・・


乱暴を働いたという話が


出ているんですよ」





なに???!!





「え・・・ちょっと待ってください。


それは事実とまったく異なります。


それを話したのは誰なんですか?」




そう言いながら


まさか、秋川が自分に関心を持たなかった俺に対して


腹いせに出まかせを言ったのか?と予測した。




が、校長から意外な言葉が飛び出した。





「ある生徒の保護者が電話で


そう訴えてきたんですよ。」





なんだって?!



「それは・・どういうことですか?」




俺は状況を全く事態を把握することができず、


教頭にそう聞いたが、


教頭は俺の質問に答えずに、


俺の眼を見て、




「桧山先生、これは重大な事柄ですので


真実を包み隠さず、お話しいただけますか。」




とまるで、ドラマで尋問する刑事のように質問した。




「いや・・真実も何も・・


俺は・・・、


私はただ、秋川に英語を教えていただけです。」




俺がそう答えるのを聞くと、


教頭は、握った手に額を当てて


鼻からスーッと息を吐き出し、


俺の眼を見て言った




「しかしね、水曜日の放課後、


LL教室から走って飛び出していく


秋川を見たという生徒がいるんですよ。



しかも、秋川の着衣が乱れていたと言うんです。



その生徒は驚いて、


しばらくLL教室を廊下の陰から


見ていたらしいんですが、


そのすぐ後に、


桧山先生が出てきたのを見たらしいんです。」




「・・そうだったんですか・・・・」




「そうだったんですかって…


桧山先生、


秋川の着衣が乱れていたというのは


間違いないんですね。


一体、何があったんですか?」




「実は・・こんなことにならなければ


秋川の感情を考慮して、


他言するつもりはなかったのですが・・


秋川が私に以前から思いを寄せていたらしくて、


LL教室で英語を教えている最中に、


その気持ちを打ち明けてきたんです。



もちろん、教師という立場上、


私はその場ですぐに断ったんですが・・・


秋川が・・・その・・・・・・


いきなり自分の衣服を


その場で脱ぎだしたんです・・・


それで私はそれをかろうじて止めたのですが、


その後、秋川は


教室を飛び出して行ってしまいまして・・・」




「なるほど・・・その様子を


他の生徒が丁度見ていたということですか・・・。


しかし、なんでよりによって生徒と


2人きりになってしまったんですか?」


教頭は眉間にかすかに


しわを寄せて、注意とも質問ともとれるような口調で


俺にそう言った。


俺は教頭の言葉に


秋川と2人きりになってしまったことを


今更後悔しながら、


ありのままを説明した。




「そうだったんですか・・・


まぁ・・いくら生徒がそう言ったとしてもね、


異性の教え子とは2人きりにならないように


そこは桧山先生が注意しなければ


いけなかった所ですよね・・」




「はい・・・。


軽率だったと思います。


本当に申し訳ありません。」


俺はそう言って、


教頭に軽く頭を下げた。




「そうですか・・・・


しかし、今回は、ちょっと厄介ですねぇ…」



教頭はそう言うと、


その場でため息交じりにウーンといって


腕を組んだ。




「今回、これがただの生徒間のうわさだけの話であったなら


問題はまだ軽かったんですがね、


実はね、2人を見たという生徒が帰宅後、


友人にそれを電話で話したらしいんです。


なんでも、桧山先生が、


秋川を襲おうとしたらしい


という内容の会話だったらしいのですが、


それをその生徒の保護者が


偶然聞いてしまったらしく、


その後、何日か学校に連絡しようかどうしようか


かなり迷われたそうなんですが、


やはり、これは報告しなければと判断されて


つい先ほど、ご連絡をいただいたんです。」




そこまで話すと、教頭は自分の視線を俺の顔から


俺の後ろにある窓に移して


―いや、実際窓ではなく、なにもみていなかったのかもしれないがー



まぁ、非常に穏やかな口調の保護者さんでしたから、


面白おかしく騒ぎ立てられるような方ではないとは思いますが、


やはり、保護者にこういった話が回ったというだけで


問題ですのでね・・・。」


と言った。



「本当にご迷惑をおかけしてしまい、


申し訳ありません」



謝ることしかできない俺に


教頭が、言いにくそうに



「まぁねぇ・・・。


桧山先生がお話くださった内容が真実であると


私も信じたいところなのですが、


その保護者の方に対する


報告義務もありますし、


なにぶん、未成年との不道徳問題などの


犯罪にも係わる重要な事柄ですので、


秋川にも今日の放課後、一度


何があったのか話してもらって、


桧山先生のおっしゃる内容と一致するようであれば、


それとして、保護者の方に


ご報告申し上げようと思っているんですよ。



ですので、桧山先生、


今日一日の授業が終わったら、


放課後、職員室で


待機していただけますか?」




と言った。




俺はそれを聞いて



秋川が真実を語ってくれるのを祈った。




続く

ペタしてね

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