登場する人物、団体、名称はすべて架空のものです。


この小説は


”Obsessed with you”との連動小説となっています。


始めてごらんになる方は


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他の教科においてもそつなく優秀で


ルックスもよい九条は


1学期が終わるころには、


校内全体で早くも目立つ存在となっていた。


思いを寄せ始めた男子生徒も少なくないだろう。




教員の中でも


九条の評判は非常に良好で


俺にとっても


「生徒」と言われて


一番に最初に頭に浮かぶのは


1Aの九条になっていた。




そんなある日の放課後だった。


俺は職員室の机に向かって仕事をしていた。




その放課後の教員が集まる職員室に


「ツカツカ」と入って来た女子生徒がいた。




九条だった。


彼女は俺の机の脇を通り過ぎると、


1Aの担任であり、


全校生から一番怖がられている


久保田先生の前まで行った。



そして、九条は職員室の入口を振り返ると



島袋も早く入ってきなよ」



と大きめの声で言った。



その声につられるように


俺は職員室の入口に目をやった・・



そこには島袋が背中を丸めるようにして


もじもじしながら立っていた。



九条の大きめの声は


たくさんの教員の視線を島袋に集めていた。


島袋はしばらく躊躇していたが、


九条の呼びかけと


教員の視線に


背中を押されるようにして


おずおずと久保田先生の前まで歩いて行った。




九条は斜め後ろに来た島袋に



「ほら、言った方がいいよ」



と優しく言った。




すると島袋は背筋を丸めたまま


何かごにょごにょと久保田先生に伝えていた。



島袋が伝え終わったようで


今度は九条が口を開いた。




島袋君が


ちゃんと教室のチェックしていたの、


私も見ましたから!!!」




職員室にいた他の教師も


九条の大きめのその声に


驚いたように身を乗り出して


3人の様子を窺った。



九条はそれだけ言うと、


島袋に「行こ!!」と言って


くるりと振り返り


先ほどと同じようにツカツカと歩いて


俺の机の脇を再び通り過ぎていった。




そして、その後を島袋が追いかけるようにして


2人は職員室から出て行った。




2人が出て行ってしばらくすると、


俺の向いに座っている


何にでも首を突っ込む


太田先生



久保田先生、何かあったんですか?」



と聞いた。




久保田先生によると


なんでも島袋は日直を連続3日間やっているという。



本来なら1日交替のはずなのだが


1Aにはルールがあって


担任の久保田先生が退勤前に


教室を最終チェックし


目視できるような大きなゴミが落ちていたら、


その日の日直は


翌日も日直を担当しなければいけないそうだ。



つまり、下校前にみんなで行う掃除が


きちんと果たされたかチェックする役目と言うわけだ。



すると、昨日までの2日間、


島袋がその作業を怠ったというのか?




いや、話は違った。



島袋は昨日も一昨日もきちんとチェックしたのだが、


彼はどうも入学早々、


クラスでいじめを受けているらしく


島袋の下校後に


誰かが大きなゴミを


教室内にわざと落としているのだというのだ。



それが2日間続き、


今日が3日目だという。



九条は彼に対するいじめと


その卑怯な行為が許せなくて


島袋と一緒に残ってチェックしてあげたという訳だった。




久保田先生もいじめの存在に気づいていたが、


ここで日直のルールを変えてしまっては


他のどんなルールも



「果たせなければ破っていい」



と生徒に示してしまうようなものだし、


いじめの問題は


生徒同士の「気付き」で解決してほしかったらしく


ある程度までわざと介入しないように心を決め、


クラスメイトがどう動くか待っていたのだそうだ。



そんな中、九条が、


久保田先生が怖くて


一人で先生に訴えることが


できないでいる島袋を気にかけて、


今一緒に報告しにきた、



これが話の大筋だった。





その話を聞いて、俺は自分の高校時代を思い出してしまった。




俺も高校の頃、


クラスで起こったある事件の加害者と間違えられて、


クラス中からいじめられたことがあった。


あの時は、本当につらい思いをした。


何より誰も俺の意見を聞いてくれる人がいなかったのが一番辛かった。


結局しばらくして真犯人が見つかって


陰湿ないじめは終わったが・・・。






そこまで思い出して、


俺は自分の目の前の机の上に


やらなければならない仕事が並んでいることを思い出した。




このペーパーワーク、今日中に終わらせないとな。


外に出て気分転換でもするか・・



俺はイスから立ち上がり


軽く伸びをして、


職員室を後にし、昇降口の外に出た。




お、あれは九条と島袋か・・・??




丁度そこに九条と島袋が立ち止まって話をしていた。


今から下校するところなのだろう。




「ぼくが・・・


弱すぎるから・・・いけないんだよね・・・。


情けないよね・・・」




島袋が自信なさそうにそう言うと


それに対して、九条が言った。



「そんなことない!

島袋は、優しくて強いよ!


嫌な思いしても、きちんと学校に来てる。


そして、嫌なことされても


同じことをしてやり返さない。


それって、強くないとできないよ。


私が島袋だったら・・・


そんなに強くなれないかも。



その声は確信と優しさに満ちていて


島袋を笑顔にした。



「ありがとう。そんなこと言ってくれるの


九条くらいだよ。」



「ね、ちょっとだけお茶して帰らない??」



九条は島袋の腕に手を回すと


気持ち強引に引っ張るように


校門を出て行った。





2人の会話の一部始終を見た俺は・・・




九条の優しい正義感に


グッと来てしまっていた。





俺にもあの時、


九条のようなクラスメイトがいてくれていたら・・。




気分転換に来たつもりが


また自分の高校生時代を思い出しそうになっていた。




イカン、イカン!



俺が今やらなきゃいけないこと!!


それは仕事を終わらせること!!



俺はそう自分の頭に言い聞かせて


職員室へ戻った。






翌日から、俺は・・


九条を見かけると


知らず知らずの内に、目で追ってしまっていた。



九条を「生徒」としてではなく、


「一人の人間」として見始めていたのだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――



1学期も終わり、夏休みがやってきた。


この翔陽高校は文化祭に力を入れていて


毎年、生徒は夏休みにもかかわらず、


学校に何度も集まって文化祭の出し物の準備をする。



太陽がかんかんと照りつけ、


蒸し暑く、体温と同じような気温のある日のことだった。


こんな日はクーラーを効かせた涼しい室内で


読書でもしていたいところだが、


俺はだるい体をひっぱって学校に来ていた。


その日は俺の勤務日だったからだ。




この退屈な夏休みの出勤日に


まさか九条を


「女」として意識してしまうことになるとは


俺は思ってもいなかった。




太陽が真上にきた正午ごろ、


俺は、生徒たちが危ないことをしていないか、


御近所にご迷惑をかけていないか確認するために


学校の周りを見回っていた。


特に問題はなく、見回りを終え、


校門に入ると


ちょうど1Aの生徒が


昇降口から外にぞろぞろと出てきた。


夏休みだから、みんな私服だ。



教室内は蒸し風呂だっただろう


全員汗まみれだった。



その集団の中に九条もいた。




太陽が照りつける中、だるそうに校門へ向かって歩いてくる1Aの生徒。


昼の買い出しにでも行くのだろうか?



すると突然、その集団の中にいた中井康介が横に飛び出し


水道まで走っていくと、


花壇用のホースが付いている蛇口を目いっぱいひねった。




するとホースの先から水が迸り、


中井はそのホースを手にして


その生徒の塊に向かって水を浴びせた。




その途端、


固まっていた集団が


蜘蛛の子を散らすように散らばった。




「きゃーっ!!!」


「康介ーっ やめろーーーーーーっ!!!」




みんな嫌がっているのか喜んでいるのか


わからない声を上げた。





そのにぎやかな集団の中から


九条がぴょこんと飛び出してきた。



彼女は白いフワッとした女性らしいシャツに


下にはデニムのショートパンツを履いていた。




九条は濡れるのを本気で嫌ったらしく


ちょうどおれの方向に向かって走ってきた。




しかし、中井は集団から1人遠くに離れていく


九条を見逃さなかった。




彼はホースの口を上向きにして


逃げる九条に狙いを定め、


口を指先できゅっと締め上げるようにした。




すると・・・・




一縷の水がアーチを描き・・・




水の束が九条の頭上に見事に命中した。




「きゃっ!!!」



バシャッと無数の水滴が飛び散った後・・・・





俺が見たのは・・・・


まるでグラビアページから出てきたような女性だった。





彼女の長い黒髪は水を滴らせるほど濡れ、


白いシャツが濡れてぴったりと肌にまとわりつき、


彼女の華奢な腰や腕、


そしてその華奢な部分とは対照的な


胸のふくらみを強調した。




透けて見える薄い水色の下着が


そのふくらみを覆っている。





男は・・・


視聴覚に訴えるものに弱い、


なんて単純な生き物なんだろう。




九条のその姿は


下手なグラビアアイドルより


遥かに淫らだった。





俺は思わず


ごくり・・・と生唾を飲んだ。






「うぉー!!



九条、マジエロ!!!」



集団の中の男子生徒の一人がそう声を上げると




九条は


やっ・・・!!!


と小さく悲鳴をあげて


胸を両腕で隠し



「中田ってば、もういい加減にしてよーっ!!!」



と叫んで小走りに昇降口方に戻っていった。






一瞬見た九条の艶めかしい姿・・・





俺は呆然と立ち尽くしてしまった。



いや。俺だってもう30過ぎた大人の男だ。


女性のあられもない姿を


写真や実物で見たことは何度か(も?)あるから


そういう姿にも免疫はあるつもりだ。




でも、さっき九条が見せたあの姿は


俺を意外なほど戸惑わせた。



学校でそんな女性の姿を目撃することになるなど


予想すらしていなかったからかもしれない。



もしくは恥じらう九条の姿に萌えたのかもしれない。




いずれにしろ、さっきの九条の姿は


俺にとって、新鮮で衝撃的で・・・・。




目に焼き付いてしまい、離れなくなった。








夏休みの間、


家でボケッしている時に


彼女のその姿が


頭に不意にぼや~っと浮かんでくることがあった。


その画のぼやけた陰影が


目の裏で鮮明になりそうになる度に、


俺はいつも懸命にそれを押しとどめていた。



九条のその姿が頭に浮かぶだけで


俺は罪悪感を覚えた。




相手は生徒の一人なんだぞ。


そして・・・


俺は・・・あいつの教師だ。





頭と心にそう言い聞かせてみるものの、


しかし、男の本能や欲望は想像以上に手ごわく、


俺は、その度に


DVDや読書の力を借りて


なんとかその闘いをやり過ごした。






そして、そんなことをしている内に


夏休みが終わりに近づき、


俺の頭に九条のあの姿が浮かんでくることはなくなってきていた。




続く


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ありがとうございます。