2型糖尿病の最前線についての講演会報告の完結編です。

   順天堂大学大学院 前教授である河盛隆造先生の “新しい DPP-4 阻害薬の位置付けは?” の最終回です。 糖尿病は治療に難渋する病気と言われます。 2006年ハイネ Heine RJ の報告によれば、HbA1c と罹病期間との相関をみると現状の段階的アプローチによる治療では病気の進行をくい止めることは困難です。 そこで、河盛先生は治療早期からインスリンを用いて先ず HbA1c 及び血糖を正常化し、膵β細胞からの内因性インスリン分泌を回復させることの重要性を強調されています。

   2011年レイマーズ Lamers D. の報告によれば、DPP-4 はメタボリック症候群の病態に密接に関連する悪玉アディポサイトカイン adipocytokine の一つであり、脂肪細胞や骨格筋細胞でインスリン抵抗性を惹起します。 一方、DPP-4 は 766 個のアミノ酸からなる糖蛋白で、全身の上皮細胞・血管内皮細胞・リンパ球表面に発現し、80個の基質を有して多彩な作用を発揮しています。 特に、心血管系への悪影響や肝細胞での炎症と線維化に関与していることが分かり、その阻害の大切さが注目されています。

   2006年ドラッカー Drucker DJ の報告によれば、腸管の L 細胞から分泌された GLP-1 は門脈に入ることで迷走神経反射を介してインスリン分泌を高め、グルカゴン分泌を抑えてインクレチン効果を発揮するのです。 門脈内 GLP-1 による迷走神経を介した肝膵反射の存在を世界で最初に報告したのは金沢大学の中林 肇先生(Nakabayashi H. 1996) で、今もこの論文の引用が絶えないのです。 インスリン同様、皮下注射では門脈内濃度を上げることは困難で、内因性分泌が重要なのです。

   本来、門脈内のインスリン・グルカゴン・ブドウ糖の比率が肝臓による糖の取り込み率と放出率を決めています。 食後高血糖を無くすには、門脈内のインスリンが増え、グルカゴンが減って肝臓が糖を取り込むことが必要です。 軽度の食後高血糖を放置すると膵α細胞のインスリン受容体に機能異常が起こり、グルカゴンの過剰分泌を制御できなくなるのです。 膵α細胞特異的インスリン受容体欠損マウスの実験で、内因性インスリン分泌の低下がグルカゴンの暴走の引き金であることが判明したのです。