不良債権の重圧で二進も三進も行かないスターリニスト中国のゾンビ企業群――口先だけのその整理は、ついにはかばかしい成果も進捗もないまま、年を越す。
 ただ一部には救済のための禁じ手も、スターリニスト当局は繰り出した。

 

非効率経営で借金累増でもも国有銀行の「輸血」で生き残るゾンビ企業群
 ゾンビ企業は、非効率な経営で毎年多額の赤字を出し、借金を累増させる一方、再建の目処が全く立たない企業だ。日米欧の自由主義国では、銀行が資金を引き揚げるから、そうした企業は資金が回らず、支払いに窮して倒産、淘汰される。
 ところが共産党一党独裁の中国では、そうならない。すべてのゾンビ企業が国有企業で、破綻・整理させれば、失業者が街に吐き出され、地方経済にも悪影響が及ぶ。管轄する地方政府にすれば、看過できない。
 それをいいことにゾンビ企業は、今日も明日も、国有銀行から「輸血」を受けて操業を続ける。

 

設備・生産過剰の鉄鋼業に救済策
 今回、当局が救済シナリオを描いたのは、全国の施設の半分が余剰とされる鉄鋼メーカーの1つで、宝山鋼鉄と統合する予定の大手の武漢鋼鉄だ。
 武漢鋼鉄とメインバンクの国有大手の中国建設銀行と進めるのは、「債務の株式化」である。企業の借金を株式に転換する財務手法で、破産などの法的整理をせずに企業は借金を減らせ、財務内容を改善できる。
 この手法自体、日本も含め、欧米でも使われるが、問題は、立て直しの見込みのない構造不況業種で赤字を垂れ流し続ける企業が、一時逃れのために借金を「株式化」することだ。

 

生産設備2割削減でも焼け石に水
 今回の武漢鋼鉄と中国建設銀行の構想では、両者で基金を創設し、武漢鋼鉄は建設銀の借金を基金に移し、一部を株式に転換する。武漢鋼鉄側は借金を減らせ、建設銀も不良債権を見かけ上は減らせる。
 武漢鋼鉄がこの手法に踏み切るのは、まだ健全な同じ国有の宝山鋼鉄の負担を減らすためだ。この株式化で身軽になった武漢鋼鉄は、それで粗鋼生産能力を2割削減する。
 しかし前述したように、スターリニスト中国の粗鋼生産能力は約4億トン分、全生産能力の半分が余剰とされているのだ。余った余剰生産能力で、赤字であっても操業を続け、日銭稼ぎに年1億トン以上も海外に飢餓輸出しているのが、今の中国鉄鋼業界である。
 武漢鋼鉄が2割削減したところで、抜本的解決にならないのは明白だ。

 

2度目の「債務の株式化」狙うゾンビ企業も
 他のゾンビ国有会社も、債務の株式化を目指している。その1つの雲南錫業もそのつ1つだが、この会社は過去にも債務の株式化を行った。それで一息ついたが、その後も赤字を垂れ流し続け、またしても債務の株式化を狙う。まさにゾンビ企業である。
 そうして無価値な株が国有銀行に溜まり、国有銀行も不良債権が膨らみ続ける。
 民主主義国と違い、中国は共産党一党独裁国家である。習近平が、ゾンビ企業を一掃しろ、と一声かければ、片が付くはずだ。しかしその習近平も、断行できない。ハード・ランディングの衝撃が怖いのだ。

 

膨らみ続ける民間債務と不良債権
 BIS(国際決済銀行)によると、中国の民間債務の対GDP比率は、16年3月末で209.8%となっており、これは氷山の一角でもある。それでも、リーマンショック時の08年9月末の115.7%から2倍もの高水準に達しているのだ。これは、世界のどの国よりも高い(16年10月13日付日記:「中国国営企業の抱える巨額不良債権は世界経済の最大の懸念材料に」を参照)。
 しかし巨大なダムにも、不良債権という堆砂が溜まりつつある。
 小さな亀裂から巨大なダムも一斉に決壊するように、ある時、共産党一党独裁中国の国有銀、国有企業が一斉に破綻する日が来るだろう。

 


 写真は、クリスマス間近の都内で見かけたイルミネーション(本文とは関係ありません)。

 

昨年の今日の日記:「フィンランド(超短期)紀行4;ヘルシンキ大聖堂の立つロシア皇帝・アレクサンドル二世像の違和感」