13日、トランプ次期大統領が最重要閣僚である国務長官にレックス・ティラーソン氏(写真)を指名したことで、アメリカのトランプ次期政権の骨格が固まった。

 

 

国務長官に外交素人の石油メジャーCEOのティラーソン氏
 指名されたティラーソン氏は、外交官経験がないビジネスパースンで、氏の国務長官指名で、トランプ次期政権の性格がはっきりした。
 まず外交素人のティラーソン氏がそうであるように、そしてトランプ氏本人がビジネスパースンであるように、ビジネス関係者が多数、起用されている。
 その顔ぶれを見ると、この政権が現オバマ政権ははっきりと一線を画したプロビジネス(親大企業)政権であることが明確になる。
 ティラーソン氏は、石油メジャー、エクソンモービルのCEO(最高経営責任者)なのである。

 

 財務長官は、ウォール街のゴールドマン・サックス出身のスティーブン・ムニューチン氏だ(写真)。
 この名前から想像されるように、ムニューチン氏は曽祖父がユダヤ系ロシア人で、曽祖父のアメリカ移住がロシア革命1年前であったことから、敗勢著しかった帝政ロシアの反ユダヤ主義に絶望して新大陸に逃れた移民の子孫である。
 ゴールドマン・サックスの幹部を務めたことからも分かるが、大富豪でもある。

 

次期国務長官ムニューチン氏はプーチンと旧知
 アメリカ外交を仕切る国務長官にティラーソン氏が起用されたことから、トランプ次期政権が親ロシアであることもまたあまりにもはっきりした。
 エクソンモービルの最高経営幹部であるティラーソン氏は、石油閥に連なる大統領プーチンの知己であり、2013年にはプーチンからロシア友好勲章まで授与されている(写真=ロシアでのエネルギーキャンペーンで受賞し、プーチンと握手するティラーソン氏=2012年6月、ぺテルスブルグで)。

 


 財務長官のムニューチン氏が亡命ロシア人の子孫であることからも、対ロシアの政経外交は、氷河期まっただ中の現オバマ時代から大きく変貌するだろう。

 

共和党内にもティラーソン氏の親ロシア姿勢に警戒感
 ただしあからさまな親ロシア姿勢は、来年の上院での国務長官承認に不透明感ももたらす。
 民主党議員には反ロシア派が多いうえ、共和党にも親ロシア色には警戒感が漂っているからだ。実際、オバマと大統領選を争ったことがある共和党重鎮のマケイン上院議員は、「プーチンと個人的に関係の深いことが懸念」と言い、共和党大統領候補予備選でプーチン氏と争ったルビオ上院議員も「驚いた」と疑問を呈している。

 

ゴールドマン・サックス出身はぞろぞろ
 さらにアメリカの経済政策の司令官である国家経済会議(NEC)委員長は、ゲーリー・コーン氏が就くが、氏は、ムニューチン氏と同じゴールドマン・サックスの関係者で、現職の社長兼最高執行責任者(COO)である。
 ゴールドマン・サックス出身者は、他にもいる。右派のインターネットメディアの経営者として知られ、主席戦略官・上級顧問となったスティーブン・バノン氏も、海軍を退いてからゴールドマン・サックスで働いていた。

 

労働長官には最低賃金引き上げ反対者のハンバーガーチェーンCEO
 ゴールドマン・サックス出身ではないが、投資家・元銀行家のウィルバー・ロス氏は経済畑出身である。知日派で日本での投資経験もある氏は、商務長官に就任する。
 さらに労働長官に決まったアンドルー・バズダー氏は、ハンバーガーチェーン大手カールスジュニアなどの運営会社「CKEレストランツ」のCEOだ。ハンバーガーチェーンの経営者だけにバズダー氏は、オバマ政権の進めてきた最低賃金引き上げ政策に反対している。

 

大富豪揃いで支持基盤となったプアーホワイトとは真逆
 トランプ氏を押し上げたのは、中西部などのプアーホワイト(貧困白人層)であったことは衆目の一致するところだ。
 しかし上記の経済閣僚・顧問などの顔ぶれを見れば、彼らが途方もない大富豪であり、トランプ氏を押し上げたプアーホワイトなどには目もくれそうもないことも、またはっきりしている。
 プロビジネス(親経済界)であるトランプ氏の演じたマジックに、貧困層は見事に踊られたと言えそうだ。
 アメリカの株価がトランプ氏当選後に跳ね上がり、連日、史上最高値を更新しているのも、また当然である。

 

もう1つの人脈=軍人
 トランプ次期政権のもう人脈は、軍人である。
 国防長官は、元中央軍司令官で、海兵隊大将のジェームズ・マティス氏だ。
 国内でテロ対策を仕切る国土安全保障長官のジョン・ケリー氏は、海兵隊退役大将である。
 そして国家安全保障担当補佐官のマイケル・フリン氏は、前国防情報部長で、イラク戦争とアフガニスタン戦争に従軍している。この経歴からも分かるように、徹底したムスリム嫌いで、これがもとでオバマ政権の中枢と大喧嘩し、2014年に国防情報部長の職から追われている。
 外交素人のティラーソン氏に代わって、フリン氏が安保外交を取り仕切るのだろう。

 

シリアではアレッポがロシア支援のアサド政権軍によって制圧さる
 問題は、またしても対ロシア外交である。ちょうどティラーソン氏の国務長官決定を祝すように、13日、シリアでプーチンの軍事的支援を受けるアサド政権軍が、北部の大都市アレッポを制圧した。
 アレッポは、ISIL(自称「イスラム国」)ではなく、反アサド・反ISILの反体制派が支配してきた街だ。そこをアサド政権軍が制圧した。
 さっそく人権団体は、アレッポで多数の女性・子どもを含む虐殺死体の存在を告発している。さらにアレッポでは30~50歳台の男性がほとんど行方が分からなくなっているとも伝えられている。反体制派の戦闘員だった可能性があるこの層はうまく逃げられなかったとすれば、アサド政権軍に虐殺されている可能性が大だ。

 

習近平の渋面とプーチンの高笑い
 そのアサド政権軍を苛烈な空爆支えたのが、ロシア軍である。
 新たなトランプ次期政権は、スターリニスト中国には強硬姿勢で臨むだろうが、ロシアに対してはヨーロッパとの経済制裁から抜ける可能性が高い。
 ロシアの侵略の圧力を受けているウクライナとバルト3国は、今、不安いっぱいだろう。これら旧ソ連の国民がアメリカ恃むに足らず、と思えば、一転してロシアにすり寄るようになる懸念もある。
 習近平の渋面とプーチンの高笑いが聞こえてきそうである。

 

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