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 ハイテク産業に不可欠なレアメタル、レアアースの不足が話題になって久しい。過去に別ブログで何度かこれらの稀少金属や希土類の戦略的重要性を述べてきた。これらの主要産地である中国が、最近、輸出統制を強めていることでもあり、精錬各社はリサイクル事業にいっせいに走っている。

5億トンの埋蔵量も残りあと僅か
 ところでレアメタル、レアアースではなく、ありふれたような金属と思われる銅に、将来の深刻な不足が待ち受けていることはあまり知られていない。
 深刻な不足が憂慮される要因は2つ。まず絶対量の不足である。世界の銅の可採埋蔵量は金属換算で約5億トンと言われていて、銅価格の高騰と探査努力に伴い可採埋蔵量は増えてはいるが、今の同量の年間1500万トンずつ掘っていても、あと30年ちょっとで掘り尽くしてしまう(写真上はアメリカ、ユタ州のビンガム銅山)。
 問題は第2の要因である爆発的な消費量の伸びが、今後予測されことである。前記のように現在の年間の銅消費量は1500万トンだが、今後、中国とインドという巨大新興国の需要がオンされてくる。
 銅は、送電線のみならず、IT機器に不可欠な金属で、経済が発展すればするほど、急カーブで増える性格を持つ金属だ。高度なIT社会である日本やアメリカの1人当たり年間銅消費量は約10キロ程度で、これから大きくは伸びないと思われる。

中印両国の消費量は先進国の10分の1前後
 しかし中国、インドなどは違う。例えば中国は、革命直後の1950年でこそ1人当たり年間銅消費量は0.01キロ程度だった。これが70年には0.22キロと1桁上がり、開放改革時代になると急カーブの消費増となる。90年は0.45キロ、2000年は1.53キロと増え続けている。2010年の統計は知られていないが、10年前より倍増しているのは間違いない。遠からず日米並みの10キロに到達するだろう。人口は日本の10倍もあるので、これは銅資源のガブ飲みに近い。
 もう1つの人口大国のインドも、中国の後を追っている。2000年の1人当たり年間銅消費量は中国のまだ6分の1の0.24キロだった。今年は1キロを超えていることは間違いあるまい。
 中国とインドの人口を合わせると、約23億人だ。もし数年後に現在の日米並みの消費量になったら、これだけで現在の世界全体の年間消費量を超える2300万トンの需要が付け加わる。

かつての世界最優良の別子銅山でも品位は約2%
 ところで銅は、6月26日付日記で述べた鉄と違って、極めて偏頗な埋蔵分布を示す(鉄については「鉄鉱石の高騰で思う鉄の形成の宇宙史と地球史:核融合反応、恒星、シアノバクテリア、ストロマトライト」を参照)。
 通常は、正規分布曲線のように品位の高い(つまり金属成分濃度の高い)ものから低いものにかけて、釣り鐘を伏せたような分布をする。当然、人類は高品位の鉱石から、すなわち正規分布曲線の端から採掘してきた。
 そのうち高品位の鉱石を掘り尽くすと、価格高騰するから低品位の鉱石も採算に合うようになり、そちらに採掘の中心が移っていく。鉄鉱石は、まだ高品位の鉱石を掘り尽くしておらず、膨大に存在する釣り鐘の頂点に当たる低品位鉱石に手をつけざるをえなくなるまで余裕が十分だ。
 ところが銅は、そうでもないようなのだ。例えば江戸時代、日本は世界一の産銅国で、金属換算で年間6000トンも産出していたが、主力となった別子銅山の銅鉱石の品位は約2%であったと言われる(写真下=別子銅山の東平貯鉱庫。世界遺産登録の動きがある)。鉄鉱石では70%の品位が普通だから、銅ははるかに鉱石の含有率が低いことになる。
 別子銅山のような高品位の銅は、今は掘り尽くされ、現在、世界の商業生産の対象となっている銅鉱石の品位は、1%前後だ。

銅の枯渇まであと15年弱……
 こうした濃度の薄い鉱石を純度100%に精錬するには、膨大なエネルギー投入が必要となる。そして濃度が薄くなればなるほど、そのためのエネルギー投入量は加速度的に増えていく。エネルギー価格の高騰もあって、ついには採算に合わない限界点に達する。それが、0.7%ほどだという。
 その0.7%の所まで、実はあとわずか、前述のように30年なのだ。そこに中国・インドの需要が加わると、15年以下に短縮されてしまう。
 採算を度外視するか、貴金属のようにいくら高くてもかまわないとなれば、海水中に含まれている銅を採取するなどいくらでも採れるだろうが、工業製品の資材である銅に、それが可能だろうか。
 だから、銅は今後も値上がりしていく。実際、国際的な銅相場は、高値を続けている。中国が、金にあかして政策的に銅地金を備蓄中だからだ。むろん中国の狙いは、将来的な需要増に備えてのことだ。カネがうなるほどある人なら、すべての資産を銅地金に投じれば、将来巨額な利益になるだろう。

江戸時代、世界一の産銅国日本は世界一の銅輸出国だった
 銅のリサイクル利用の必要性が、ここにある。中国に買い占められても、ビクともしない体質を備えるには、都市鉱山に埋蔵されている銅の回収技術システムの確立が絶対に必要な段階にあるのである(都市鉱山については、文末の過去日記参照)。
 最後に、トレビアンな豆知識を1つ。前述のように、江戸時代の日本は世界一の産銅国だったが、産銅量6000トンのうち1000トンほどを中国を通じて輸出していた。それは、南蛮貿易を通じてヨーロッパにまで運ばれていたという。世界の銅需要の3分の1ほどを日本が生産していた、という推計がある。
 それが今や国内生産量はゼロで、100%輸入である。世界の産銅量の8分の1前後を消費している。銅がいかに偏った資源であるか、そして枯渇したらどうしようもないことをお分かりいただけるだろうか。
 工業国、IT国家として、日本は極めて脆弱な体質にあるのである。

昨年の今日の日記:「『蟹工船』ブームでもお先真っ暗なもう1つの惨敗党の共産党:小選挙区、社民主要打撃論」