kawanobu日記/ビル・ゲイツ氏が私財を投じるという「夢の原発」TWRとは:東芝、軽水炉、劣化ウラン 画像1

常識を越える次世代の原子力発電炉(TWR)計画が明かされた。3月23日付日経新聞が1面トップですっぱ抜いた(写真)。原発の世界のトップメーカー東芝と、マイクロソフト創業者で著名な社会的投資家ビル・ゲイツ氏のジョイントである。ゲイツ氏は私財数千億円という巨額の開発資金を出してアメリカの原発ベンチャー企業「テラパワー」を支援し、東芝は自社開発中の小型原発の技術をテラパワー社の技術と融合するという。

核燃料を交換せず、最長100年もつ
 これまで「夢の原発」と騒がれた高速増殖炉などがことごとく頓挫してきた原発開発史を振りかえれば、まだ海の物とも山の物とも分からないTWRに俄に期待できないが、もし実用化されたら、世界のエネルギー事情は一変する可能性を秘める。
 これが報道されると、さっそくその日の東京株式市場で東芝株が値を上げ、売買高トップの大商いになった。それも当然で、株式市場は夢を買う所だから、その夢に素直に反応したのだろう。
 では次世代TWRは、これまでの軽水炉と違って、どの点が画期的なのだろうか。
 同紙記事によると、TWRは、核燃料を交換せず、最長100年も運転できるという。1度核燃料を装填したら、その後の交換が不要だから、交換のために長期間の運転停止をする必要がないし、原発の悩みのタネである使用済み燃料の処理・処分も必要ない。核燃料は原子炉内でゆっくりと、さながら蝋燭のように「燃える」ので、制御棒も要らない、したがって核分裂反応を制御する制御棒も不要なのだという。故障が少ないことが期待される所以だ。
 こうなると、原子力技術の蓄積のない途上国でも運転でき、廃棄物を取り出さないので核拡散の恐れもない。イランに、もう核開発の口実を与えないで済む。

燃料はゴミである劣化ウラン
 先進国にとっても、画期的だ。燃料に劣化ウランを使うので、廃棄物とされていた劣化ウランを転用できるからだ。詳しい理由は後述するが、だから核燃料交換の必要がないのである。
 それにしてもTWRとは、初耳だった。英語版にはあるが、日本版ウィキペディアにも載っていない(これを書いたのは、報道直後だったが、昨日、アクセスしたら日本語版でもさすがに短く載っていた)。そもそも、それは何物なのか?
 TWRとは、「Traveling Wave Reactor」(進行波炉)の略である。一報を報じた日経新聞も、何の略なのか書いてはいなかった。命名の理由は、ゆっくりと波が伝わるように燃料生成と燃焼が進行していくかららしい。
 画期的であり、それゆえに燃料交換不要などの管理のし易さの根本的理由は、従来の軽水炉原発と異なり、前述のように燃料にウラン235を濃縮した後に残された廃棄物の「劣化ウラン」を用いることである。

運転中に核燃料が生成されていく
 世界の原発のほとんどは、天然ウランから核分裂しやすいウラン235を3%程度に濃縮した濃縮ウランを燃料に用いる。もともと天然ウランにウラン235が0.7%程度含まれているのだが、それを3%にまで濃縮するので、「残りカス」となったウランには、「燃える」ウラン235は0.2%程度しか含まれていない(だから「劣化ウラン」と言う)。
 残りの99.8%は、「燃えない」ウラン238だ。これを弾頭に用いると、鉛の2倍ほども重いだけに、爆発はしないけれども、物理的破壊力は極めて強い。それが、アメリカがイラクで使った、放射性障害をもたらす危険を指摘される「劣化ウラン弾」である。
 つまり兵器しか使い道のなかった廃棄物が、TWRでは燃料になるのだ。もちろん「点火剤」として最初はウラン235は必要だが、後は1回の核分裂で2~3個放出される高速熱中性子を「燃えない」ウラン238が捕獲し、不安定なウラン239になる。これはすぐに崩壊して、同様に不安定なネプツウム239とβ放射線に変わる。さらにそれが崩壊して、核分裂性のプルトニウム239となるのである。
 つまり運転中に次々に核分裂性の(つまり燃料となる)プルトニウム239が生成され、これが核分裂してエネルギーと熱中性子を生成し、その中性子が再びウラン238をプルトニウム239にしていくわけだ。

冷却材のナトリウム管理と耐性素材の開発が課題
 この意味では、冷却材にナトリウムを用いる点も含めて、高速増殖炉と似ている。ただし高速増殖炉が用いる燃料は天然ウランであり、この点でTWRは異なる。
 もしTWRに隘路があるとすれば、冷却材のナトリウムの管理であろう。ナトリウムは、非常に反応性が高く、高速増殖炉「もんじゅ」が長く野ざらしになっているのはナトリウム漏れを起こし、大事故につながる恐れがあったからである。ただしTWRは、高速増殖炉よりずっとシンプルな設計である。
 このようにいったん劣化ウランの同238を装填すれば、それがすべてプルトニウム239に変わって燃え尽きるまで、燃料交換も不要ということになる。原理的に100年もつというのも、核分裂によって「燃焼」と同時に燃料「生成」が同時に起こっているからだ。
 ただし100年間も中性子にさらされても劣化しない耐性の原子炉用素材の開発が不可欠になる。これもまたTWRの不確定要因の1つである。

ゴミの劣化ウランが生み出す9000兆円の電力
 だが、それを補ってあまりある「夢」はつきない。
 劣化ウランは、放射性を持つ困り者、つまりゴミとして、世界中のウラン濃縮施設にため込まれている。これが、一挙に核燃料に変わるのだ!
 この技術開発をしている原子力ベンチャーのテラパワー社の試算では、それをTWRで燃料にできれば、100兆ドル(約9000兆円)相当という途方もない電力を生み出せるという。事実上、無尽蔵と言える核燃料である。
 ゲイツ氏が巨額の私財を投じるというのは、氏の動物的嗅覚で、この次世代原発が地球温暖化対策の切り札になると嗅ぎ取ったからだろう。運転管理がシンプルで容易であるために、途上国にも設置できる。
 テロリストの破壊活動に対する防護は必要だが、原爆材料としてプルトニウムがテロリストに流れる恐れもない点も優れている。
 「夢」で終わって欲しくない原発である。