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 この人たちが、日航(JAL)をダメにしたのだな、とテレビで記者会見するOBの顔をしげしげと観察してしまった。
 鼻髭を蓄えたり、しゃれたカジュアルな服を着込んだり、一般の貧しいシルバー層と異なる人たちが、「年金は、私たちの大切な生活費。生活を守るために、減額されれば提訴する」と訴えても、後述の高額年金を知れば、ちっとも心に染みてこなかった(写真)。

現役社員、冬のボーナスは支給ゼロ
 年金減額は財産権の侵害だと、5日、カメラの前で述べ立てる日航OBの画面が流れた翌々日に、JALは8つの労働組合に、今冬のボーナス支給の見送りを提案した。夏の一時金支給の労使交渉で、賃金1.05カ月分プラス2万円で合意されていた内容の白紙撤回である。
 会社側に協力的な主要な労組(JAL労組)以外の7組合は、普通ならストをかまえて会社提案を撤回に追い込むのだろうが、7組合ともJAL経営陣はもはや当事者能力を失っているとみなし、しぶしぶながらボーナス・ゼロを受け入れる模様だ。それに、この局面でストを敢行したら、世論の袋叩きに遭うだろう。
 半ば倒産した企業とは、そうしたものなのである。
 10月半ば、「JAL再生タスクフォース」が試算したJALの債務超過額は少なくとも2500億円(!)という。資産劣化が急速に進んでいるから、今は3000億円に近づいている可能性がある。年末にかけて、資金ショートの可能性すら囁かれる。
 こうした状況では、公的機関である「企業再生支援機構」の支援下で、再建を期すしかないだろう。

公的資金での救済はやむなし……
 だからボーナス・ゼロは、ほんの序曲にすぎない。今後、JALの現役社員には厳しいリストラが待ち受け、うまく会社に残れた社員も給与の大幅減額は不可避だ。住宅ローンの返済に困る人も出てくるだろう。
 もはやパイロットも、ハイヤーでの送迎は望めまい。
 そうした見通しにあって、今日の債務超過のダメJALを残したOBだけが、年金で優遇されるのは、筋が通らない話である。
 本来なら、アメリカのGMのように、JALも民事再生法か会社更生法の適用で倒産、しかる後に新社で再建、の道を歩んで、当然である。GMは、これにより年金債務などのレガシー・コスト(負の遺産)の負担から脱却して、再建の道を歩み始めているのだから。
 前原国交相が、JALを法的整理にせず、企業再生支援機構支援としようとするのは、24時間、世界のどこかで飛行機を飛ばしているからだ。仮に法的整理となった場合、海外滞在中のJAL利用者を大混乱に巻き込む恐れがある。それでなくとも、すでにJALの航空券を買った人、JALのツアーを利用する人たちが、「飛ばない」リスクにさらされているのだ。
 その点で、メガバンクをつぶせず、公的資金で救済せざるをえないのと同じ困難さがある。JALに法的整理を適用しないのも、やむをえない、とも思える
 しかし企業再生支援機構の支援となれば、我々の税金が間接的に投入される。それでいて、OBの厚遇年金をそのままにしておいてよいわけではあるまい。
 世論の批判を受けて、所管の国交省は、公的資金を投入してJAL再建を促す特別立法を行うが、年金減額を強制的に実行させる趣旨の特別立法を行う腹を固めたと報じられた。
 おそらくこの線に沿って、これからJAL再建策が進むだろう。

標準受給者で年金額は年間583万円!
 では、問題のOBの年金額とは、いかほどのものなのか。
 まずマクロ的に見ていこう。JALの退職給付債務は、09年3月期で8009億円もある。うち3314億円が積み立て不足になっている。だから厚遇年金をこのまま給付し続ければ、おそらく3000億円ほどに達する公的資金を含めた支援は、そのままそっくりOB年金に化ける勘定になる。それでは、世間の納得を得られないというのが、財務省や国交省の考えだ。
 標準OBのモデルケースを紹介しよう。これを見て、私もさすがに唖然としたのだが、モデルケースは高卒を対象としている。大卒やパイロットはさらに高い、と考えられる。
 それによると、勤続42年(1965年生まれ、18歳入社、60歳退職)で、65歳以降の年金支給額は、企業年金(これが巨大)、基礎年金、厚生年金を合わせて月48万6000円、年額583万2000円にもなる(!)、というのだ。ライバル全日空の倍、と言われているこれが、厚遇年金の実態である。
 今、子どもを抱えた現役勤め人で、年収583万円を得ている人たちは、どれくらいいるだろうか? ちなみにこの日記を読んでおられる勤め人の方で、この年収を得ている方はいらっしゃるのか。
 子育てを終え、夫婦だけで暮らすOBがこれだけの年金を受給して、「私たちにも生活がある」と、どの顔をして強弁できるのかと、強欲ぶりには白けるばかりだ。
 実態を知った国交省が特別立法で減額やむなし、の腹を固めたのも、当然である。そうしないでJAL救済に動けば、メディアが厚遇年金をもっと大きく取り上げ、クロ鳩政権は一気に人気を失う、と恐れたに違いない。