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 今日あたり、マリナーズのイチローは自己最多新の26試合連続安打記録を達成しているだろうか。この日記を書いている昨日の晩現在、自己最多タイの25試合連続安打を記録している(写真=対オリオールズ戦の第1打席で左中間二塁打を放ったイチロー)。25試合連続安打は、07年5月7日から6月1日にかけて達成して以来2度目だ(マリナーズの球団記録でもある)。
 WBCにフル出場して極度の緊張感にさらされたせいか、故障者リスト入りして開幕から8試合欠場していたが、復帰すると快調にヒットを打ちまくっている。どこまで連続試合数を伸ばすか、楽しみだ。

日本記録は意外な選手
 一口に連続試合安打というが、これは考えてみればすごい快挙なのである。例えば日本のオリックス時代、世界一の安打製造機であるイチローも、これより短い23試合連続安打を2回(1994年)記録しているだけで、30試合連続には1度も届いたことはない。
 連続試合安打記録が、シーズン通算200安打などよりはるかに難しいことは、途中、1試合でも欠場したり無安打に終わったりすれば、そこで途切れることからも明らかである。例えば4打席すべて四球を選べば、それで終わりだ。また新たにスタートを切らねばならない。
 では、日本の記録ホルダーは誰なのか。調べてみて、意外だった。広島で主に活躍した高橋慶彦が1979年に達成した33試合連続安打が日本記録なのである。ちなみに野球の本場の大リーグとなると、さらに上がいて、41年のジョー・ディマジオ(ヤンキース)が記録した56試合連続が最高だ。イチローは、まだその半分もいっていないのだ。
 生涯打率が .325 のディマジオならなんとなく納得できるが(ただし、それでも奇跡的記録であることは後述)、失礼ながら高橋慶彦の現役時代、俊足で盗塁数を積み上げた打者という記憶はあるが、33試合も連続して安打を打てるほどの好打者ではなかった。
 日本記録を打ち立てたこの年も、高橋慶彦のシーズン打率は .304 であって首位打者になっていない。18年間現役で活躍したが、3割を打ったのはわずか5シーズンで、1度も首位打者のタイトルをとっていないし、最高打率も83年の .305 と、79年をわずか1厘しか上回っていないのだ。

30試合連続安打も難しい
 ここから、この記録は、通算安打や打率、通算本塁打などと違って、かなりの偶然性に左右される記録であることが分かる。だから7年連続首位打者に輝き、 .387 という4割寸前の高打率をマークしたこともあるオリックス時代のイチローも、33試合連続安打に10試合も足らなかったのだ。
 例えば、ディマジオの世界記録である。56試合連続安打は、生涯打率 .325 の記録を残したディマジオならではなのかもしれないが、世界一の好打者イチローが1度も30試合連続に届いていないことからも、相当に頭抜けた記録でありそうなことは推察できる。
 実際、数学的に考えると、これはとてつもない記録である。おそらくメジャー野球があと100年続いても、破られることはないだろう。
 例えば、日本では1人もおらず、メジャーでも1941年のテッド・ウィリアムズを最後に「消滅した」4割打者が、もし今日、大リーグのバッターボックスに立ったとしても、30試合連続安打すら極めて難しいだろうと考える。

ディマジオの記録は神の与えた奇跡
 4割打者とすれば、1試合5回打席に立って(四死球を除くと)2本の安打をコンスタントに打てる大打者だが、たとえ5打数5安打を打っても、翌日に無安打に終われば、再スタートしなければならない点が難しいのである。
 その困難さを、数字で示そう。ある試合に4割打って、次のゲームも安打を打てる確率が4割であるとは限らない。これは、確率論で言う独立事象だから、前の日の確率とは何の関係もないのだ。
 考えやすいように開幕から記録がスタートしたとする。4割打者だから、最初の日に5打数2安打したとしよう(残りの3打数は凡退とする)。すると2試合目にも安打が出て、連続となる確率は0.16だ(初戦ヒット・2試合目安打ゼロの確率は0.24、初戦ノーヒット・2試合目安打も0.24、2試合ともヒットゼロは0.36の確率。ただしこの他に1安打だけとかの場合もあり、確率は微妙に変わってくるが、考えやすいように安打は1試合2本とする)。3試合目もとなると、さらにそれに0.4をかけるから、0.064となる。
 つまり3試合連続というパターンですら、確率はこのように低くなる。
 だから試合を重ねるごとに、確率は一方的に小さくなっていく(好打者は安打ゼロの翌日は、3安打も4安打も固め打ちして、打率を維持している)。10試合連続となると、約0.0001、つまり1万分1の確率である。
 ディマジオの56試合連続安打となると、これはもう桁違いの極小確率となる。概算してみると、10のマイナス23乗。これは天文学か素粒子物理学の世界でしか存在しない数字だ。ちなみに10のマイナス16乗は1京(けい)分の1で、小数点以下に0が15個つく。
 ありえない数字、ということがよく分かる。それだけに3割すれすれを生涯5シーズンしか打っていない高橋慶彦の達成したことがいかに「神業」だったか分かるし、それよりもはるかに好打者だったディマジオにしても、それは「神業」だった。
 現在の地球人口は、67億人余だから、この人たちが全員野球選手になっても誰1人達成できはしないだろう。
 そう考えると、ディマジオの記録はまさに神が与えたもうた奇跡と言える。
 だからイチローがこの記録に追いつくことは絶対にないだろうけれど、関心はどこまで迫れるか、となる。それにしてもただでさえ難しい20試合連続を何度も達成しているイチローとは、何と傑出した安打製造機であることか。