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 1昨日、M証券に勤める友人からすごい話を聞いて、それ本当?、と思わず眉に唾をつけたくなった。
 同社が主幹事証券の1つとして引き受けたソフトバンク2年物普通社債(個人向け)の利率が年5.1%だったというのである。ソフトバンク、そう、携帯や固定電話を使っている方、野球ファンなら誰でも知っているあのソフトバンクである(写真汐留の本社)。その2年物社債が、ジャンク債並みの高利率と聞いて、耳を疑ったのだ。

高金利に購入申し込みが殺到した
 それだけではない。その広告が出ると、朝から取り引きのあるお客さんから購入希望の電話が殺到し、ついにその当日の早々に、その場で売り切れですと断るはめになったというのである。普通は、キャンセル待ちのウエイティングも受け付けるが、今回はそれすら断ったそうだ。
 その電話の後、調べてみようと思ったのは、ジャンク債であるまいし、ソフトバンク債がそんなに高利回りなのか、疑問に思ったからだ。
 調べてみると、本当だった。
 第27回無担保社債(2年物)が、購入単位100万円で確かに年利率5.1%なのである。
 ちなみにあまり金融知識のない方もおられると思うので簡単に説明すると、社債とは会社が資金調達を目標に投資家向けに発行する債券で(国が発行すれば国債だ)、公募、私募、機関投資家向け、個人向け、普通社債、新株予約権付き社債、劣後債などいろいろあるが、毎年2回、利払いされるのが普通で、永久劣後債など特殊な社債以外は、償還期日がやってくると元金が返ってくる。今回のソフトバンク債は、公募の個人向けの普通社債である。ただし発行体が破綻すれば、当然ながら元本全額は返ってこない。その意味では、元本1000万円まで補償される銀行預金とは異なる。デフォルト(破綻)・リスクがあるわけだ。
 ソフトバンク債の話は、電話で別件の連絡でしゃべっていたついでに、四方山話の1つとして飛び出した。当初は年利率の4.5~5.7%、募集金額500億円の予定だったものが、人気があって、最終的に利率は間をとって5.1%、募集額は100億円増額して600億円(6万単位)と決まったのだという。
 募集期間は5月27日から6月9日まで。電話を聞いたのは29日だったから、前々日に瞬間蒸発していたわけだ(したがってこの日記を読んでから、証券会社に購入の希望を申し出ても「売り切れです」と門前払いになるので、念のため)。

いくら低金利時代でも、カネはやはり余っている?
 驚いたのは、高利率もそうだが、朝から客からの購入申し込みを断っていたという超人気の点も、である。
 世の中、不況やらボーナス削減、あるいは4月の完全失業率5.0%(5年5カ月ぶりの5%台乗せ)だのと、景況感は冷え込んでいるのに、いくら高利率とはいえ、600億円もの社債が瞬間的に売りきれるとは――。カネとは、ある所にはあるというが、本当だ。
 それというのも、もちろん破格の高利率だからだ。ちなみに高金利で有名な新生銀行の5年物定期のキャンペーン金利が、年利率1.7%である。3大メガバンクの金利なら、スーパー定期2年物で0.25%と、お話にもならない。
 このソフトバンク2年物社債がいかなる金融商品よりも飛び抜けた、まるで詐欺集団オレンジ共済会の売りまくった「預金」並みの高金利をつけたのは、もちろん理由がある。世間の見方と異なり、ソフトバンクの格付けが低いのだ。
 日本格付け研究所(JCR)の取得格付けがトリプルBで、機関投資家が投資対象にするダブルBプラスをわずかに上回る。世間一般の評価に比べれば、かなり低格付けだ。
 リーマンショック以来、異常な信用収縮で、通常なら投資対象となるトリプルB格の企業でも、今はなかなか起債できない。起債できても、スワップ金利よりかなりの上乗せ金利を求められる。ちなみに、昨日付日経新聞の財務短信に載っていた南海電鉄(JCRでトリプルBプラス)の機関投資家向け第30回無担保社債5年物の利率は1.78%で、スワップ金利より0.75%も高かった。しかし格付けでわずかに南海電鉄より下回るとはいえ、今度のソフトバンク2年物社債は、南海電鉄より3年も短い年限で3%以上もさらに利率が高いのだ。いかに常識外れの高利率であるかが分かる。

売上高に匹敵する有利子負債という財務の脆弱さ
 その秘密は、ソフトバンクの抱える巨額有利子負債にあるのだろう。
 ちなみに四季報最新号を参考にすると、ソフトバンクが積み上げた有利子負債額は、直近でおよそ2兆5000億円(うち長期借入金は約1兆5000億円)。09年3月期の連結売上高約2兆6700億円にほぼ匹敵する。利払い費が年2%としても、毎年500億円も消えていくのである。
 参考のために、同業他社の有利子負債額を挙げると、ソフトバンクより連結売上高が7000億円以上も多いKDDIで7800億円弱、NTTドコモにいたっては5300億円弱で、ソフトバンクの財務の脆弱さが際だつ。もっとも通信業界のガリバーであるNTT本体の連結有利子負債は4兆8000億円弱もあるけれども、ソフトバンクとは売上高も営業利益高も違う。
 格付け会社が、週末終値で株価1735円という「優良会社」であるソフトバンクをトリプルBにしているのも納得できる。わずかだがデフォルト・リスクが心配されるわけだ。もっとも、その格付けなるものも、そもそも怪しい。サブプライムローンを組み込んだ証券化商品を、アメリカの大手格付け会社は最上級のトリプルAに格付けし、みんな焦げ付いたのは、ご存知のとおりだ。
 しかし、それにしてもなぜソフトバンクは、5.1%もの高金利で個人向け普通社債を発行したのだろうか? ソフトバンクほどの規模と信用力があれば、600億円程度なら、大手銀行からはるかに低金利で借り入れできたろうに、と思うのだが。そしてそれをいち早く知って、殺到した個人投資家――。リスクをとるマーケット精神は、死んではいなかった。そう言えば、2大メガバンクが今年初めに募集した長期劣後債も、個人投資家にあっという間に売り切れたという話だ。
 さて、私なら購入するか? あいにく持ち合わせがないけれども、そもそもそんな「美味しい」話は、回ってこないのである。