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 9日の日記で、ABO式血液型と疾病についてエッセイを書き、アメリカ先住民やオーストラリア・アボリジンではO型が圧倒的多数か過半数だと述べ、その理由を集団遺伝学の立場で解説した。ついでに新型インフルエンザと血液型の関係についても、根拠はないが推察を加えておいた。
 さて、それならヒト以外の霊長類ではどうなのか。それを見ていくと、奇妙なABO式血液型構成が浮き彫りになってくる。

チンパンジーはほぼA型、ゴリラはすべてB型
 まず最もヒトに近い類人猿のチンパンジー(写真)では、どうか。彼らにおいては、A型の圧勝である。実に9割をA型が占め、残りはO型だ。B型も(そしてAB型も)見つかっていない。見つかっていないことと存在しないこととは別だが、これだけチンパンジーの研究が進んでも見つからないのは、現生のチンパンジーでは存在しないと判断してよいだろう。
 さて人類全体では10~30%前後は見られるB型(とAB型)が、なぜチンパンジーで欠失したのだろう。ちなみにヒトとチンパンジーは、共通祖先から700万~900万年前に分岐した。この共通祖先は、さらに遡って、おそらく今から1200万年前前後にゴリラの祖先と分岐した。
 ところが奇妙にも現生のゴリラは、調べられた限りはすべてB型で、チンパンジーに圧倒的なA型が存在しないのだ。
 ところがさらに古く遡り、ヒト・チンパンジー・ゴリラの共通祖先が分岐したオランウータンでどうかと見ると、ABO式血液型のすべてが揃っている。
 いったいこの事実は、何を物語っているのか。

O型血液を持つことが有利な淘汰を受けた?
 「オッカムのかみそり」の言に倣い、最もシンプルに考えると、オランウータンに見られるようにABO式血液型の4つの型は元はすべて揃っていて、ゴリラとチンパンジーではいくつかの型が欠失したと推定できる。
 オランウータンの祖先から、ヒト・チンパンジー・ゴリラの共通祖先が枝分かれしたが、その共通祖先から、まずゴリラが分岐した。ところが分岐後に、何らかの原因でゴリラの祖先にA遺伝子が働かなくなったと考えられる。
 一方、ゴリラと別れて独自の進化の道を歩んだヒトとチンパンジーの共通祖先から、ヒトとチンパンジーとが分岐していく。その後にチンパンジーの祖先で、B型遺伝子が機能しなくなったが、どうやら人類だけがA遺伝子もB遺伝子も残しつつO型を保存したようである。
 ゴリラに存在せず、チンパンジーでは1割しか占めないO型が人類にだけ多数残ったのは、きっとヒトにとってO型血液を持つことが有利だったことがあったのだろう
 そこで9日の日記で述べたA型に親和性を持つ北海道のノロウイルスの例から、1つの類推が浮かんでくる。遠い過去にA遺伝子とB遺伝子にそれぞれ親和性のある疫病がヒトの祖先を襲い、それらの遺伝子を持たないO型の血液型個体が生き延びやすかったのではないか。

「瓶くび効果」を受けたとすれば人類の方のはずなのだが
 そうではなく、アメリカ先住民のように、ゴリラとチンパンジーが過去に著しく個体数を減らし、「瓶くび効果」による遺伝的浮動を受けたということも考えられる(瓶くび効果についても9日付日記を参照)。
 だが、この可能性は否定される。というのは、遺伝的多様性は彼らの方がずっと大きく、現生人類はむしろ遺伝的多様性が極端に乏しくなっているからだ。隣の森のチンパンジー同士での方が、ヒトの例えば黒人と白人間の遺伝的距離よりずっと大きい
 現在までの知見によると、現生人類は20万年前頃に中南部アフリカのどこかの集団からスタートし、それが全地球に拡散し、今日にいたったと考えられている。アフリカ中南部と特定したのは、アメリカ科学週刊誌「サイエンス」最近号にそれを報じる論文が載ったからだ。
 その時の集団は、たった数百人だったという遺伝学からの推定がある。そこから今日まで、68億人近くにまで膨張したのだ。この時も、「瓶くび効果」が働いたと思うが、思えばよくぞABO式血液型の4型がすべて保存されたものである(なお他の霊長類に第5の型が存在しないので、C遺伝子は存在しなかったと思われる)。

ABO式血液型の4型が揃っているのは偶然
 O型が有利だった疾病は、20万年前以前の祖先人類を襲ったものだろうが、それが何だったか、もちろん知るよしもない。
 ただ断言できるのは、ABO式血液型の4型が揃っている現状は偶然の結果だったに過ぎないということだ。どの血液型が生存に有利だったか不利だったかいちがいに言えないし、少なくとも現生人類が出現以来に限れば、あったとしても無視できる程度であった。
 偶然の結果で、性格や人間性が決まるわけは、だから絶対にありえないのである。

追記 小沢一郎が昨日、ついに民主党代表を辞任することを発表した。ちょうどこの日に発表されたNHK世論調査でも、民主党は自民党に支持率で大きくリードされた。遅かりし由良之助、という感が深い。