日本の裁判制度は3審制で、基本的には地方裁判所での
審判が第1審。また、本来、裁判所の管轄は原告本人の居
住地を優先的に考えるべき、とされています。
ところが、最近、ある地裁に提起した行政訴訟を、他県の
地裁へ移すという『移送申立』が、厚生労働省によって一方
的になされるという奇妙なことが起きています。
提起された行政訴訟は、年金受給者が集まっている「全日
本年金者組合」の、組合員の有志が原告となった、年金引き
下げ違憲訴訟です。
裁判に提起するまでには、
《2013年10月に始まって今年4月までの間に合わせて2.5
%の年金引き下げを行われたことに対する行政不服審査請
求(今年1月)が、却下された。そこで行なった再審査請求
も重ねて却下された》
という経過がありました。
「行政不服審査請求の裁定書」として送られてきた文書に
は、裁定のあったことを知ってから6ヶ月以内に、国を被告と
して「お住まいの地域の地方裁判所に提起することができま
す」と、ちゃんと教えてくれてありました。
だから、例えば鳥取県では、鳥取地方裁判所に提起して、
6月12日に同地裁で第1回の審理が行われる、徳島県では
徳島地裁で同月26日に同じように予定され―などと決まって
いたのです。
それが、不意に、「高等裁判所の所在地の地裁で審理を行うよ
う」にするという『移送申立』を、国(厚労省)が行なった、というこ
となのです。
鳥取の例では、移送が実現すると、70歳代~ 85歳の原告の老
人達は、裁判に出るのに広島市まで出向かなければなりません。
交通費が1回に2万5千円かかる人がでたり、往復時間も多けれ
ば7時間半も、というひどい負担が蔽いかぶさってきます。
高齢で、ただでさえ不足な年金で、無理を強いられるわけです。
無理を押して健康に影響が出ても不思議ではない人々です。
これはもう、訴訟に対する嫌がらせですよね。経済面、健康面
でギブアップするのを狙っているとしか思えない仕打ちです。
原告の生活をめぐっての訴訟ですから、現地で裁判するのが
当然だし、年金事務所やセンターは各都道府県にあるのだから、
直近の地裁で審判が行われるべきであるのもまた、当然なこと
です。
国側に理はありません。
いったい、原告の意に反する裁判所を、国が指定する権利なん
てあるのかしら?
年金受給者、全国で4千万人。年金の現状に満足している人
は、受給者のうち、特殊な地位や条件にある人だけでしょう。
そういう意味では、この訴訟は、原告の範囲に留まらない大
変多くの人々の要求を代理しているもの、ともいえるでしょう。
そういう人々が傍聴や支援・激励に参加したいと思っても、こ
の移送で条件が悪くなれば参加できなくなる、ということも起こ
りかねません。
裁判する権利、傍聴する権利を奪う―安保法制であらわに
なった、現政権の反民主性の、またひとつの現れだと思い
ます。(私は原告ではありませんが―)。 (なお、抗議を受けた
ためか、現時点では審理は開始されていません。)
付記―――いきさつ
私も頭記の組合に加盟しています。名前通りの、国民、厚生、共
済などの年金の受給者が、自分達の生活と権利を守ったり推し進
めたりするために集まっている組合です。加入資格は、年金受給者
であることと活動の資金として一定の組合費を拠出する、ということ
だけで、賛成する人は誰でも参加できる組織です(全国に支部あり)。
… … … … …
2012年11月に、当時の民主党政権が自・公と一緒の3党合意とい
うやつで、
《年金を2013年10月~15年4月に計2.5%引き下げる》
という法律を作ってしまいました。
理由は―《(10年以上も前の)1999~2001年に物価が下落した際
に、それに応じて引き下げるべき年金額を、例外的に据え置いた(
特例措置)。 それで今の年金額は、本来予定していた水準よりも
高くなっているから、もとに戻す》―というのです。
しかし、特例措置を実施した時に、据え置かれた額と本来の水準
額との差額は、やがて解消する措置をとるなどということはひとつも
言われていなかったことです。(ダカラアノ時、拍手シタ人モイタッケ)
特例から戻すための引き下げなど全く触れなかった(もしかして、
考えてもいなかった?)ならば、それは「政策ミス」で、政府が犯した
失敗です。
それを、生活事情が悪くなった時になって受給者にしわ寄せして
解消しようするのは不当だ―というのが私達の主張の中心です。
年金受給者の約半分近くが月額10万円以下というレベルです。一
方で消費税増税、種々の社会保険料は引き上げ、物価は上昇―と
いう状況で、マスコミも「老後破産」などの言葉でとり上げています。
「マクロ経済スライド」なる、向こう30年間にわたって年金受給額を
下げ続ける大変な仕組みも、4月から実施に入りました。
憲法の保障する「最低の文化的生活」も、空文になりかねません。
こうした状況を背にして、組合の仲間達は、この引き下げは不当だ
として、12万6千余人の大規模な不服審査請求を提出したのです。
しかし、「あの減額処分は適法だ。この審査請求は処分が違法だ
とは言っておらず不満を言うだけで、審査理由として適合しない」と、
門前払いの形で却下されたのでした。
※うっかり者の私は、審査請求提出期限を忘れて間にあわず、
審査も訴訟も資格をなくしてしまいました。(゚_゚i)
せめてこういう投稿で、仲間の応援をしたいと思います。
… … … … …
以上の裁判所の問題は、まったく高齢者へのイジメですが、
ところで、まだ年金受給年代には遠いあなたの、年金の将来は
だいじょうぶでしょうか?
上記にもちょっと触れた「マクロ経済スライド」というのは、たい
へんなシロモノです。
雇用も不安定で、保険料の負担は、どうなるのでしょうか?
そういう検討や、「安心な老後のくらし」へ近づける「最低保障
年金制度」の研究も、大事になりますね。