ツカサは、差し出された細身の双剣の柄を、そっと握りしめた。

「父上に贈られるはずだった…」

「そうです。
そして、今回の任務の候補にあなたが上がっている事を知った陛下が、あなたにお渡しするように、と仰せになりました。」


ツカサは、ゆっくりと剣を鞘から抜いた。

細長くて青白く光る刀身は、ツカサの紫色の髪によく映えた。


「その剣は龍属性…
うまくいけば、炎妃龍を倒す事もできるでしょう。」

「え…?
でも、最初の話の時に、討伐ではない、と…」

頭の上にでっかい?マークを浮かべたツカサを見て、ワンはくすくす笑った。

「嫌ですね~
別に我々はナナ・テスカトリの最大サイズが分かればいいだけですから~
あなたの命に危険が迫るようなら、遠慮なく倒していただいて結構ですよ~」

ワンの物言いに、ツカサは眉を寄せた。

「しかし、ムカサ氏が倒せなかった炎妃龍を、私が倒せるわけが…」

「そうですか?
あなたは、ナナ・テスカトリは狩り慣れてるでしょう?」

しれっと言い放ったワンの言葉に、ツカサの目が細められた。

「何がおっしゃりたい?」

ツカサの顔を見たワンは、にっこりと笑った。

「いえ、何も」

喰えない男だ、と思いながらも、ツカサは双剣を鞘にしまった。

「ご主人さま~、朝ご飯ができましたニャよ~」

奥のキッチンから、ラッテがパタパタと走ってきた。

ツカサはフッと微笑むとラッテを抱き上げた。

「今朝のおかずはなんだい?」

「んとんと、おっきなお魚ニャ♪」

「魚かぁ… 焼き魚は、あまり好きじゃないんだよなぁ」

「ご主人さま、好き嫌いしちゃダメニャ!」

ラッテを肩に乗せると、ツカサはキッチンへと歩いて行った。


「どうか、オトモが少しでもあなたの力にならんことを…
今は…
あなたを愛してやまないアイルーたちの愛を、目一杯、受け止めておきなさい。
きっとそれが、あなたを救う時が必ずあるはずだから…」

ツカサの背中を見送りながら、ワンは声に出さずに呟いた。


これから彼女が受ける衝撃は…

一歩間違えば、彼女の精神を崩壊させてしまうかもしれない…

そうならない為にも…

オトモたちよ…

ありったけの愛を、彼女に注いでおくれ…

自分は決して独りではない…

それを、彼女にしっかり、刻み込んでおいてくれ…



そして…

ツカサが村を出発したのは、その翌日の事だった。