中国、「教育貧国」地方の高校卒業比率3%「幻の人材強国論」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「教育貧国」地方の高校卒業比率3%「幻の人材強国論」



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毛沢東の失敗が尾を引く
北京大の正規就職率4割

中国政府は、目標を高く掲げるものの実績は惨憺たるものだ。私が、「大言壮語」(ほら吹き)の国家として批判し続けている理由である。教育問題もその一つ。2008年、当時の全国人民代表大会常務委員会の陳至立副委員長は、「中国は科学技術教育と人材育成による発展戦略を推し進めてきたが、すでに人口大国から教育大国へと歴史的な転換を遂げた」と強調した。人口大国が教育大国へ変身したとなれば今頃、中国は産業構造も高度化していたに違いない。

現実は、これとは真逆の関係にある。教育大国どころか教育貧国である。地方の義務教育は貧困ゆえに破綻しており、都市部だけが日本とほぼ同じレベルにある。中国政府は、軍事費にはカネに糸目をつけず膨張させているが、その煽りを食って地方の教育は置き去りにされたままだ。最大の悩みは、「農民工」という出稼ぎ労働者が、子どもを親(祖父母)に預けて都会で働かざるを得ない状況である。子どもの教育には目が届かず、学力は都会の子どもに比べて相当劣っている。それ故、義務教育も満足に終わらず、高校進学率は6%、同卒業率は3%まで落ち込んでいる。これで「教育大国」とは、おこがましい話しだ。

中国国家統計局が4月28日に発表したところでは、農民工のうち、6カ月以上出身の農村で非農業に従事している「本地農民工」は1億863万人。6カ月以上出身の農村を離れて都市で働く「外出農民工」は1億6884万人である。性別では、男性が66.4%、女性が33.6%。農民工のうち、子どもの教育問題に深刻な影響が出ているのは、「外出農民工」である。年間、6ヶ月以上も家を離れているからだ。

農民工の平均月収は3072元(約5万1500円)。「外出農民工」は3359元(約5万6300円)である。「本地農民工」は2781元(約4万6600円)と「外出農民工」を下回っている。この理由は、「本地農民工」は都市の有力企業に就職できない影響であろう。ただ、自宅から通勤できるメリットがあるから、子どもの教育問題ではそれほど大きな悩みはないはず。「外出農民工」は、都会で好条件の職場が多いものの、子どもの面倒を見られない悩みがある。

次のデータは、アジア開発銀行の調査(2015年)による中国における中学、高校、大学に関するものだ。単位は%。

      入学率       卒業率  
    都会  地方    都会   地方
中学 100  88    100  70
高校  63   6     63   3
大学  54   2  

このデータによると、地方の中学校入学と卒業のそれぞれの比率は、都会に比べて格段に見劣りしている。地方では、義務教育ですら全員が入学や卒業をしていないのだ。高校では、地方の入学率が6%、卒業は3%である。戦前日本の旧制中等学校(現・高校)以下のレベルであろう。

教育面で見る都会と地方の格差は、目を覆うばかりである。地方出身者が、今後の産業高度化という流れの中で対応は不可能である。義務教育も満足に終えていない人々を、どのようにして再教育するのか。現状ですら予算不足で不可能なことが多い中、今後の経済停滞下で実現できるはずがない。中国共産党は最大の失策をしている。外延的な発展による領土拡大を第一義にして、内政をないがしろにした惨状が地方の教育面に現れている。

中国は、教育の質において失敗したが、人口政策でも大失敗を演じている。毛沢東の間違った人口論が災いしたのだ。社会主義社会には過剰人口は存在しない。こういうイデオロギーが間違いを引き起こした。これについては後で取り上げる。その際、イデオロギーの恐ろしさを実証的に示したい。現在は、過剰人口を抑制する「一人っ子政策」の失敗から、昨年10月から、一夫婦「第2子」までの出産が認められた。だが、これまでの「一人っ子政策」の失敗が、中国の潜在成長力を大きく毀損しており、回復は不可能になっている。

毛沢東の失敗が尾を引く
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2015年10月30日付)は、社説で「『一人っ子政策』の弊害、今後数十年続く」と題して、次のように伝えた。

(1)「中国共産党が10月29日に『一人っ子政策』の廃止を決めたことは、世界史上、最悪レベルの政府による『人間の自由』侵害を終わらせる画期的な出来事だ。だがこれは、中国指導部は遅ればせながら、急速に進む高齢化によって人口動態の危機が差し迫っていることを認めつつあるのだ」

中国経済の危機は、強引な「一人っ子政策」による急速な高齢化の進行にある。その大本を訪ねると、毛沢東の間違ったイデオロギー信奉による、「産めよ増やせよ」という人口政策の失敗に起因している。その間違いを是正すべく発動した「一人っ子政策」が行き過ぎてしまい、人口動態面から中国経済を危機に追い込んでいる。結局、中国共産党が行き当たりばったりな人口政策を行った結果である。

(2)「日本や欧州諸国、そして米国でさえも出生率の急激な低下が見込まれているが、少なくともこれらの国々はすでに裕福だ。中国が特異なのは、そうなる前に急速に高齢化している点だ。つまり、労働人口が減り退職金制度の整備も大きく遅れている中で高齢者を養いつつ、急成長を維持する方法を見つけなければならない。高齢化は中国の政治と経済に恐ろしい影響を及ぼしかねない。中国の2010年の国勢調査によると、合計特殊出生率は国全体1.16人で、北京や上海などの大都市では0.7人に下がる。他のデータによれば、現在は1.56人とされているが、それでも人口置換率の2.1人をはるかに下回る」。

所得水準が上昇して女性の社会進出が増えると、自然に出生率は低下するものだ。先進国の出生率低下には、こうした社会的要因が働いている。ただ、米国だけは積極的な移民政策を取ってきた影響で、出生率低下は緩やかである。中国では1979年からの「一人っ子政策」によって、国家権力が出産を強引に取り締まった。これによって、合計特殊出生率は劇的な低下(2010年で1.16人)になった。これが、「人口ボーナス現象」をもたらして、10%超の経済成長率を30年以上も続けさせた。決して、中国の経済政策が優れていた訳でない。フロックである。

2011年以降は「人口オーナス期」入りして逆転現象が起こっている。過去の高度経済成長率から一転、低成長率経済へ移行した。ここへ、不動産バブル崩壊による「デレバレッジ」の重圧が加わる。経済成長率は3%前後に低下するはずだ。中国共産党「権威筋」が最近、予測するように「L字型成長」へ転落必至の情勢である。この記事では、「現在の合計特殊出生率は1.56人」と書いているが、これは中国側が取り繕っているだけで、例の「誇大宣伝」の一環であろう。これほど、短期間に回復するはずがない。体裁を整えるために、嘘情報を流しているはずだ。

(3)「1979年に打ち出された一人っ子政策は一時的な緊急措置のはずだった。毛沢東が鉄鋼生産量とともに人口の増加を奨励したことで1960年代に起きたベビーブームが、当時はさまざま問題を引き起こしていた。よくあることだが、独裁政権は正反対の方向に振れた。1979年までに中国の出生率はすでにピークの6.16人から2.81人に自然に低下していた。にもかかわらず、中国は強制的な不妊手術や妊娠後期での中絶、ひいては間引きといった非人道的な方法で一人っ子政策を実施した。中国政府はこの政策で人口を4億人抑制することができたと主張しているが、他の国々と同様に、都市化と生活水準の向上も要因の一つだった」。

毛沢東は、「鉄鋼生産量とともに人口の増加を奨励した」が、その狙いは旧ソ連との戦争を想定していた。いざ戦争となれば多大の死者が出る。それを見越した人口増加奨励でもあったのだ。独裁政権は、このようにいとも簡単に戦争を想定する。習近平氏も、その独裁政権体質において同じであるから常時、「開戦準備」体制にあることは間違いない。南シナ海での強引な領土拡大策を目の当たりにすると、独裁政権の持つ「好戦性」を肌で知ることができるのだ。

毛沢東は、表だって開戦前提での人口増加策と発言したわけでない。そこはオブラートに包んで、「社会主義経済には過剰人口は存在しない」ときれい事を並べたのだ。

次の記事は、私のブログ(2011年6月2日)から再録した。

「過去の中国の人口推移を見ると、旧中国の1840年から中華人民共和国成立の1949年までの109年間は、4.1億人から5.4億人へと1.3億人、年平均0.26%の増加率に過ぎなかった」。

「新中国が成立してから人口増加率は驚異的な高さを示した。1950年は1.90%、1960年マイナス0.46%、1970年2.58%、1980年1.19%、1990年1,44%だ。いずれも上記の1949年までの平均増加率0.26%からかけ離れた高い増加率を示した。この背景には、毛沢東独特の人口論が存在した。つまり、新中国では、人口は重要な国家的財産という楽観的な思想のもとに人口増政策が進められた。これは毛沢東が、新たな戦争を想定していたからでもある」。

「毛沢東は社会主義社会に人口問題は存在しないと定義づけた。『マルサス人口論』(人口は幾何級数的な増加に対して、食糧は算術級数的にしか増加しないので、人口制限が必要とする説)を資本主義擁護の反動的理論として排撃した。人口抑制論者はブルジュア右派分子として厳しく批判され、当時の北京大学学長は1960年3月、その座を追われたほどである」。

「新中国建国前の109年間の人口増加数は、上述のように1億3000万人である。1949年末の総人口数は5億4167万人であり、これに109年間の人口増加数を加えると、ちょうど59年末の総人口数6億7207万人に近くなる。わずか10年間で109年間に匹敵する人口増加になったのだから、『人口増』への危機感が生まれて当然である」。

「その後、ますます強まる人口増加に危機感を持ち、『一人っ子政策』に踏み切るのは、1978年憲法における『国家計画出産の提唱』で明確にされた後である。人口抑制論者の北京大学学長を追放したのは1960年であるから、その後18年間も人口増加を放置していたことになる。その間の失敗を単純に計算すると、3億1300万人の人口増加をもたらした。硬直的な毛沢東イデオロギーの恐ろしさがここに見られるのだ」。

毛沢東は、旧ソ連との間で本格的な戦争を想定して、「人口増加政策」を取っていたことは紛れもないことだ。習近平氏は、毛沢東崇拝者として知られている。彼が描く領土拡張策は、中国経済のリニア型成長モデルを前提にしている。2030年前後に米国のGDPを追い抜くというモデルだ。皮肉なことに、毛沢東の人口論とその後の「一人っ子政策」が、中国経済の安定的成長基盤を破壊した。習近平氏は、この事実を知っているだろうか。

さらに重大な事実は、先に掲げた中国の地方における中学や高校の入学率や卒業率の低さである。満足に義務教育も終えていない人々は今後、どのようにして先進的な労働力人口に進化させるのか。その手法があるとは思えない。その具体策も見つからないままに、海外領土拡張に邁進する。この危険性が、中国を破綻させるものであろう。奇しくも、旧ソ連経済が崩壊したのは、第13次五カ年計画の破綻がきっかけであった。中国も現在、第13次五カ年計画(2016~20年)に取りかかっている。13次五カ年計画=65年間という期間を見れば、市場経済ルールを無視した国家経済が、内部矛盾を調整できなくなる限界なのだろう。習氏は、領土拡張の危険性を知らなければならない。

北京大の正規就職率4割弱
中国の国内景気が停滞色を強めている事実は、大学生の就職状況に現れている。

『人民網』(4月26日付)は、「就職難?中日韓の大卒者の行方」と題して。次のように伝えた。

この記事は、日中韓三カ国の大学就職状況を報じている。ここでは、中国だけの大卒就職について取り上げる。これによると、中国トップの北京大学ですら就職難に陥っている。「名門」の看板だけでは就職困難の様子が分かるのだ。そのため、北京、上海などの一線都市を離れて、二線、三線の地方都市で就職口を探す状況に変わっている。この就職状況の悪化こそ、中国経済の暗い将来を示唆している。

(4)「中国の求人サイト『智聯招聘』のオンラインデータのモニタリングによると、2016年の春、中国全土の人材の供給と需要の競争は48倍。これは、1つのポストに対して、平均48人からの履歴書を受け取ったことを意味する。現時点で、15年の中国全土の就職率は発表されていないものの、北京大学の就職状況を見ると、そのおおよその状況が分かる。中商産業研究院のビッグデータバンクの情報によると、2015年、北京大学の卒業生は7250人。うち、正規社員としての就職が決まった人数はわずか2770人だった。その他の卒業生は、進学したり、海外に行ったり、非正規の仕事などについたりした」。

2015年、北京大学の卒業生は7250人。うち、正規社員としての就職が決まった人数はわずか2770人。率にして38.2%である。4割に満たない卒業生が、ようやく正規社員として就職できたに過ぎない。北京大学ですらこの状態だから、他大学は推して知るべしだろう。こんな状態で、今後5年間「6.5%以上」の成長率達成は不可能だ。その他の卒業生は、進学したり、海外に行ったり、非正規の仕事などについたりした。非正規雇用は、先進国だけの問題ではなくなった。中国でも、この問題に直面している。経済成長率低下がもたらした結果だ。市場経済の弱点を補うと宣伝した、その社会主義経済で起こっている点が興味深い。

(5)「就職難となっているものの、突破口がないわけではない。多くの学生は就職する都市として、北京や上海、広州、深センなどの『激戦地』を避けている。最近発表された『大学生就職力診断報告書2015』によると、一線都市での就職の競争が激しさを増しているのを背景に、大卒者の6割が二線都市での就職を選択している。そのような都市は、一線都市よりも生活費が安く、收入は、三、四線都市よりも多い」。

一線都市での就職難が目立っているのは、中国経済がサービス化していない証拠である。製造業の未発達によって、サービス業が発展できないのだ。大卒者が就職するサービス産業は、情報を高度に分析し処理する業務のはずである。中国製造業は、未だ先進国ブランドの「下請け」であるから、中国にはこういうサービス部門が育たないに違いない。中国経済の後進性を如実に示している例だ。

(6)「第三者教育データコンサルティング調査機関『麦可思』(MyCOS)がこのほど発表した、中国全土の大卒者50万人以上を対象にした追跡調査の分析によると、14年度の学部生の卒業半年後に従事していた業界で最も多かったのは『教育業』で10.6%。2番目に多かったのは建築業で10.2%だった。その他、卒業3年後の就職満足度が最高だったのも「文化・教育系」で、満足度は53%だった」。

14年度大卒者50万人の追跡調査では、1位が「教育業」である。これは正規の学校教員よりも、塾などの進学生徒に関わる仕事と見られる。2位は建築業である。中国経済がインフラ投資や不動産開発で支えられている特殊事情を反映している。総じて、「文化・教育系」の職業で満足感が高いとは、「一人っ子」家庭で過熱した教育ブームを現している。以上の動向には、中国経済の躍動する姿の片鱗もうかがえないのだ。中国経済は、はっきりと「老成」過程に入っているとしか言いようがない。

(2016年5月25日)