先日5/12にミュージカル「カムフロムアウェイ」の幕が降りた。


舞台上には12人のキャスト、バンド、12脚の椅子、2つのテーブル。2001年、9/11に起きたアメリカ同時多発テロの裏側で実際にあった話を元に構成された心温まる真実の物語。


この作品の話をいただいて、改めて当時のことを少し思い返した。高校生だった俺はニュース映像を観て、何かの映画のワンシーンだと思い込んでいた。でも違った。まさか本物の旅客機がビルに突っ込むなんて、誰が想像できただろうか?その映像が作られたものではなく、真実の映像と頭が理解した時、とても怖くなったのを鮮明に覚えている。自身が演じたボブのセリフ…「第三次世界大戦だ!」と同じように、その時の俺は本当に戦争が起こってしまう…と思った。

嫌というほどテレビで流れてくる衝突時の映像。その印象ばかりが頭に張り付いていた。

だからこのミュージカルは悲劇なんだ、と勝手に思い込んでいたけれど、そうではなかった

台本を読んで驚いた。こんなことが実際にあったのか、と。テレビでは悲しいことしか報道していなかったけれど、ニューファンドランドでそんなことが起こっていたなんて知りもしなかった。


それともう一つ驚いたのはキャスト。いや、豪華すぎるでしょって笑笑ホリプロさんよくこのメンバーを揃えたなぁと。正直、最初はめちゃくちゃビビってた。だって主役クラスの人ばかりで、そのミュージカル界のアベンジャーズたちの中で下から2番目だし…

まぁ終わってみれば最高のカンパニーだったわけだけれども…


とにかく俺たちは毎日毎日稽古を繰り返した。普段のミュージカルとは勝手が違い、覚えることが膨大にある。歌うパート、セリフ、特に大変だったのが椅子の動き、置く位置とタイミングだ。みんな思考回路がショート寸前になっていた。ほぼ全員のキャストが100分間出ずっぱりで何かしらの役割を果たしているのだから。これは本番になっても緊張感はなくならなかった。いつ何時何があったもいいようにサポートできる頭も働かせていなくてはいけなかったから。基本、芝居は自分のためでなく、他人のためにするものだが、こんなにも相手を信頼して動きやセリフ、歌を表現するのは初めての経験だったな。


そんな大変な稽古を経てついに完成し、まずは東京で幕を開けた訳だけれど、初日のあの客席の熱気・歓声は忘れられない。この物語が果たしてお客さんの目にどう映るのか…何を感じるのか…少なからず不安もあった。でもカーテンコールでの拍手と歓声でそんな不安は吹き飛んだ。

ガッツリと芝居をみせる作品ではない。大きなソロナンバーが多いわけでもない。どちらかと言うとドキュメンタリーのような、「届ける…伝える」ミュージカルである。

それが届いた…伝わったんだ、と素直に心が喜んだ。正直に言うと、もっと芝居でみせたいシーンもある。でも、演出のクリスが口を酸っぱくして何度も我々に言った言葉…「芝居をしないでください。ただ、事実を伝えてください」その意味が、初日を経験してようやく理解できた。こんなミュージカル、伝え方もあるんだって。芝居をするだけが芝居じゃないんだって。深いなぁ…


そうして東京公演を終え、大阪、名古屋、久留米、熊本、そして高崎での公演も特に大きな怪我や事故もなくやり遂げた。

公演には常に4人のスタンバイキャストがいて、彼らの働き無くして我々のカムフロムアウェイは成立していなかっただろう。それだけのサポートをしてくれたし、何より心の支えだったから。

各スタッフもそうだ。あり得ない量のきっかけ、指示を出すタイミング、細かな照明の変化、各劇場での音響の調整、衣装の早替え、様々な小道具などなど…キャストよりも大変な仕事をしていた。

バンドもそう。役者の呼吸に合わせて音楽を奏でて、時には舞台上でキャストと共にシーンに参加したり。とんでもないです緊張感だったに違いない。

各セクション、誰が欠けても成立しない奇跡のような作品なんだと改めて感じる。

再演やれるのかこれ?笑笑


そしてこのキャスト、スタッフを集めて、アフタートークでは自らMCまでも務め、終演後は場内アナウンスも毎公演してくれていたプロデューサーの井川さん。間違いなく1番大変だったに違いない。そんな大変な中、全員への気配りも忘れず、毎日笑顔で居てくれた。こんなプロデューサーは他にいない。この作品に出会わせてくれたこと、本当に感謝しています。


それから、劇場に足を運んでくださった皆様、応援してくださった皆様、このカムフロムアウェイに関わる全ての方に、最大の愛と感謝を。


ほんの少しの優しさを忘れずに、これからも生きていこうと思う。

ニューファンドランドの島の民のみんなと同じように。





               加藤和樹