私はTPP参加には反対です。

TPPに参加するかどうかの議論は、昨年唐突にアメリカが参加を切り出してきて以降、にわかに日本でも主要な政治家やマスコミから、TPPに参加すべしの論調が強まりました。現在の過熱気味の空気は、まるではやり病のようで、奇異に感じます。
アメリカが急に本腰を入れたのは、おそらく鳩山元首相が「東アジア貿易圏構想」を打ち上げたことから、なんとしても日本と中・韓は離しておきたいというアメリカの戦略が働いたのだと思います。

世界のGDPランキングは、アメリカが1位、中国2位、僅差で日本3位、ドイツが4位と続きますが、10年後となると、アメリカ、中国、日本についでインドが入ってくるでしょう。この日・中・印でまとまって、アメリカがカヤの外にされるのは大変に困るのです。

私は、自民党の総合農政・貿易調査会長として、この問題の勉強を続けてきました。TPPに参加すれば、日本の農業、特に酪農や甘味資源(沖縄のサトウキビ、北海道のてんさい糖)が壊滅的なダメージを受けるでしょう。コメも10年以内に生産者価格を半分以下にしなければならなくなり、大混乱に陥るのは明らかです。

それ以外に、国民皆保険が崩されて、自由診療、私的医療保険の世界に追い込まれるでしょう。そうなれば、日本でもお金持ちの命から順番に救われるということになりかねません。日本の医療は、総理大臣でも市井の人々でも、同じ胃カメラを飲み、同じ薬を処方されて、同じ金額を払う、老後も医療費の心配のない素晴らしい仕組みなのです。これを本当に守れるのでしょうか?

それよりも何よりも、大前提として世界の貿易は、WTOでルールを決め、それをお互いに守るという約束を土台に成り立っています。その約束を横目に、アメリカを中心に20カ国くらいで貿易体制を作ったら、声の大きなアメリカの国益主張が前面に押し出されるでしょう。そして、そのかなりの部分を日本がかぶることになります。

思い出してください。いま全国各地にシャッター街が見られるのは、15年ほど前、流通小売業を自由化して、海外のスーパーも日本市場に参加させよと、アメリカが強力に圧力をかけたことが原因です。日本は大規模小売店舗法(大店法)を改正し、アメリカからウォルマート、フランスからはカルフールがやってきました。引きずられるようにジャスコ、イトーヨーカドーなどのスーパー大手が過剰出店、過剰競争を行い、地域の商店街を飲み込んでいきました。それがいまではかなりの採算割れに追い込まれ、もはや関心は中国へとシフトしているようです。日本にウォルマートやカルフールの姿も見られません。

大型スーパーが去り、シャッター街が残りました。シャッター街が商店街に戻るのは難しいでしょう。店の跡取りは、すでに勤め人になっているからです。

この体験が示唆するものを、私たちはよく考えてみるべきです。もう日本は、日本主体の国づくり、農業づくりをするべきなのではないでしょうか。

アメリカが、NAFTA(アメリカ、カナダ、メキシコ)を従えているだけでは淋しいのは分かります。アジアの安全保障の責任を負わされながら、いざ経済貿易活動ではカヤの外では怒るのもムリはありません。しかし、オバマ大統領の選挙を見据えた経済戦略に安易に乗っかっていいのか。単なる「前向き改革」のスローガンになっているのではないでしょうか。

野田総理がTPP参加の意思を固めたという報道がありますが、全国の地方議会も反対の姿勢を示しています。野田総理に重い責任がのしかかってくるでしょう。


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加藤紘一オフィシャルサイト
10月31日掲載
http://www.katokoichi.org/videomsg/2011/111031.html