便秘ー下痢ー痔核 | 松山市はなみずき通り近くの漢方専門薬局・針灸院 春日漢方

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          便秘ー下痢ー痔核

 

 

 痔の病の原因は、便秘のように一般的には思われています。たしかに慢性的に便秘をしていれば、直腸の周りの血行は悪くなるし、排便時に力むことや、硬い便が肛門を傷つけることから、本格的な痔疾になるのは、便秘体質の方だろうと思います。

 しかし、下痢をしても肛門が痛くなって、痔核が出てきたりする場合もあります。私も以前はその時の体調によって、下痢してから肛門が痛くなることがありました。

 最近、下痢の後に痔核ができて相談に来られた方があるので、その時の経験を考えてみます。

 

 

              50歳 女性

 

 以前から便秘になると、「加味逍遥散(かみしょうようさん)」の粉薬を服用して調子の良い方でした。ストレスがつのって、肩こりや頭痛、眠りが浅い、などの症状がきつくなると便秘がちになって、余計に肩こりや頭痛も悪化します。


 「加味逍遥散」はとくに<タケダの漢方便秘薬>のように「便秘」のための処方ではありません。下剤となる「大黄」や「センナ」などは含まれていません。ただ、更年期などで<血>の不足気味な方で、気分的に緊張している方には、この処方に含まれる、「当帰」「芍薬」が血を増やして腸の中を潤し、「柴胡」「薄荷」「芍薬」「牡丹皮」などが気分をほぐすので、腸の緊張を和らげてお通じを出しやすくします。

 

 こういう「加味逍遥散」でちょうどよい便秘の方は、<タケダの漢方便秘薬>や<コーラック>などの本格的な便秘薬を使うと、お腹が痛くなって、何度も下痢をしてぐったりしてしまいます。そういう経験をしているので、ストレスが溜まって便秘気味になると「加味逍遥散」を買いにこられます。この薬が肩こりや気分のイライラに効くのも分かっています。

 

 今回も、大きなイベントの準備で忙しさがピークに近づいて、体調が落ちてきて便秘になりました。そこであまり考えないで、いつものように「加味逍遥散」をお渡ししました。
 ところが、今回は普段より体力の落ち込みがひどかったのか、「加味逍遥散」を数回飲むと、次の日の朝、お腹が痛くなって下痢になりました。

 

 驚いたのが、下痢と同時にプックリ痔核が出てきて、肛門に痛みと違和感があります。その痛みは激痛、というほどではなく、出血もありません。

 

 

 それ以外の体調を尋ねると、身体がしんどい。でもこれは下痢する前から、疲れが溜っていたから。食欲は低下している。でも食べないというわけではない。口は少し渇く。これも以前と変わらず。手足も火照った感じ。小便はよく出ている。
 脈を診せてもらうと、力は無いけれどある程度の幅があります。

 

 もしこれで、まったく食欲がない、手足が冷たい、口が渇かないというのなら、胃腸の冷えを温める「人参湯(にんじんとう)」ですが、いまの状態は、胃腸を引き締める力=「陰気」の不足、「血」の力の不足といってもいいでしょう。

 

 仕事の疲れが溜まって、血の不足から体力も落ちていた。そこに「加味逍遥散」を飲んで、「柴胡」や「牡丹皮」「梔子」などで胃腸を冷やしたので下痢になった。
 下痢をして、体液=「血」といっしょに「陰気」=腸管を引き締める力が失われて、腸管の末端の肛門が緩んで痔核として飛び出てきたのでしょう。

 

 「血」を増やして体力を回復すると同時に、「陰気」を増やして腸管を引き締める作用のある処方として、「小健中湯(しょうけんちゅうとう)」を煎じ薬で2日分あげました。
 軽い症状の時には粉薬で間に合わせる人ですが、こういう緊急時には煎じ薬が威力を発揮するのも分かっておられます。

 

 「小健中湯」には「甘草」「大棗」など甘い果物のような薬草が多目に入っていて、さらに漢方薬用のアメが加わります。こういう甘い味の薬草は、血の元を作りだして、胃腸の力を回復します。

 

 また「芍薬」=花芍薬の根が他の薬の倍量入っていて、この薬の苦みが、疲れて弛んだ腸管を引き締めます。初期の痔疾、痔核や過労や産後の脱肛などにとてもよく効く処方です。

 

 「小健中湯」の2日分を飲んで、元気がだいぶ戻ってきた。食欲も出てきて便通も整ってきた。痔の痛みも和らいでいる。しかし、肝心の痔核は変わらず、プリプリ固くて肛門が気になる。

 

 どうも「小健中湯」でお薬の基本の方向は間違ってないけれど、お尻の局所の状態にはパワー不足のようです。
 「芍薬」の苦みが「陰気」を増やして腸管を引き締めるといいました。そこでもう少し強い苦みの薬を加えようと考えました。

 

 おでき=化膿症の処方に「排膿散(はいのうさん)」というのがあります。芍薬の他に「枳実」と「桔梗」の3味だけのシンプルな処方です。おできが固くしこって痛みの強いときに使います。
 「枳実」は夏前に摘果した小さな青く固いミカンの実です。おできやお腹のしこりの固いもの、ひどい肩こりや気分の鬱滞などを砕いて除く働きがあります。

 

 「小健中湯」に枳実を1.5グラム加えました。この組み合わせで2日分、服用すると、固かった痔核もすぐにしぼんで、肛門の痛みや違和感も無くなりました。
 しかし今度は、お通じが少し緩くなってきたと言われるので、枳実は除けて、普通の「小健中湯」を1週間、服用されて大きなイベントも乗り切ることができました。

 

 

 今回思ったのは、「便秘」の扱いの難しさです。「便秘」こそもっともありふれた、多くの人が悩まされている症状です。ほとんどはヨーグルトとか冷たい牛乳を飲むとか、ジュウヤク茶、ハブ茶など、自分なりの対処法でしのいでいます。しかしそれでうまくいかなくなった時に、自分に合った<便秘薬>がうまく見つけられない場合があります。

 その点、漢方薬には、その方の体質を幾通りかに分けて、それに合わせた処方を考えます。

 たとえば、上の文中ででてきた「血」の不足で便秘する方には、「当帰」「地黄」「芍薬」などで血を増やす、「加味逍遥散」「六味丸」など。

 お腹の力=「陰気」が不足して便秘する方には、「小建中湯」。これは乳幼児、小学生に多く使います。

 お腹が冷えて弱って便秘する方には「大建中湯」。 老人の便秘によく使います。

 逆に胃腸に熱が多くての便秘には、胃の熱を冷ます「大黄」を主薬とした処方。たとえば「麻子仁丸」は腸を潤す成分や、大黄の効き過ぎを押さえる薬が入っていて、とても使いやすい処方です。

 市販の「コーラック」などの便秘薬はいたって安価なものですが、それで次第にお腹の調子が取れなくなってきたという場合には、すこし値が張りますが、漢方薬を考えてみてください。

 

 写真は本文とは何の関係もない、多肉植物の植え替えです。多肉植物が植わったこの鉢を、5月に買いましたが、日光が足りなかったのか、夏の日差しが強すぎたのか、水やりが多すぎたのか、少なかったのか、秋まで持ちませんでした。

 先週、150円の株を3つ買って、植えてみました。今度は水やりは月に一回、冬はやらないくらいで、様子を見てみようと思います。

 蛇足ですが、鉢の横に、SINCE  と書いてありますが、その後に年号が入っていません。まあ、それっぽかったらいいんでしょうね。