ファーブル昆虫記(3)―本能は前向き。 | 華麗の空~小難しい本のナルホド書評

ファーブル昆虫記(3)―本能は前向き。

完訳ファーブル昆虫記 第1期セット 全10巻
完訳ファーブル昆虫記 第1期セット 全10巻


第三回目は、本能の働きについて、本書から例を取って紹介しましょう。

帰巣本能について。
ファーブルは、を使ってこんな実験をしました。
1.いま、土地Aで巣作りをしている蜂がいる。
2.捕獲し印を付けた後、数十キロ離れた土地Bに連れて行き、放つ。
3.果たして戻って来るであろうか?
注)いま「蜂」と書いていますが、実際には具体的な虫名で記されています。("じがばち"、"ラングドックあなばち"等。)
 本稿では便宜上、「蜂」といいます。

遠方の地Bに着くと、方位を狂わせるために、虫かごを回転させます。
予め移動中の視界は遮っているため、視力に依る記憶はないと考えて良い。

さて、嗅覚や触覚の効かない、方角すら分からない土地に放たれた蜂。
彼らは帰って来るのでしょうか?

数日後、彼らは戻ってきました。
作り掛けで放置されたままの巣を当然のように探し当て、おのおの黙々と作業を続けています。

放たれた蜂すべてが帰還したわけではありません。おそらく途中で力尽きたのでしょう。
決して、選ばれた、特別の能力をもった蜂だけが戻ってきたのではない。
彼らの全ては、我々人間の科学では説明出来ない能力を備えている。
それが、本能の力である。


幾度もの、多岐にわたる実験結果から、ファーブルはそう結論付けました。

本能の任務遂行能力には恐るべきものがあります。

本能は、迷わない。

しかし、その正確無比さゆえに、滑稽な一面もある。
本能は、全体調整が出来ないのです。

ファーブルはこんな実験をしました。
1.いままさに地面に巣を作っている蜂がいる。
2.巣作りの時点で、巣に穴を空けてみる。ゴミを入れてみる。
3.蜂はどうする?【A】
4.巣作りが完了し、蜜を格納する段階で、再び巣に穴を空ける。
5.蜜は穴から漏れ出てしまい、一向に貯まらない。
6.さて、蜂はどうする?【B】

【A】―すぐさま対応する。
キレイ好きでしっかり者の蜂は、僅かのゴミも見逃しません。
成虫にとっては取るに足らない藁クズであっても、幼虫(蛆)にとっては脅威です。
そんな物を残して置くわけにはいかない。
また、穴が空いていれば瞬時に対応します。繕いも仕事の一環なのです。

こうして綺麗な巣が完成します。
次は、食料(蜜)調達の時です。

【B】―まったく無視。気にも留めない。
驚くべき事に、蜂は穴を塞ぎません。
蜜が漏れ出ているコトなどまるで意に介さず、黙々と蜜の採集、格納に励みます。
悲しい哉、蜜は貯まりません。

蜂にとって、穴を塞ぐのは造作も無いコト。一瞬で終わる作業です。
少しでも産まれてくる我が子を思う気持ちがあるのなら、穴は修繕すべきなのです。生命線なのです。

しかし、全く放置。

本能に従うまま一定量の蜜を運び終わると、卵を産む。
そして、次の巣作りに移ります。

新しい巣に穴を空けてみる。彼は瞬時に対応する。
巣が完成し、蜜を運ぶ。そこで藁クズを入れてみる。全く無視。

本能はシーケンシャル。

本能は、過去に戻ることが出来ないのです。
全てを、順序立てて進めることしか出来ないのです。

巣作りは、次の作業に移った瞬間から、過去になるのです。
本能にとっては、作り終えた巣に穴が空く、ゴミが入るなどありえないのです。
それほど完璧に仕上げるよう、生物を突き動かしているのです。

人間は、物事を分割して認識できます(それを洗練するとオブジェクト指向になります)。

巣を作ること、蜜を格納すること。
全体が上手くいくように、行きつ戻りつ調整しながら作業を完成させます。

本能に従う生物は、それが出来ない。
その違いは、判断力(理性)です。

判断力とは何か?

それは人間にだって定義のしようがない曖昧な力。

本能は、曖昧を許しません。

曖昧さを許容しないからこそ、正確無比。

理性からみたら、彼は不器用なんです。

ちょっと本能が愛らしくみえませんか?ラブラブ


最後までお読み頂きありがとうございました。
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