http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130121-OYT1T00673.htm
からの引用です。
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人質家族「安否知りたい」…政府の情報力に不満
アルジェリアでのイスラム武装勢力による人質事件で、
大手プラントメーカー「日揮」の現地駐在員の安否も含めた
事件に関する情報が乏しく、日本に残る家族らから不満の声も上がっている。
アルジェリア政府からは安否情報などが寄せられているが、
21日午前に行われた菅官房長官の記者会見でも新たな情報はなかった。
専門家からは
「政府は情報収集や発信力が足りない」
との指摘も出ている。
「海外メディアでは事件の詳細や日本人の安否も報道されている。
信頼できる情報であれば、とにかく知りたい」。
安否が分からない日本人駐在員の親族はこう憤る。
事件発生から5日たち、
軍事作戦が終了した今も日本政府から発信される情報は少ない。
菅官房長官は21日の記者会見で、
イナメナスに20日入った城内実外務政務官や川名浩一社長らが、
予定していた病院での安否確認ができなかったとし、
「安否はまだ確認できていない」と話した。
英国では、ヘイグ外相が発生翌日の17日、
英国人1人が死亡し、数人が人質になっているとの声明を発表した。
18日にはキャメロン首相が議会で、
「危険にさらされている英国人は30人弱だったが、現時点でその数はかなり小さくなった」
と説明。
さらに20日には英国人6人らが殺害されたとみられると公表した。
フランス政府も19日までに、軍事作戦で自国の人質が1人死亡し、3人が解放されたと公表。米国務省は米国人の人質1人が死亡したと声明で発表している。
(2013年1月21日14時49分 読売新聞)
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政府の情報力に不満があるなら、対外諜報機関を作るしかありませんね。
日本には、対外諜報機関がありません。
内閣情報調査室室長を務めた大森義夫氏は、
『日本のインテリジェンス機関』文春新書 の中で、
”対外情報庁を作れ”
と主張しています。
しかし、対外諜報機関の場合、「ないなら作ればいい」
という単純な話ではないのです。
『インテリジェンス 武器なき戦争』佐藤優 手嶋龍一 幻冬舎新書
には、以下のようにあります。
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佐藤 そもそもインテリジェンスの世界では、組織よりも人なんです。
人材を育てるのが先で、組織をつくるのは最終段階。
まず器をつくって、そこに自分たちをはめ込もうというのは、典型的な官僚の発想です。
それは同時に、インテリジェンスからもっとも遠い発想でもある。
いま新しい情報機関をつくることになったら、日本の最悪の面が出てきますよ。
警視庁と外務省の綱引きになる。
そこに公安調査庁を持つ法務省も割り込んで、
三つ巴の縄張り争いが始まるのは間違いありません。
手嶋 すでに、その情報機関をイギリス型にしようといった声も聞こえてきますが、
イギリスのSISは機構上外務省に属しています。
その場合は日本でも外務省の統制下に置かれることになります。
佐藤 だから、霞が関周辺で「イギリス型で」という声を聞いたら、その時点で
「ああ、外務省の息のかかった人ね」とわかる
要は外務省のアンブレラの下に置くという結論が先にあるわけです。
一方、「CIA型で」という声を聞いたら、「ああ、警察の人ね」とわかる
現在の内調を強化して、警察直結の組織をつくるという発想なんです。
こういう組織文化があるかぎり、どうやってもこの綱引きは起きるんですよ。
このスキーム(図式)をぶち壊すのは政治家にしかできない
官僚が縄張りを守ろうとするときは、尋常ならざるエネルギーを発揮しますからね。
そういうことをさせないためには、
組織をつくる前にワンクッション入れたほうがいいんです。
急がば回れで、まずは人材の育成から始める。
国際スタンダードの本格的なインテリジェンス能力を備えた人間を5年間で50人、
インテリジェンスを理解する人間を200~250人ほど育てることが急務です。
それだけのパイを作っておけば、そこから新しい組織をつくることができるでしょう。
その5年間に、器についての研究もすればいいんです。
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引用文中の
”SIS”は、Secret Intelligence Serviceの略で、イギリス情報局秘密情報部のことです。
イギリスの対外諜報機関で、イギリス外務省の管轄下にあります。
SIS本部ビル ウィキペディアより転載
大森義夫氏は、警察出身で、言わば”防諜畑”の出身です。
”防諜”とは、カウンター・インテリジェンスの訳語で、
『インテリジェンス 武器なき戦争』佐藤優 手嶋龍一 幻冬舎新書
によると、
>外国のスパイやテロリストが日本国内に入ってくるのを水際で食い止める。
>あるいは侵入してしまった者を監視し、摘発をするといった仕事です。
ということです。
佐藤優さんは、外務省出身で、防諜とは真逆の
ポジティブ・インテリジェンス=対外諜報を行ってきた人物です。
私は『日本のインテリジェンス機関』をまだ全部読んではいませんが、
対外情報庁構想は、どうも”器”を先に作る、という話のようなのです。
対外諜報に関する限り、”器”を先に作ってはだめなのです。
”器”より”人”が先。
対外諜報をやれる人材の育成をまずやらないといけません。
さらに、
『インテリジェンス 武器なき戦争』佐藤優 手嶋龍一 幻冬舎新書
には、こうあります。
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佐藤 カウンター・インテリジェンスとポジティブ・インテリジェンスは
どこが違うかというと、
カウンター・インテリジェンスをやる人はバックに捜査権があります。
したがって、いざとなったら公権力を行使して、
力によって封じ込めることができる。
ところがポジティブ・インテリジェンスの人間は逆なんです。
公権力を持った相手の脅威にさらされながら、
ある意味ではたった一人でそれを打破するしかない。
以前、あるカウンター・インテリジェンスのプロに、
「あなたはモスクワにいたとき、どうやってプロテクション(防衛)を取っていたのか」
と批判的なニュアンスで言われたことがあります。
「われわれの世界では、情報を取りに行く人を、
周囲で車に控えたサポートチームが守っているが、
そういうプロテクションをちゃんとやっているか」
と言うんですね。
それをやらない私のことが理解できないということでしょう。
私は
「では逆にお伺いしますが、あなたはモスクワや北京で仕事をしたことがありますか」
と言いました。
「モスクワや北京で情報源の人間に会うときに、何十台も車を出して
周囲を守るような態勢を取ったら、その瞬間に全員が拘束されますよ」と。
そういう入口のところからして、まったく感覚が違うんです。
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佐藤さんは、ポジティブ・インテリジェンスの世界の住人であり、
警察出身で内閣情報調査室にいた大森さんは、カウンター・インテリジェンスの世界の人です。
”対外情報庁的な組織”は是非とも必要で、
”対外情報庁構想”を主張するのは結構なことなのですが、
”器を先に作る”という発想では、
有効に機能する対外諜報機関には、なりえないと思うのです。
アルジェリアの事件により、
「日本にもCIAみたいな組織が必要だなあ」
と思う方は増えたと思いますが、
組織を先に作ってしまうと、省庁間の縄張り争いが起こったり、
もともと文化が違う防諜畑の人々の発想で、対外諜報機関を運営するなどという
トンチンカンなことになりかねないのです。
だから結局、
”対外諜報機関は必要だが、組織を作る前に人材を育成しろ!”
ということなのです。
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