経済用語でファンダメンタルズという言葉があります。
http://kotobank.jp/word/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%82%BA
によると、
>>>
国際経済を安定させるために必要となる条件で、
各国の経済成長率、物価上昇率、国際収支などの
マクロ的経済指標(経済の基礎的条件)をいう。
為替レートが変動相場制に移行して以来、
これらの諸条件の各国間の格差を反映し、
相対的な通貨価格(為替レート)が変動するようになった。
各国間の基礎的条件の均衡が崩れる時に、為替レートの変動が大きくなり、
国際経済の不安定さが増すことから、「為替レートの決定要因」として重視されている。
1978年、ボン・サミットでのカーター米大統領の発言から一般化。
>>>
ということです。
経済用語のファンダメンタルズは、”経済の基礎的条件”という意味ですが、
これを国家戦略に当てはめて、
”国家の基礎的条件”=”国家のファンダメンタルズ”というものを考えてみたいと思います。
国家のファンダメンタルズとして、
人口、地形、地理的位置、天然資源、気候、歴史、経済構造、
人的資源(国民の気質、宗教、文化、教育)
などが考えられます。
これらは、大体において、変えることができなかったり、
急に変わることがないものです。
国家の基礎的条件が同じなら、
それに基づいて導き出される戦略も同じになるはずです。
同じ条件のもとで、国益を守る、あるいは最大化しようとしたら、
同じ戦略にならなければおかしいはずです。
内閣が代わっても、国家の基礎的条件は、変わりません。
だから、大筋では、国家戦略は変わらないはずです。
民主党のような”トンデモ政権”ができてしまった場合でも、
国家のファンダメンタルズに基づいて、
”ここは変えてはならない基本ラインだ”
という国家戦略の骨格のようなものを、あらかじめ用意しておけば、
ダメージを最小限に食い止めることができます。
このような、国家のファンダメンタルズに基づいて国家戦略を考えるやり方を、
”ボトムアップアプローチ”と呼ぶことにします。
例として、ボトムアップアプローチで、経済戦略を考えてみます。
日本は輸出立国
日本は貿易立国
日本(経済)は輸出依存
日本(経済)は輸出主導
今でもちょくちょく、TVや新聞で見聞きします。
正直、
「まだそんなこと言ってんのかよ」
と思ってしまいます。
2011年の各国の輸出依存度(輸入依存度も含む)のグラフ
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_40.html#Izonより転載
上のグラフで見ると、日本の輸出依存度は低いですね。
2011年だけのグラフなので、
「かつての日本はそうではなかった。日本は輸出主導で成長したのだ。」
という反論が来そうです。
しかし、過去も似たようなものだったのです。
以下のグラフは、
1955年から91年までの日本の輸出依存度(および輸入依存度)のグラフです。
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_19.html#kodoseicho02より転載
1955年の輸出依存度は9%弱で、14%程度だった2011年より低くなっています。
高度経済成長は、1954年から1973年で、
54年はグラフには、ありませんが、55年から72年ごろまでは、10%に達していません。
73年に急激に伸びています。
高度成長期が終わるころになって、急激に伸びているのです。
全体的に見て、高度成長期より、成長が終わったあとのほうが輸出依存度は高くなっています。
”輸出主導で日本は高度経済成長を成し遂げた”
というのは、完全に間違いです。
高度成長は、内需主導で成し遂げられたのです。
”日本経済は輸出依存や輸出主導ではなく、内需主導である”
これが基本となる事実です。
これをベースに経済戦略を考えるのと、
”日本経済は輸出依存または輸出主導である”
というのをベースに戦略を考えるのとでは、
全く違った戦略になるのは当然です。
基本となる事実の認識を間違っていたら、間違った戦略を立ててしまうことになります。
これはこわいことです。
日本のことを真摯に考え、”日本の発展のために”と考えて練り上げた戦略が、
日本を間違った方向に導いてしまうのです。
バブル崩壊後の日本は、それに近い状況でした。
(それについては、また改めて述べたいと思います)
日本は輸出立国ではありませんが、資源を外国に依存しているので、
貿易を途絶させてよいわけではありません。
外国から資源を買うためには、外貨が必要です。
その外貨を稼ぐためには、ある程度の輸出が必要です。
輸出は、
”資源の輸入のために必要な外貨を稼ぐ”
ためにやることであって、
日本の全ての富を稼ぎ出すためにやっているのではないのです。
資源の輸入に必要な外貨を稼いだら、
あとは内需で十分、国民を食べさせていけるのです。
輸出で稼ごうとしても、外国が不況だったら無理です。
輸出依存度の高い国だと、外国の景気に左右されてしまいます。
韓国は、日本より輸出依存度が高いです。
韓国の場合は、国内市場が小さいので、
輸出(=外需)に頼った成長というものを考えなければならないのです。
日本は、1億2000万という人口を抱え、十分大きい国内市場をもっています。
「日本は小さい国」
と思い込んでいる方が多いと思いますが、
日本の人口は、世界第10位です。(2011年時点のデータ)
世界のベスト10に入っているのです。
世界で10番目に人口の多い国なのです。
人口が1億人を超えているのは、11位のメキシコまでで、
12位のフィリピンは、9586万人ほどです。(いずれも2011年時点のデータ)
人口1億人以上というのは、かなり多いほうなのです。
人口世界10位の日本は、
世界で10番目に内需が大きい国
ということになります。
”国内市場が小さいから、外に打って出るしかない”
という国とは違うのです。
内需主導で十分成長していける国です。
それに、輸出主導で経済成長しようとしても、
今のヨーロッパやアメリカには、日本から製品を買う余裕は、あまりないでしょう。
中国も似たようなものです。
だったら内需を充実させて成長を図るほうが確実です。
”公共投資を増やすことによる内需主導の経済成長”
安倍内閣はまさにこれを打ち出しています。
ただ、心配なのは、経済財政諮問会議や日本経済再生本部に
新自由主義者が少なからずいることです。
日本は輸出依存度も輸入依存度も低い(ということは”貿易依存度が低い”と言える)、
世界で10番目に人口が多い”人口大国”、
という事実があり、
一方で、原油や天然ガスや鉄鉱石などは、輸入に頼るしかないという事実があります。
ならば、
原油などを輸入できる分の外貨を輸出で稼げばいい、
ということになります。
しゃかりきになって輸出を増やす必要はないのです。
それに日本は、すでに”資本財輸出大国”になっています。
”日本が作る資本財がないと世界の製造業は立ち行かない”
そんな状況になっているのです。
ですから、資本財メーカーの競争力が弱らないように、気を配っていれば、
資本財メーカーは、自動的に外貨を稼いでくれます。
あとは、内需が着実に成長していくような政策を考えればいいのです。
国家の基礎的条件=国家のファンダメンタルズを正確に把握していれば、
正しい国家戦略を立てることができます。
国民の知的水準が高い日本は、
多くの国民が、国家のファンダメンタルズを正しく知って、共有することが可能なのです。
こんな国は多分日本ぐらいのものでしょう。
やっぱり日本はすごいな
と思った方はクリックをお願いします。
↓