①リズム・拍子について

拍子(リズム)には4種類あります。「無拍子(むびょうし)」「乱拍子(らんびょうし)」「囮拍子(おとりびょうし)」「合わせ拍子(あわせびょうし)」です。
日本人選手が重視しているのは「無拍子」で、これが優れた選手が日本では勝つことができます。でも、世界で勝つためには「無拍子」を主にしながらも、「乱拍子」「囮拍子」「合わせ拍子」の全てができる選手が有利になります。
「無拍子」(No Telegraph:ノーテレグラフ)。予備動作の一切ないこと。競技空手では無拍子が理想なのですが、それは時間的に早いことではなく、こちらに拍子がないため相手が拍子を合わせられずに反応できないことにあります。現実には完全な無拍子の動きができる選手はいないため、その傾向にある選手がいると捉えてください。この理想の無拍子もその前に間合いをつめなければならないため、この間合いのつめ方で乱拍子や囮拍子が必要になります。拍子というのは1つの技を出すのにも複数を用いなければならず、拍子から拍子への移行をスムーズに行うことが必要です。
「合わせ拍子」(Synchro:シンクロ)。カウンターで相手のタイミングに合わせること。だだし、拍子が合えば自分から攻めても敵よりも一瞬早く攻撃できるので、必ずしもカウンターばかりとは言えません。このシンクロはヨーロッパ型組手の根本です。ヨーロッパでは合わせる事ができれば崩すことは簡単だと言われています。
お互いにステップしていると、何秒か毎に自分に有利な瞬間が訪れます。実際には飛んでいないのですが、わかりやすいようにピョンピョン跳ねていると仮定します。相手が跳んだ瞬間は着地するまで一番時間がかかるので自分にとっては一番のチャンスです。反対に自分が飛んだ瞬間は一番のピンチになります。最大のチャンスは自分が沈んだときに相手が浮いてくれるときです。誰と戦っても数秒毎に自分のチャンスと相手のチャンスが訪れます。この瞬間を嗅ぎ分ける能力をつけることが重要です。
「乱拍子」(Off Timing:オフタイミング)。違うリズムで、敵のリズムを狂わすなどの、タイミングを外して相手に技をとっさに出せないようにすること。リズムを崩して居つかせ、瞬間的に相手の戦闘能力を低下させるものです。
「囮拍子」(Fake:フェイク)。足払いと見せかけて上段を突くなどの、身体の動きや気配で相手に山を張らせること。相手の戦闘能力はそのままであるが、攻防の時にこちらの戦闘能力が瞬間的に相手を上回るもの。
ここから拍子に関する実際の試合での補足
「乱拍子」と「囮拍子」でスッと相手の射程圏内に入ると相手は反射的に攻撃してくるが、拍子が合わないため中途半端な攻撃になり、先を取りやすくなる。
その場でステップして無拍子で攻撃しても相手が微妙に反応してしまう。だから、1、死角からの攻撃。2、技に山を張らせない。の2点を心がけて攻めることしかない。「拍子を変えて相手を一瞬でもいいから気持ちと身体を居つかせることができれば、正面から攻撃してきて逆突しか出さなくてもポイントは取れるようになる。」
「魚のいないところにいくら糸を垂れても釣れない。」こませ(餌えさ)をまいて「魚さんいらっしゃい」が必要です。これを技で行う場合と拍子で行う場合がある。もちろん両方を併用して行えばさらに良い。簡単な例をあげると、中段で決めたいと思ったときに、わざと3回ぐらい上段を攻めておくと、相手の注意は自分の上段に来るので、中段がより決まりやすい。間で居つかせる場合で、一番一般的なのはフェイントでしょうね。言葉にすれば「なんだそんなことか」とりますが、うまい人がやると何回でも相手は引っかかってしまいます。
試合中に一定のリズムを刻み続けるのではなく自分のリズムを時折不規則に打つことにより、相手が自分のリズムに合いかけてきたのをリセットしてゼロに戻す効果があります。

前述の四つの拍子(リズム)は昔から日本にある概念です。
達人というのはリズムを必ず持っていて、そのリズムに相手を引きずり込んで制しています。
リズムを身につけるためには、初めは簡単に理解しやすいように動き回りながら覚え、ある程度動けるようになると無駄な動きを捨て、動から静のリズムに移行していきます。
全日本選手権4連覇の松崎選手は構えている時に身体が揺らいでいます、あれもリズム です。

だから、彼は技をあわせるのが天才的にうまいのです。
簡単にステップだけ考えると、自分が沈んだときに相手が浮いてくれたときが最大のチャンスですが、もっと詳しく説明すると、相手が浮いて、呼吸を吸って、前にステップした瞬間であれば最大のチャンスということです。それに、自分が沈んで、吐いて前にステップした瞬間と上記の相手の瞬間が合えば、絶対にポイントが取れる。この瞬間が数十秒に一回訪れる。それを逃さなければ、確実にポイントが取れます。
 昔はフットワークを使わなかったので、呼吸で読んでいた。今はより目に見える形でステップをするので、ステップでタイミングを合わせた方が合わせ易いと思います。

 チャンスは自分と相手の交互に訪れます。その瞬間を逃さないこと。また、123回と、ステップの合う瞬間が何度か訪れると、それで相手のタイミングを読めるため、一定のテンポでいることは非常に危険です。ですから段階的に、一定のリズムをきざめるようになったら、今度はリズムの崩しを勉強しなければいけません。
ステップのテンポを変えて、相手が自分のステップのリズムに合わせかけてきたところを時々、リズムを自分から崩してリセットさせてしまうのです。
 このリセットの技術がなければいつも合わせられて負けてしまうのです。

また、間合を計っているときのリズムと、入る時のリズムは違ってきます。
黒人の動きは見事です。彼等は一定の法則でリズムの崩しを行っていました。

 つまり、間合を計るときは8ビート、入る時は16ビートなんです。それを崩しといって良いかどうか?だから、自分の動きがバラバラになることがないのです。

月井新先生の教えです。