嘘恋シイ【33】[完] | 虹色金魚熱中症

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虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

嘘にならない

 

 

嘘恋シイ【33

 
 
 言い放った言葉に目を丸くして小波さんは暫く呆けていたけど、我に返ると開いていた口をきゅっと閉ざした。妙な顔で俺を見て 「意味わかんない」 と呟く。思わずといった感じに出た言葉は、多分本心なのだろう。

「小波もさ、正直になればいいのに」
 諭すように微笑んで、とにかく彼女の目を覗き込んだ。慌てるように彼女の目は泳ぐ。だから俺の視線は追いかける。

「な……。だ、だから、もういいって。私、もういいって言ってる。こういうの、もう、いいよ。上谷君が言い辛いなら、私が圭吾さん、……先生に言うよ。もう大丈夫だって」
 小波さんは繋いだ手に視線を落とした。俺もあとをたどって、もっとちゃんとしっかり握る。
「上谷君。いっぱい嫌なことさせちゃったけど……。もし、もしね。これからも友達でいてくれたら嬉しい」
 彼女が震える声で言う。最後のお願いたらんその台詞をまったくの見当違いだと指摘したい。

 
 呆れ混じりにため息をついた。何に呆れるって、俺と彼女にだ。俺も大馬鹿ものだけど彼女も充分、馬鹿ものだろう。

 
「だからね。そこ! わかんないんだよ。何それ?  俺の気持ち考えようってないわけ?」
 強く言うと彼女が顔を上げた。

 全部言わないと分からないなら、言うしかない。今度はきっと忘れないように、彼女が一人で消さないように。
「それってさ、遠まわしに俺のこと振ってるの?  ならはっきり言って欲しいんだけど」

 それは全部まったく嘘だ。俺をふるなんて許さない。もう、嘘なんて許さない。彼女の言葉を制して、言葉を続けた。
「小波はさ、信じてないんだ? 駄目じゃん。嘘と本当も見分けられないなんて。俺、ちゃんと言ったよね?」
 こちらを見上げる小波さんの顔に髪が掛かって、二人の視線の邪魔をした。だから、ゆっくりとその髪を耳にかけてやる。彼女は黙って俺を見ていた。二人の間に邪魔なものなんて無い。彼女のこさえる嘘だけだ。

  
「あのね。小波はさ、俺のこと何も分かってないのな。俺は優しくないし、兄貴に頼りにされるような奴じゃないよ」
 そうだ。本当にそうだ。兄が俺を頼ったりするもんか。可笑しくて馬鹿馬鹿しくて、何かを振り払うみたいに乱暴に頭を振るった。頭の中が揺さぶられて、俺は間違ってないと答えが出る。
「大体、俺。……あの時の告白さ。むちゃくちゃ緊張したんだよね。どきどきしてさ。なのに嘘とか思われちゃうわけだ」
 言いながらどんどん可笑しくなった。だけどちょっと、彼女に意地悪がしたい。

「手とか震えてたのにね。告白なんて柄じゃないし。それでも嘘だと思われたなんてショックだ」

 無理に頬を膨らまして、眉間に力を入れた。こんな顔、何年もしていない。駄々っ子みたいで子供じみた俺を小金沢たちが見たら笑い転げるだろう。かわりに彼女は 「子供みたい」 と小声で囁いた。

 
 そのとおりだと思った。俺は子供で彼女も同じだ。一体それのどこが悪い?

 
「そうだよ。子供だ。小波もね」
 子供だから、仕方ない。好きなものは仕方ない。笑いかけると、彼女は小さく後ずさった。
「無理だよ。だって、わた……」
 彼女は酷く困り顔で、だけど俺は開き直っていたし、もう気がついた。彼女の嘘なんて簡単だ。彼女の言葉を 「無理じゃないよ」 と遮って、無防備なおでこに自分のおでこをぶつける。
 びくっとした彼女は目を瞑った。そんな彼女を少し笑って、俺もゆっくり目を閉じた。
 

「小波さ、俺のこと好きでしょ」
 

 彼女は頷かないだろうと分かっていた。ぶんぶんと乱暴に頭を左右に振る。だから繋いだ手を離してやった。

 
「あ……」

 

 思わず零れた不安げな声に我慢できずに笑ってしまう。ほら、もう、嘘ばっかり。放した手で彼女の頬を包み込んだ。

 
「嘘が上手なんじゃなかったっけ?」
 

 ゆっくりと開かれた彼女の瞳に自分が映りこんでいる。意地悪で満足げな顔。小波さんはもう一度抵抗した。
「嘘じゃ、ないよ」
 俺を見上げる目からどんどん涙が溢れている。泣くような嘘なんて付かなくてもいいのに。だけどその嘘は特別だった。俺の為の嘘だし、俺への嘘だ。そして俺は 「嘘」 だと分かっている。

 
「多分さ、小波の嘘って俺には分かるんだよ」


 言うと彼女は泣き出した。堪える声もだんだん抑えられなくなる。彼女が俺の為に嘘をつくなんて思っていなかった。それが、こんなに嬉しいとも思わなかった。だけど 「嘘」 には意味が無い。だって俺はわかるから。

 
「だからさ。俺に嘘なんてつけないよ」
 

 笑った。笑うというより、もっともっと緩んだ顔をしているだろう。格好悪いなと思った。しまりのない顔を隠したい。だけど両手は彼女の頬に触れていて、それは絶対放したくない。

 
 声をあげて泣いていた小波さんは、ひっくと肩を震わせながらそんな俺見上げた。真っ赤になった目に映った俺は本当にしまらない。そんな顔でもう一度言う。

 
「俺が好きでしょう」
 

 彼女は俺の手のひらにその手を重ねた。散々腫らした赤い目で彼女は 「……うん、そうみたい」 と困ったように微笑んだ。

 
 そこには嘘も何も無かった。

 

 

 

 <完>

 

 

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