日本の鶏から揚げ(以下、から揚げ)がこれまでにない危機に瀕しています。そんなことをいうと「鶏肉の値段が上がったか」「中国産の鶏肉に何かあったか」 と鶏肉の価格や品質について、疑問を持つかもしれません。それはそれでとても重要なことなのですが、今回ここで記すのは、単なる鶏肉単体の話ではなく、人 間にとってのモラルや、企業にとってのコンプライアンスに関係します。

唐揚げは、江戸時代初期に中国から伝来した普茶料理を源流に持つとされ、豆腐を小さく切り、油で揚げ、さらに醤油と酒で煮たものが始まりとされて います。ごぼうなどの野菜から始まり、魚、やがては鶏肉とから揚げの種類は広がり、製法も素揚げから、下味を付けた肉に片栗粉をまぶした立田揚げ、現在主 流の小麦粉や片栗粉を薄くまぶした現在の唐揚(またはザンギ)、と日本を代表する国民食としてみんなに愛されてきました。

しかし、最近ではおかずとしていい料金を取りながら低価格な胸肉の唐揚げを提供するお店が増えてきました。何を大げさなと思う方もいるかもしれま せん。しかし、トンカツ屋でヒレカツを頼んだのに、脂っこいロースカツが出てきたら、良い気持ちはしないでしょう。むしろ、怒る人もいるはずです。

残念ながら、鶏から揚げの現場では、そうしたことは日常的に行われています。日本では大きく分けて鶏肉は「むね肉」と「もも肉」(手羽やぼんじりはここでは除外します)と区分され、肉屋でもそれらは分けて売られており、またそれらを表示する義務を負います。
しかし、冷食等の加工肉は別として、レストランで調理された鶏肉は「チキン」「とり肉」と表示されるだけで、大概のメニューではその部位を表示さ れていません。食べれば分かることですが、その食感、食味は大きく異なり、同じ鶏肉といっても別な食材と言っても過言ではありません。

誤解されると困るのですが、私たちはむね肉が悪いと言いたいわれではありません。むね肉は低脂肪・低カロリーに加えて、柔らかくて生食にも向き、 料理法が開発されるなど美味しくて健康的な食材です。むね肉をタレに漬けて下味をつけて食べやすくする、叩くなどして揚げても柔らかくなるよう、心血注い で作ったむね肉のから揚げも存在します。

ただ、食味は大きく異なるために「もも肉を期待していたのにでてきたのはむね肉だった」という理由でがっかりするケースが後を絶ちません。また、ヘルシー志向からさっぱりとしたむね肉を期待していたのに、出てきたのはもも肉だった。
私たちは、そのようなミスマッチを減らすためにも、「むね肉のから揚げ」と「もも肉のから揚げ」は、明確に区別して、消費者が適正に選択できる環境を整えるべきでしょう。

焼き鳥における鶏肉は、多くの部位に分類されて、それぞれがそれぞれの個性を発揮することで、焼き鳥文化に隆盛をもたらしました。から揚げ(に限 らず鶏料理全般)における鶏肉の個性を見極め、その良さを最大限に引き出すためにも、区分は明確に、消費者に情報として呈示すべきと考えます。

もちろん、から揚げは、から揚げであり、むね肉であろうと、もも肉であろうとから揚げであることにかわりはありません。しかし、料理とは素材の選 択が大事であります。それぞれに優れた個性がある以上、美味しくいただくためにも、から揚げ分離派としては、消費者が適正に選択できる環境を整えるべき と、声明を発して、宣言とさせていただきます。