「大丈夫、ですか」



「あ・・・」


目に飛び込んできたのは信じられないくらい、綺麗な人。


横断歩道 - オカダジュンイチ


(秋だなぁ)


一年の中でこの季節が私にとって一番過ごしやすい季節だ。


好きな季節はと聞かれたら生まれた冬と答えるけれど。


熱いのは苦手だしかといって寒すぎるのも過ごしやすいとは言えないからだ。


気候もそうなのだけど、一番好きなのは秋を彩る木々。


食欲の秋、といわれる所以である食物が美味しいのもこの季節だ。


「あ~おいしそうだな」


出不精の私が休日だというのにカメラ片手に散歩をしているのは近所にそれは立派なイチョウ並木があるからで。


その独特の味と匂いから人によって好みが多く分かれる銀杏だけど、私はその癖のある味が結構好きだったりする。


私の中では栗やサンマと肩を並べる秋の風物詩の一つでもある。


食べすぎに注意だけど栄養価の高い食材だしね、と付け加えてさて今夜の夕食はどうしようかなと考える。


チラッと確認したそれはいつの間にか青に変わっていたから歩き出した、刹那。


車道に踏み出しかけたその足は、後ろに引かれた体とともに引き戻った。



(あ、バイク見えてなかった)



そのまま緩やかに歩道に倒れこむのと同時に感じたのは暖かい、誰かの体温。


その誰かに折り重なるように倒れてしまったけれど、つかまれた腕のせいでか反射的には起きれなかった。


構図的には私が彼の上に載ってしまっている感じの状態で。


「大丈夫、ですか」


「あ・・・」



目に飛び込んできたのは信じられないくらい、綺麗な人。


釘づけになって、思わず目が離せなくなる。


まだ薄着の秋服に包まれた肢体はとてもしなやかで、それでいて屈強。


どうしたら___


「大丈夫、ですか」


呆然として言葉一つも発しない私をどう思ったか、彼はもう一度同じことを聞いた。


その美しい目に私の考えていたことを見透かされそうな気がした。


「あ、いえ・・イチョウが綺麗だなって」


だからか、私はそのかけられた言葉への答えにならないことを言って、起き上がり、彼と距離をとった。

手についたまぶしいほどに鮮やかなイチョウの葉を落とす。


「え?」

体を起こした目の前の彼は訳が分からないといった様子で目を点にした。


「い、イチョウを見ながらぼーっと歩いてたみたいで、ご迷惑おかけしてすみませんでした!」


とりあえず人として最低の礼儀は守ってその場を去ろうと思った。


「待って」


「はい?」

呼び止められて立ち止まらないわけにはいかない。

今度は何を言われるのかと思って待ち構えていたら彼はその細くて長い指を口のところにもっていって、



「あの、歯に海苔ついてます」

と言った。


「は」


「前歯のとこです」


失念した声を漏らした私に彼はその指で彼の右の前歯をトントン、と叩くように示した。


「あ、ご丁寧にどうも・・・」


さ、最悪だ。バックの中から手鏡を取り出してそれを確認する私はどんなに滑稽だったことだろう。


「色々ありがとうございました。それでは・・」


金輪際朝食に海苔を食べるのはやめようと固く心に決めて今度こそ、彼から去ろうとした。


「あの」


「まだ、何かついてます?」


「いえ、そうじゃなくて銀杏お好きならうちに来ます?本当に腐るほど余ってるんですけど」


「え?」


「いや、さっきイチョウの木を見上げながら美味しそう、って言ってたの聞いたんで」


「いえ、あの、どうぞお構いなく・・・」


は、恥ずかしい。

そんなことまで聞かれていたとは。


「じゃ、とりあえず心配なので横断歩道だけ渡っちゃいましょう。」


「ありがとうございます・・・」


見るに、彼は同年代だ。もしくは年下かもしれない。

私は今まさに穴があったら入りたいということわざの意味を思い知らされた気分で横断歩道を渡っていた。


「ここです。」


「えっと、、何がでしょう?」


「僕の家です」


「へ?」


彼が指さす方を見ると建ってから日が浅そうな綺麗なコンドミニアムがそびえたっていた。


「ほら、そこの下、一階が僕の家なんですけど庭、見えますか?」


「は、はぁ・・・」


「そこに1本、イチョウの木生えてるの見えます?」



「はい、綺麗ですね」


「じゃ、行きましょう」


「えっと、、?」


「大丈夫です、庭に直接入れる道があるので」


「いえ、そういうわけには・・・」


「そういえばさっきあなたを受け止めた時に少し足をひねってしまったんですけども」


ズルい言葉だ。

私の背中を押す、じゃなくて強引に足を突っ込ませようとしているのほうが表現は正しい。


「じゃあ、」

庭に入るだけなら、と続けた私も大概にして馬鹿だ。


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「あの、すみません何だかたくさんもらってしまって・・・」


あの後、渋々ながら庭に足を踏み入れた私だけれど、予想外に美しい庭だったのでついつい長居をしてしまった。

彼の名前は岡田准一さん。

お仕事は何をされている方なのかわからないけれど不定期なお仕事らしい。


聞いた話、ご友人の趣味が家庭菜園でその苗をもらって育てたりするうちにその深みにはまってしまったのだとか。


「いえ、どうせ独り身ですから」


(こんな綺麗な人なのに)


「では・・」


少し話して彼を知ってしまったからか、何だか去りにくい。



「これ、僕の番号です。気が向いたら電話してください」


「あ、はい・・・」


思わず受け取ってしまった紙に書かれていた文字の意外な無骨さと、再び触れたその体温にそのあとどうやってわかれたのか、帰り道はどこをどう帰ったのかすらもわからなかった。



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お分かりかと思うんですがこの話少しばかり季節に間に合っていないかもです・・・。

岡田くんのbicycleストーリーみたいなほのぼの系の話を、とラストイニングさん(リクエストありがとうございました&遅れてすみません)にリクエストいただいてから早数か月、9月の頭に書いたものを忙しさにかまけてアップしておりませんでした。。。

やはり季節ものは私には無理かなと思いつつ②を違和感ないように進めておりますので楽しみにしていてくださるとうれしいですショック!


学校へ行こう!2015の放送のおかげなのでしょうかアクセス数がすごいことになっていてビックリしました、いつもありがとうございます^^


浅菜゜