覆面ハッカー「ウラジミール」が謎の急死


Vladimir Vlad――ロシア人紛いのハンドルネームを持ち、
通称「ウラジミール」と呼ばれていた“日本人”ハッカーが8月30日に急死した。
自宅に帰った家族が遺体を発見したという。司法解剖せずに荼毘に付した模様で、
今のところ死因は定かでない。

その急死の報は、瞬く間に日本の情報機関の間を駆けめぐり、様々な波紋を巻き
起こした。ウラジミールが中国、北朝鮮はもちろん、アルカイダ系やブラジルの
地下組織のサイト、果ては米国の情報機関にまで精通する希有なハッカーだったからだ。

ウラジミールがサイバー空間で活動をし始めたのは、インターネット黎明期の
パソコン通信時代。

まだ「2ちゃんねる」ができる前のネット掲示版で暴露的な情報を流し、一目置かれる
存在だった。


(FACTA ONLINE2015年10月号)



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天才ハッカー死去、公安当局が極秘裏に証拠隠滅の怪
(Business Journal2015.9.30)



「警視庁公安部です。ご主人のパソコンを提供していただけませんでしょうか?」

 新宿駅に近い賃貸マンションの一室で男性が倒れているのを、その妻が
発見したのは8月末のことだった。急ぎ病院に運ばれたものの、ほどなく医師により
死亡が確認されたという。
 
公安が妻のもとに現れたのは、それから間もなくのこと。
本来、裁判所の押収令状なしに警察が私人の所有物を押収することはできない。
しかし、なぜ公安は彼の家にやってきたのか。週刊誌記者は次のように話す。


「死亡した男性は、『天才ハッカー』のウラジミール(Vladimir)氏だったのです。
同氏は、表向きにはウェブデザイン会社の経営者でしたが、実際には内閣情報調査室や
米国防情報局(DIA)の依頼を受けて、中国や北朝鮮の情報を集めていたと
いわれています。
公安は、この証拠隠滅のためにパソコンを回収しに来たのです」

「ウラジミール」とは、あくまで彼が原稿を執筆した際のペンネームだ。
同氏はれっきとした日本人である。経歴は公にされていないが、10代からコンピュータ・
プログラミングを独学し、英語や中国語、韓国語など5カ国語を操りながら、
世界中のハッカーと交流していたといわれている。

そうして、インターネット黎明期には、日本人ハッカーの第一人者として、名の知れた
存在となっていた。
また、ウラジミール氏は『スーパーハッカー入門』(2000年/データハウス)や
『チャイナ・ハッカーズ』(14年/扶桑社)などを上梓し、自身でも
北朝鮮情報サイト「NORTH KOREA TODAY」を主催するなど、情報発信も
積極的に行っていた。
 


ウラジミール氏と交流のあったインターネットセキュリティ専門家は、同氏の
“業績”について、こう付け加える。
「公安当局が彼に近づいたのは、1990年代のこと。
彼のハッキング技術を目的に取り込もうとしたようですが、彼が提供していた情報は
『検索』によるものでした。

語学力とビッグデータ処理能力を使って、各国に散らばる情報を取りまとめていた
だけだったんです。
もちろん、ウラジミールは確かに凄腕のハッカーでした。しかし、
00年に不正アクセス禁止法が施行されてから、彼はハッキングを一切行っていないと
思います。これは、本人が断言していますので、彼の名誉のために言っておきたい」








防衛省、警察庁にも技術提供

しかし別の関係者は、「ハッキング自体を行わずとも、彼の影響力は絶大だった」
と話す。
「米国政府は14年5月に、中国人民解放軍サイバー部隊の幹部を起訴しているのですが、
実はウラジミール氏は、これにも一役買っていました。
ハッキングの手口を熟知する彼が、中国サイバー部隊の所在地と実行者を特定して
いったのです。
 
そして現実主義者の彼は、早くから日本の安全保障政策に強い関心を向けていました。
そのため、公安当局からの依頼も『日本のため』という気持ちで引き受けて
いたのでしょう。

実際に、彼はハッカー集団アノニマスによる日本政府への攻撃をやめさせたことも
あります。防衛省や警察庁のサイバーセキュリティ関係者も彼の下に日参して、
対ハッキング技術を習得していたほどです」
 
前出の週刊誌記者によれば、ウラジミール氏が保有していた公安当局とのつながりを
示すデータは「すべて回収された」という。
ウラジミール氏と公安当局との関係や、彼が日本のサイバー防衛に与えた功績は、
今後も世に出ることはないのだろう。

それが、情報の世界に生きてきた者の宿命だからだ。しかし、だからこそ、
名もなき戦士には「名誉」という形で応えるのが、国の責務というものでは
ないだろうか。
 ウラジミール氏の冥福を祈りたい。

(文=編集部)



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【ウラジミール氏】

サイバーテロ研究専門家として英中韓国語を駆使し、中国、北朝鮮を中心に、
おもにアジア地域のサイバーテロリズムに関する情報を収集分析。
月刊誌『正論』、『ウェッジ』などで、おもに北朝鮮に関する記事を多数寄稿。
『サイバー北朝鮮』(白夜書房)。訳書に『ハッピー・ハッカー』(白夜書房)など