本協会が独断と偏見で全国の様々な塔をバッサリと褒めちぎり切り捨てて行く「一塔両断」のコーナーですが、ここにきて今までに例をみない存在のタワーが登場です。
「超高層住宅実験タワー」といいます。
保有者は旧住宅都市整備公団、現UR都市機構。この時点でレア感が半端ないのですが、その目的も超高層集合住宅のバルコニー形状・温室度環境・排水環境等を研究するためのもの、というまさに純粋な研究のための高塔なのであります。
UR自身が「世界に例を見ない」と謳う研究用の高塔、早速近寄れるところまで行ってみましょう。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140428/19/kanto-ce/34/f2/j/t02200293_0800106712923157114.jpg?caw=800)
▲北八王子駅から見たタワー
UR都市機構は北八王子駅の北側に技術研究所を有し、敷地内には各種試験設備が配置されています。
同研究所では、昭和30年代から今後急成長するであろう集合住宅への研究が熱心に行われており、物量の増加を迎えた頃からは住環境の質的向上への取り組みが行われています。
このタワーもその研究施設の一つで、超高層ビルが建設された日本において、超高層集合住宅の研究についてノウハウを得るべく開発された高塔です。
余談ですが、「超高層」という言葉がありますが超高層という定義は曖昧です。
明確にこの大きさ、規格を満たすのが超高層です、というものはないようです。
ですからかなり大雑把な言葉になっている訳ですが、このタワーにあってはあるサイトによると高さが108mあるそうです。(文末リンク参照)
建築基準法で法律面で差が生じる60m以上の物という定義に基づいたものなのでしょうか。
どちらにしろこの高さでは十分高いので、十分な研究環境が整っているのだと思います。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140428/19/kanto-ce/fd/26/j/t02200440_0640128012923157111.jpg?caw=800)
▲タワー全景。八角形の鋼管・トラス鉄塔である
タワーは鋼管によって構成されたトラス鉄塔です。
八角形という形状もあって質実剛健な印象を受けますね。
スカイタワー西東京のようなデザインにも見えます。
そういえば昼間障害標識は既定の7等分ではなく8等分です。これは珍しい。
近隣住民の方々の話では、「建築物として建設するのに支障があったため、構造物となる鉄塔で建設した」という旨をお聞きしましたが、この構造を見るとそのような理由があったのではないかと考えられますね。
しかし、研究施設であれば建築物として立派な超高層マンションのモデルをまるまる建てる必要もないのではないかと思ってしまうところで、所定の研究成果を残すための設備が整うのであれば充分ではないでしょうか。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140428/19/kanto-ce/be/2e/j/t02200154_0800056112923158671.jpg?caw=800)
▲タワー下部の貯水タンク。水利関連の研究に用いるようだ
タワー下部から見てみましょう。
下部には何やら銀色の貯水タンクの様なものが設置されています。
これは超高層住宅における排水設備の試験を行うための物の様です。
集合住宅では、通気立て管方式と伸頂通気方式という2種類の排水方式が用いられています。
前者は2本の管を通し、別の管路で通気を確保します。
後者は1本の管路で、特殊な継手を用いることで排水と通気双方を確保します。
コスト面・運用面でいえば後者の方がメリットがありますが、これを超高層領域で実現できた例が無かったようで、実際に試験したらどうだろうかということでこのタワーの主要試験項目の一つになっています。
このタンクを用いたであろう本研究により、現在では超高層住宅においても伸頂通気方式という排水方式を用いて建設されるに至っているようです。(文末参考リンク参照)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140428/19/kanto-ce/a1/e9/j/t02200293_0800106712923157737.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140428/19/kanto-ce/07/7a/j/t02200293_0800106712923157113.jpg?caw=800)
▲各種実験設備が搭載されるタワー上部
同じく参考リンクによると、タワーには12m(4階相当)毎に実験床が設けられているようです。
確かに、見るとグレイチングの作業スペースが等間隔で設置されていますね。
・・・、研究職の方々はどのような方々かはわかりませんが、高所恐怖症の方でしたら間違いなく作業を嫌悪して、この組織で何故こんな仕事・・・と思うでしょう。。
数十メートルの高さにおいて、足下がスカスカのフロアで研究を行わなければならないのですから(笑)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140428/19/kanto-ce/1d/cc/j/t02200165_0800060012923157112.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140428/19/kanto-ce/69/75/j/t02200165_0800060012923157110.jpg?caw=800)
▲タワー最頂部に位置する水タンクらしき設備とバルコニー
タワーでは、超高層のバルコニーにおける環境や形状も研究しています。
設置された仮設のバルコニーでは、超高層という空間でベランダがどうあるべきか、形状は何がいいのか、材質は、といった疑問に応えるべく様々な研究がなされていることでしょう。
このほか、貴重な実験用の高層タワーということで、各種実験ができる様な設備が整っているようです。
敷地内にも各種実験設備が建っていますが、隣には給排水実験棟という年季の入った施設があります。
この様な設備を見るとわかりますが、敷地と国土の関係からウサギ小屋と称された国内の集合住宅において、質的側面を少しでも改善しようと真面目に研究が行われてきたのだな、と感じます。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140428/19/kanto-ce/5a/4e/j/t02200165_0800060012923157735.jpg?caw=800)
▲給排水実験棟。このほかの設備も古くからあるものは多い
団地マニアの皆様も、鉄塔マニアの皆様も、日本の集合住宅の歴史を支えてきたといっても過言ではない真面目な研究所、そしてその一部の世界的にも珍しい高層実験棟を拝んでは如何でしょうか。
なお、申し込みで一般公開も行っているほか、場合によっては一般向けの特別公開も行われているようです。
見識を深めたい方は是非!
<参考>
UR都市機構技術研究所 : 「超高層住宅実験タワー」
建築技術支援協会 サーツ : 108mの超高層住宅排水実験タワー」