【要】通信
 
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〈81〉改憲志向でいいのか

ばたばたと同日に都知事選・総選挙の日程が入って、その結果がわからないうちに本稿を書いている。12党乱立のなかで各党の選挙政策を読んでみると、自民・維新・国民・幸福・大地・改革の6党が改憲あるいは新憲法を掲げている。民主・公明・みんな・未来の4党の選挙政策には憲法についての記述はないが、日米同盟強化・防衛力強化だ。護憲の主張は社民・共産の2党のみ、合わせても衆議院議席数が3%の現状を改善できるかどうか。むろん自民のなかでも性急な明文改憲志向には抵抗が強いといい、当面は集団的自衛権をめぐっての解釈改憲が焦点になるのだろう。ある人はメールで「9条にとって史上最大の危機」と伝えてきた。

私たち団塊世代は日本経済の高度成長のなかで育ち、高度成長の余録のなかで年金生活に入った。その余録は一方では日本国憲法(的秩序)によって、他方ではグローバルな格差拡大によって支えられている。しわ寄せを受けたと感じている人びとにとっての、昭和的秩序は敵でしかないという感性。逆に自分は「勝ち組」であり続けることが可能だと思っている人びとにとっての、自由競争(弱肉強食)こそ善であって平等は敵だという感性。それがともに改憲志向につながるのだろう。

しかし、アジアをふみつけにした日本の「豊かさ」、沖縄と福島をふみつけにした東京の「豊かさ」などいらないのではないか。原発事故の被害はどこで生活していようが免れないのではないか。オスプレイは日本のどこにでも落ちて来るのではないか。若者に未来展望が開けない社会、いちどコケたら立ち上がれない社会はみんなが不幸なのではないか。だとしたら、弱肉強食政治ではなくて、福祉再建政治をめざすべきだと思う。いまや「護憲」も「革新」も、マイナスイメージが強くなっている。感性に対して論理で対応することは難しくて、手間ヒマがかかる。けれども私たちは、差別のない、平和に生きる権利の確立される世界に向けて、言葉の力をまだ信じるほかはない。

湯浅誠さんは言っている。「ヒーローを待っていても世界は変わらない」。東京・練馬の地では「人にやさしい」都知事候補を応援する勝手連が、8会派と無党派市民によって運営されている。会議ではさまざまな世代から活発な意見が出されて、さまざまな創意工夫で運動が取り組まれて、当然ときには空回りするけれども、みんな元気だ。

予告のとおり、【要】通信をこれで終わります。編集工房【要】を間借りさせてくださった窓社の西山さん、本通信を連載してくださったジャパンフォトの浅野さん、そして読者のみなさん、ありがとうございました。(2012年12月10日 大内要三)

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〈80〉離島奪還訓練

11月5日から16日まで、陸海空の自衛隊38000人と米軍1万人が参加する軍事演習が沖縄周辺で行われている。正確な名称は「平成24年度日米共同統合演習(実動演習)」、略称は「24FTX」、英語名は「Keen Sword 13」という。防衛省統合幕僚監部の発表では中身(演練項目)は「陸上・海上・航空作戦、基地警備等、統合・共同輸送、捜索・救難活動」の4点。これだけでは何をするのかよく分からないが、先月までは「離島奪還訓練」、つまり日本領土の離島に侵入した外国軍を蹴散らす訓練が目玉だとマスコミの一部で報道されていた。実施場所は那覇の西北60キロにある無人島、入砂島。横文字のカンマ(,)のような形をした周囲2キロの小島で、米空軍の射爆撃場(施設名では出砂島)となっている。

しかし10月22日になって日米両政府は中国への配慮から「島嶼防衛訓練」(離島奪還とは言わない)を中止、模擬訓練に止めると発表した。演習の全体は非公開とされているので、実際にはどこで何が行われているのか分からない。いちばん詳しく報道している産経新聞でも、陸上自衛隊の輸送に米軍艦艇が使われることが分かる程度で、韓国軍オブザーバーが参加するのかどうかも分からない。さすがに尖閣諸島周辺は演習海域とはしないだろう。しかし日米で48000人もが実際に動く大規模な演習で、しかも米国大統領選挙、中国共産党大会の真っ最中、12月には韓国大統領選挙があるという、政治的アピール効果の大きな演習だ。逆に言えば米国大統領が誰であろうと、中国の新体制がどうなろうと、米軍の自衛隊への要求は変わらないということだ。

何年も前から私があちこちで書いてきたように、日本の離島防衛に米軍が出動することなどあり得ない。今年の9月にグアムで行われた米海兵隊と陸自・西部普通科連隊の「水陸両用共同実動訓練」、および来年度防衛予算概算に「水陸両用戦車」4両分25億円が計上されていることの延長で考えると、いま米海兵隊が自衛隊に島嶼防衛のやりかたを教授している、ということなのだろう。しかもそのことは、中国海軍が太平洋に進出することをチェックして、米国を安泰にする。

こういうときに偏狭なナショナリズムが「領土を守る自衛力増強」宣伝とマッチすることの危険を感じる。「領土問題」の「解決」など100年かかって当然。資源開発のめどが全く立っていない、というより資源の存在さえ証明されていない尖閣諸島周辺で、当面重要なのは多国籍漁業者の安全を守ることであって、軍事力による防衛ではない。日本国憲法は軍事力によらず、外交と国際世論の力で国を守ると決めたはずだった。(2012年11月9日)

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〈79〉ACTAは悪法か

著作権あるいは知的財産権の保護にかかわる条約・法律の目的は2つある。ひとつ、作品を勝手に改変、本来の作者の意図と違ったものに変身させないこと。ふたつ、無断コピーにより、作者の得られるはずの収入を奪わないこと。印税にも原稿料にもほとんど縁のない私には後者は無縁だが、前者には関心がある。とりわけ無署名のため発信者が特定できにくいネット社会では、発信者に都合のよい部分だけ切り張りして、たとえば脱原発論者を原発推進論者のように見せかけることもできるから。まあ、活字メディアの学者先生の署名論文でも、著者に都合のよい部分だけ切り張りして引用することなど、いくらもありますけどね。

9月6日、ACTA(偽造品取引防止条例)が衆議院本会議の賛成多数で可決され、日本が最初の批准国となった。2013年5月発効予定。米国・韓国・EU主要国はすでに署名しているが議会での批准を済ませておらず、肝心の中国や東南アジア諸国に参加の動きはない。同条約はもともと日本から提唱したもので、蔓延する偽造品、つまり偽ブランドとか海賊版を取り締まるためのものだ。それは分かるのだが、無断コピー取り締まりの対象をネットからのダウンロードやジェネリック医薬品などにも広げているので、監視社会化や、開発途上国でエイズ治療薬が使えなくなる、などの懸念があった。それらの疑問がすべて解決されたとはとても言えない。9月6日の衆院採決は、たまたま問責決議問題で野党が審議拒否をしている最中に賛成多数で行われてしまった。先立つ8月3日の参院本会議採決では、民主・自民・公明はもちろん、共産党もACTAに賛成しているが、社民党は棄権した。

関連する国内法として、さらに少し前の6月20日には、著作権法改正が成立している。5点の改正点のうちの第5がくせもので、違法ダウンロードに対して2年以下の懲役または200万円以下の罰金、という刑事罰を科した。2013年1月1日施行。何が違法になるかというと、これまた広範囲で、著作権のあるよそさまの文章や写真・動画などを、許可を得ずにブログにはりつけることも含まれると、文化庁は解釈している(ブログ・アナタカラによる)。著作権のある文章を翻訳して掲載するのもダメだそうだ。親告罪だから著作権者が無断使用を発見して訴えない限りセーフだが。

海賊版やネット荒らしなどは不愉快だけれども、刑事罰と国家による監視で対応するのは、どこかほかの方向、つまり治安維持法体制のような「いつか来た道」にならないかと懸念される。ACTAはTPPやGSOMIA(軍事情報包括保護協定)にもどこかでつながっていると思うし。(2012年10月10日)

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