たかゆきには悩みがある。
小学校の三年生になったのに、自分でエレベーターのボタンを押せないことだ。
たかゆきの家は高いタワーの最上階。
エレベーターのボタンも一番上にある。
三年生の生徒の中で一番背が低いたかゆきでは、手が届かないのだ。
二年生までは、ママが学校まで送り迎えしてくれたから問題はなかった。
だけど、今年からママが働くことになって、たかゆきは一人で学校に通っている。
それは、べつにどうってことない。一人だってちゃんと歩いていける。
エレベーターだけが、問題なのだった。
今日もたかゆきは、学校から帰って、タワーのエレベーターホールで立ちんぼうしていた。
誰かが通ったときに、エレベーターのボタンを押してくれるまで待っているのだ。
パパやママに話せば、きっとママは仕事を辞めてしまう。
ママが大好きな仕事を辞めることになったら、きっと悲しむ。
たかゆきは一人で、この問題に立ち向かわなければならない。
じっと待っていると、知らないおじいさんがやって来た。
「おや、ぼうや。なにしてるんだい?」
「こんにちは」
「はい、こんにちは。お父さんかお母さんを待ってるの?」
たかゆきは首を横に振って、事情を話してエレベーターのボタンを押してもらおうとした。
「それは大変だ。そうだ、良いものをあげよう。ちょっと待っておいで」
そう言って二階に上がっていったおじいさんは、すぐに戻ってきて、一本の棒をたかゆきに渡した。
「これはね、まごの手と言って、手の届かないところまで、代わりに手を伸ばしてくれるものだよ」
「なんで、孫なんですか? 孫じゃ、手も小さいのに」
「それはね、大きな手だと、細かいところに手が届かないからだよ。じゃあね、ぼうや。一人でおうちに帰るといいよ」
おじいさんは、にっこりと笑って、たかゆきがエレベーターに乗るのを見送ってくれた。
たかゆきは、まごの手を伸ばして最上階のボタンを押した。
まごの手はボタンを押すのにちょうどいいサイズだ。
たかゆきは、それから毎日、ランドセルにまごの手を差して学校に通っている。
たかゆきには、おじいさんもおばあさんもいる。つまり、たかゆきは孫だ。
きっと、自分の小さな手も、細かいところに届いて、誰かの役にたつんだろう。
そう思ってまごの手を見ると、小さいことも、悪くはないように思えてきたのだった。
小学校の三年生になったのに、自分でエレベーターのボタンを押せないことだ。
たかゆきの家は高いタワーの最上階。
エレベーターのボタンも一番上にある。
三年生の生徒の中で一番背が低いたかゆきでは、手が届かないのだ。
二年生までは、ママが学校まで送り迎えしてくれたから問題はなかった。
だけど、今年からママが働くことになって、たかゆきは一人で学校に通っている。
それは、べつにどうってことない。一人だってちゃんと歩いていける。
エレベーターだけが、問題なのだった。
今日もたかゆきは、学校から帰って、タワーのエレベーターホールで立ちんぼうしていた。
誰かが通ったときに、エレベーターのボタンを押してくれるまで待っているのだ。
パパやママに話せば、きっとママは仕事を辞めてしまう。
ママが大好きな仕事を辞めることになったら、きっと悲しむ。
たかゆきは一人で、この問題に立ち向かわなければならない。
じっと待っていると、知らないおじいさんがやって来た。
「おや、ぼうや。なにしてるんだい?」
「こんにちは」
「はい、こんにちは。お父さんかお母さんを待ってるの?」
たかゆきは首を横に振って、事情を話してエレベーターのボタンを押してもらおうとした。
「それは大変だ。そうだ、良いものをあげよう。ちょっと待っておいで」
そう言って二階に上がっていったおじいさんは、すぐに戻ってきて、一本の棒をたかゆきに渡した。
「これはね、まごの手と言って、手の届かないところまで、代わりに手を伸ばしてくれるものだよ」
「なんで、孫なんですか? 孫じゃ、手も小さいのに」
「それはね、大きな手だと、細かいところに手が届かないからだよ。じゃあね、ぼうや。一人でおうちに帰るといいよ」
おじいさんは、にっこりと笑って、たかゆきがエレベーターに乗るのを見送ってくれた。
たかゆきは、まごの手を伸ばして最上階のボタンを押した。
まごの手はボタンを押すのにちょうどいいサイズだ。
たかゆきは、それから毎日、ランドセルにまごの手を差して学校に通っている。
たかゆきには、おじいさんもおばあさんもいる。つまり、たかゆきは孫だ。
きっと、自分の小さな手も、細かいところに届いて、誰かの役にたつんだろう。
そう思ってまごの手を見ると、小さいことも、悪くはないように思えてきたのだった。