香枝は毎日、お祈りしています。

 

赤ちゃんが家にやってきますように。

 

香枝には兄弟がいません。

 

親友のめぐには産まれたばかりの弟がいます。

 

小さい小さいお手手で香枝の指をぎゅっと握ってくれた、そのかわいらしさと言ったら!

 

香枝は赤ちゃんのお世話をしたくて仕方なくなりました。

 

でも、毎日毎日、お祈りしても、赤ちゃんはなかなかやってきません。

 

そこで、香枝は作戦を変えました。毎日毎日、家の手伝いを一生懸命するようになったのです。

 

「香枝、最近、ほんとうに良い子ね。どうしたの?」

 

「ママ、私、良い子?」

 

「ええ、とっても」

 

香枝は心の中で「よしっ!」と気張りました。

 

そして、とうとうこの日がやってきました。クリスマスです。

 

サンタさんへの手紙に、ちゃんと「赤ちゃんをください」と書いたのです。とても良い子にしていたのです。きっとかなうはず!

 

朝、目が覚めると、ぱっと起き上がり、クリスマスツリーが飾ってある部屋に走っていきました。

 

その部屋に、赤ちゃんはいません。

 

クリスマスツリーの下にはリボンがかけられた大きな箱が置いてあります。

 

香枝は急いでリボンをほどいて箱を開けました。

 

中には本物の赤ちゃんくらいの大きさのお人形が入っていました。

 

香枝はがっかりして座り込みました。サンタさんは願いをかなえてくれなかったのです。

 

お人形なんていりません。本物の赤ちゃんがいいのです。

 

香枝は箱を蹴とばしました。箱の中から赤ちゃん人形が飛び出して、ごろんと転がりました。かわいい顔が香枝の方を向いて、なにか言いたげに見えます。

 

とても悪いことをしたような気がして、香枝は赤ちゃん人形を抱き起しました。そこに、ママが入ってきました。

 

「あら、香枝ちゃん。とっても素敵なプレゼントをもらったのね」

 

香枝は急に悲しくなりました。香枝が本物の赤ちゃんが欲しいと思っていることはサンタさんしか知らないのです。ママはなにも知らないのです。でも、このお人形を素敵だなんて言ってほしくないのです。

 

「うわあん」

 

香枝は大声で泣きだしました。ママはびっくりして香枝のそばに座り込みました。

 

「どうしたの、香枝ちゃん。どこか痛い?」

 

ママに聞かれても、香枝はなにも言わずに泣き続けました。クリスマスの朝の特別なごはんも食べず、教会にも行きませんでした。ずっと泣き続けていました。

 

泣き止んだのは夕方も遅く、日が暮れかけた時間でした。ママは心配して、一日中、ずっとそばにいました。泣き止んだのを見てほっとしたのか、今度はママが泣き出しました。

 

「ごめんね、香枝ちゃん。ごめんね」

 

香枝はママがなんで泣いているのか分からずに、ぼうっとママを見つめました。

 

「お人形をプレゼントしたのはママなのよ。サンタさんじゃないの」

 

「ええ!? サンタさんはどうしてプレゼントをくれなかったの?」

 

「サンタさんは赤ちゃんを連れてくるって言ってくれたの。でもね、ママが、子どもは香枝ちゃんだけがいいです。香枝ちゃんが世界で一番大好きだから、ほかの赤ちゃんはいりませんって、断ってしまったの」

 

香枝は驚いてぽかんと口を開けました。

 

「ごめんね、香枝ちゃん」

 

ママは何度も謝ります。香枝ちゃんはだんだんと赤ちゃんのことがどうでもよくなっていきました。ママが世界で一番、香枝が好きだと言ったのはすごいことだと思いました。

 

「ママ、お人形ありがとう」

 

香枝はお人形を抱きしめました。ママは泣き止みました。

 

赤ちゃんがこなくても、もうわがままは言わないでおこう。ママが泣いたらイヤだから。

 

香枝はお人形と一緒に、ママもぎゅっと抱きしめました。