危機感 (かまた) | 鎌倉投信 結いブログ

危機感 (かまた)

先日、九州にある世界最先端の民生用ロボットを製造する会社を訪問してきました。ロボットといえば、自動車などを組み立てる産業用ロボットが中心ですが、今世界が注目しているのは、介護、警備、レスキュー、家事といった民生用ロボットの実用化です。その先端を走るのが今回訪問した会社です。


鉄腕アトムやガンダム・・・なぜか日本は昔からロボットアニメの文化が根付くなど、ロボットの存在を比較的身近に感じています。世界も本格的な民生用ロボット産業は日本から生まれるというコンセンサスがあるようです。


今まで日本の経済成長を支えてきたのは“ものづくり”、その中核は自動車とエレクトロニクスでした。日本は、この自動車とエレクトロニクスを頂点に、上手く様々な産業群をピラミッド型に構造化して成功してきたのでした。しかし、日本が得意としたこうした産業分野には、新興国も多数参入し始めました。そのため、厳しい価格競争にさらされ、利益を生むことが構造的に難しくなっているのです。


このロボット会社の社長は、民生用ロボットは間違いなく日本初の産業であり、その経済効果は非常に大きいと語ります。「民生用ロボット産業は、日本初の純国産の世界的産業になる」という言葉に私は反応しました。確かにもともとのオリジナリティが海外にあった自動車などと異なり、民生用ロボットは、オリジナルの発想、基礎となる研究開発も含めて純国産の世界的産業になり得る分野の一つなのです。


しかし、この会社は今でこそ製品化にこぎつけ、実際に需要も生まれているのですが、ここに至るまで10年連続の赤字です。社員の給与の支払いが滞ることも日常茶飯事です。そのため、事業化の目途が立った今でも、資金の調達がなかなかできないのだそうです。銀行もベンチャーキャピタルも、政府もお金を出そうとしません。


理由は、「今まで事業に成功した事例がないから」だそうです。


今、この会社に投資をしたいと熱心に通っているところは少なくありません。シンガポール、韓国、デンマークなどが国家戦略の中の重点分野として、資金の提供、必要な法整備を含めて誘致を表明しているのだそうです。


それでも、この会社が日本にとどまっているのは、日本人として、この国の産業として世界に発信したいという思いがあるからです。


「日本は、世界発の産業が勃興するかもしれないのに、それに賭けるリスクマネーの出し手がいない」


社長の言葉が耳から離れません。この会社が今まで取り組んできた血のにじむ様な努力を見聞きし、これからのこの産業の可能性を考えたとき、何か出来ることはないかと考え続けています。


最近の円高を受けて日銀は、金融市場への追加的な金融緩和を実施し、政府は経済対策基本方針を打ち出しました。しかし、今の枠組みの延長線にある小出し対応で、何れも硬直化した経済・社会構造を変革しようとする意思を感じることは出来ません。すぐに市場は、本気度のなさを見透かすことになるでしょう。


日本の株価は、30年前と同じ水準です。政府は、この状況にどれだけの危機感を持っているのでしょうか。何故、6月に決めた「新成長戦略」をもっと詰めて実行に移さないのでしょうか。


危機感と覚悟を示し、行動に移して欲しいと願います。


民生用ロボットのこの会社、海外に移転しなければいいのですが・・・