ただいま私、順位戦の心配をしながら、本日届いた「ランドロックド/アダルトチャイルド」(1997年、PegBoy1009製作)のブートレッグCD-Rを試聴中。全曲聴いた事があるナンバーだが、装丁も良く、豪華な解説ブックレットがついている。解説はロッキー・シュタインブルグなるドイツ人のようだ。英文なので、日本語を読むようにスラスラとは行かないが、おおよその内容は理解できる(一応これでも英検2級だ)。

さて、先日予告した通り、wikipedia(英語版)の記事を頼りに、この「サンフラワー」というアルバムが1970年8月31日に発売されるまでの軌跡を追いながら、その過程で葬られた3つのアルバム「The Fading Rock Group Revival」、「Sun-Flower」、「Add Some Music」のトラックを紹介しよう。
当時のセッションの重要ナンバーは、You Tubeで聴いて頂こう。

ビーチボーイズの13枚目(いきなり不吉だ)のアルバムは、当初キャピトルの最後のアルバムとして1969年に企画された。アルバム「20/20」の製作後、デニスがいち早くスタジオに入り、1969年1~2月にかけて、
・Forever(デニスの最高傑作とされている)

・San Miguel

・Got To Know The Woman
・What Can The Matter Be?
・Celebrate The News
の5曲を録音。続いてブルースも
・Deirdre

を録音した。
1969年3月には、
・Loop De Loop
・All I Wanna Do
1969年4月にはウィルソン三兄弟の父マーリーまで呼び戻した力作、
・Breakaway/Celebrate The News

を発売。ほとんどプロモーションなしということもあって、イギリスではヒットしたものの全米でのセールスは地味だった。結果として、これがキャピトルでのラストシングルとなってしまった。

1969年7月にはデニスが
・Slip On Through
・I'm Going Your Way
を録音し、次いでグループは、
1969年8月
・Cottonfields(シングル・バージョン。アルバム・バージョンは「20/20」に収録)
を録音、この段階でキャピトルに提出するアルバムの曲目が出揃った。しかし当時のバンド事情を反映し、かなり自虐的なタイトルがつけられていた。

The Fading Rock Group Revival
つまり、自分達のことを「消芸」と言い切っているのだ。
確かに「スマイル」事件以来、ブライアンはドラッグ禍で、ベッドルームから出てこなくなった。後のアルバムも散々な出来でヒット曲も3年出していない。キャピトルとは折り合いが悪く、もうすぐお払い箱だ。
しかし、ブライアン不在のグループは頑張った。キャピトルに提出されたこのトラックリストを見て頂こう。(赤文字は、「サンフラワー」に収録、青文字はキャピトルでシングル化※B面曲含む)
1,Cotton Fields
2,Loop de Loop
3,San Miguel
4,Deirdre
5,Forever

6,The Lord's Prayer
7,Break Away
8,Celebrate The News

9,All I Wanna Do
10,Got To Know The Woman


今聴いてみると、かなり名曲揃いである。正規にリリースされ、しかるべきプロモーションを受けていれば、少なくてもビルボード10位以内は堅かったに違いない。しかし、キャピトルはリリースを拒否。
「売って欲しかったら、ブライアンにサーフソングでも書かせることだな(嘲笑)」
キャピトルは過去のヒット曲で構成された「LIVE IN LONDON」を発売することを通告した。

しかし、グループはくじけず、録音を続行。ついにはブライアンも本格的に参加。
1969年10~11月
・Walkin'
・Games Two Can Play
・Add Some Music To Your Day
・When Girls Get Together
・Soulful Old Man Sunshine
・Rasberries,Strawberries(後の"At My Window)
・This Whole World
・Tears In The Morning
1969年末~70年1月
・Susie Cincinnati
・Fallin' In Love
・Carnival
・I Just Got My Pay
・Take A Lord Off Your Feet
・Good Time
・Back Home
・Our Sweet Love
・You Never Give Me Your Money(ビートルズのカバー曲)
そして年末にまたアルバムの構想がまとめられ、グループはリストをキャピトルに提出。

「SUN FLOWER」(曲の順番は不明)
・Slip On Through
・Walkin'
・Forever
・Games Two Can Play
・Add Some Music To Your Day
・When Girls Get Together
・Our Sweet Love
・Tears In The Morning
・Back Home
・Fallin' In Love
・I Just Got My Pay
・Carnival
・Susie Cincinnati
・Good Time

しかし、今度は契約問題で(グループは次の移籍先をワーナー傘下のリプリーズと定め、交渉していた)キャピトルは発売拒否。結果、グループはキャピトルから追い出された。

さて、1970年1月リプリーズに移籍した彼らは、2月に移籍第一弾シングルとして、
・Add Some Music To Your Day/Susie Cincinnati
を発売するも、最高位64位、たった5週間でチャートから脱落と全くヒットしなかった。
気を取り直したグループは、正式なアルバム収録予定曲を、リプリーズ/ワーナーに提出した。

「ADD SOME MUSIC」
1.Susie Cincinnati
2.Good Time
3.Our Sweet Love
4.Tears In The Morning
5.When Girls Get Together
6.Slip On Through
7.Add Some Music
8.Take A Load Off Your Feet
9.This Whole World

10.I Just Got My Pay
11.At My Window
12.Fallin' In Love

しかしこれを聴いたワーナー側は「ヒット性がない」「曲が弱い」と酷評。「金は払わない」と言下に発売を拒否した。窮余の策でシングル
・Slip On Through/This Whole World
を発売するもチャート・インせず。セールスなしのシングルが、売れるはずもない。
1970年3月
・H.E.L.P.On The Way

進退窮まったグループは、さらに1970年7月、ついに禁断の「スマイル」ナンバーに手をかけざるを得なかった。「ウォーター」「アイ・ラブ・トゥ・セイ・ダ・ダ」の改作、
・Cool,Cool Water
を48時間の録音で完成。さらに、
・It's About Time
を録音し、この2曲を加え、キャピトル時代の収録曲と6曲入れ替えて、ようやく「スマイル」目当てのリプリーズ/ワーナーのリリース許可を得た。それが「Sunflower(サンフラワー)」であった。
キムキムPresent’s 将棋&SMiLE-ピクチャ0004.JPG
(アメリカ盤曲順)
1、スリップ・オン・スルー - Slip On Through (Dennis Wilson) 2:17
2、ディス・ホウル・ワールド - This Whole World (Brian Wilson) 1:56
3、アド・サム・ミュージック・トゥ・ユア・デイ - Add Some Music To Your Day (Brian Wilson/Joe Knott/ Mike Love) 3:34
4、ガット・トゥ・ノウ・ザ・ウーマン - Got To Know The Woman (Dennis Wilson) 2:41
5、ディードリ - Deirdre (Bruce Johnston/Brian Wilson) 3:27
6、イッツ・アバウト・タイム - It's About Time (Dennis Wilson/ Carl Wilson/Bob Burchman/ Al Jardine) 2:55
7、ティアーズ・イン・ザ・モーニング - Tears In The Morning (Bruce Johnston) 4:07
8、オール・アイ・ウォナ・ドゥ - All I Wanna Do (Brian Wilson/Mike Love) 2:34
9、フォーエヴァー - Forever (Dennis Wilson/Gregg Jakobson) 2:40
10、アワー・スウィート・ラヴ - Our Sweet Love (Brian Wilson/Carl Wilson/Al Jardine) 2:38
11、アット・マイ・ウィンドウ - At My Window (Brian Wilson/Al Jardine) 2:30
12、クール・クール・ウォーター - Cool, Cool Water (Brian Wilson/Mike Love) 5:03

ちなみに、イギリス発売盤は、これと曲順が異なり、一曲目に「コットンフィールズ」(シングル・バージョン)
が付け加えられ、「ガット・トゥ・ノウ・ザ・ウーマン」と「ディードリ」の順番が入れ替わっている。

このように難産の末誕生した「サンフラワー」だったが、イギリスでは「ビーチボーイズにとっての「サージェント・ペッパーズ」」と高い評価を得たものの、本国アメリカでは151位が精一杯だった。

正直、いいアルバムだと思う。メンバーは全力を出し切ったし、後に多くのアーチストにカバーされてもいる。しかし、レコード会社のフォローがなく、歴史の闇に葬られた感がある。

あえて言う。「このアルバムの良さがわからなかった当時のアメリカ人はどうかしている」


さて、この過程で生じた多数のアウトテイクの行方だが、
・Susie Cincinnati
1971年にアルバム「ランドロックド」に収録されるもアルバムごと没。1974年にシングルB面に収録。
1976年のアルバム「偉大なる15年」に収録。

・Games Two Can Play
「偉大なる15年」の次作に予定されていた「ニュー・アルバム」に収録されるもアルバムごと没。1977年「ラブ・ユー」の後に予定されていたブライアンのソロ「アダルトチャイルド」にも収録されるも、アルバムごと没。結果としてキャピトルから1993年の「GOOD VIBRATIONS-BOX SET」に収録。

・I Just Got My Pay
1971年の「ランドロックド」で没。1972年のカール・アンド・ザ・パッションズ名義「ソー・タフ(なぜか「ペットサウンズ」との抱き合わせ販売)に収録された「マーセラ」の一部に採用。単独曲としては1993年のボックスで正式リリース。

・When Girls Get Together
1976年の「ニュー・アルバム」でアルバムごと没。1980年の「キーピン・ザ・サマー・アライブ」に収録される。

・San Miguel
1971年「ランドロックド」で没、1981年のベスト「テン・イヤーズ・ハーモニー」に収録される。

・Take A Lord Off Your Feet
1971年「ランドロックド」は没だったが、代替盤「サーフズ・アップ」に収録される。

・Good Time
1971年「ランドロックド」が没になり、1977年の「ラブ・ユー」に収録される。

・Loop De Loop (flip flop flyin' on an aeroplane)
1971年「ランドロックド」のオープニングを飾るはずだったが、アルバムごと没。1977年に「MERRY CHRISTMAS FROM THE BEACH BOYS」で"Santa's Got An Airplane"と歌詞を変えて録音されるも没。最終的なボーカルは1998年の7月に入れられ、同年キャピトルから発売されたグループの伝記映画「エンドレス・ハーモニー」のサントラとして収録。


・Soulful Old Man Sunshine
1989年のサントラ「エンドレス・ハーモニー」に収録。

・Fallin' In Love
"Lady"とタイトルを変え、1970年にデニス・ウィルソン&ランボ名義でシングル発売。1971年には「ランドロックド」にも収録予定だったが、アルバムが没にされたため、現在も公式にはCD化されていない。

・Back Home
1976年「偉大なる15年」で再録音が収録された。

・H.E.L.P.On The Way
「ランドロックド」でも没。1977年、ブライアンのソロ「アダルトチャイルド」に収録されるも、やはり没。最終的に1993年のボックスセットに収録。

・walkin'
何と39年後に、ブライアンのソロ「ラッキー・オールド・サン」の「モーニング・ビート」に改作されて登場。


未だ公式盤に登場しない曲は、
・What Can The Matter Be?
・Carnival(後にOver The Wave)…「ランドロックド」でも没。
・You Never Give Me Your Money
の3曲だが、先のデニスの「レディ」をあわせ、ブートレッグでは聴く事が出来る。

このように、グループは後のアルバムに「遺産」としてこのアウトテイクスを小出しに使用してきたのだが、丁度それが品切れになった70年代後半から、彼らの更なる凋落と悪夢の歴史の幕が開くのだった。