格闘技と選手生命10 ~腰椎の動作改善プログラム~ | Dr.Fの格闘クリニック

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格闘技ドクター・二重作拓也の「強くなる処方箋」

【格闘技選手、動作改善】  

私のところには、格闘技動作が要因で腰を慢性的に痛めてしまう選手が数多くやってきます。腰を痛めやすい選手を診ていて共通するのが、「捻りの動作」です。


パンチがミートした瞬間、蹴りが当たった瞬間、身体には大きな反作用が働きますが、これを腰椎で受けてしまうと、いつか壊れてしまう。
 
最大筋力を発揮するときに、腰椎と腰椎が回旋した状態を取ると、その反作用が腰椎と腰椎の間に集中してしまい、腰椎椎間板ヘルニア予備軍になっています。 (椎間板は、繊維性の袋の中にゼリー状の物質が入った構造をしています。腰椎と腰椎に挟まれており、過度なストレスがかかると袋が破れて中身が飛び出してしまうヘルニアとなり、神経に触れて鋭い痛みやしびれ、感覚障害などを引きおこすことがあります)

  捻りの動作の目立つ選手には、動作の改善をアドバイスするのですが、最もシンプルに伝わり、実際に予防効果の高い簡単な方法をご紹介します。  


まず、右肩Aと左肩Bを一本の仮想直線ABで結びます。次に、右股関節Cと左股関節Dを一本の仮想直線CDで結びます。この二つの線は、普通は気を付けの姿勢のとき、肩の高さと股関節の高さで並行になると思います。  

最大筋力を発揮する瞬間、このABとCDが並行かつ同一平面上にあるように意識します。ABCD4点を結ぶ線が、ひとつの平面を形成するようにするわけです。これらがねじれの位置にくるということは、腰椎に回旋が加わっているということ。回旋が加わったら、一部の筋や靭帯は伸びきっている可能性がありますので、そこで大きな反作用を受けてしまうことになります。


 野球のバッティングフォームを例に取ると、理想的なフォームは、バットが打球を捉える瞬間、この平面が形成されます。上半身だけが先行し、骨盤の動きがついてきていないフォーム、逆に骨盤だけが先に走り過ぎて上半身が遅れてしまっているフォームは、フォームとしても力が伝わりにくい上、腰にも余計な負担をかけてしまっているというわけです。
 

・パンチでも蹴りでも、当たる瞬間にはABCDでひとつの面を形成する意識を持って動く,

 
・右のミドルキックの際、右腕を後ろに引きたいがあまり、脊椎を大きく捻ってしまっている、
 
パンチの距離が合っておらず、本来のリーチよりも遠いところを打とうとするあまり、体幹を捻り過ぎてしまっている、


などなど、間違った格闘技動作が原因で慢性的な腰痛を抱える選手は少なくありません。
 

しかもほとんどの選手が、自分のフォームの間違いに気がつかないケースがほとんど……。 腰を痛めやすい選手は、わずかな面の意識を持つだけで、大きく変わります。


事実、このラインと面を意識して動作改善をした選手のほとんどが、腰痛が軽減し、かつ、攻撃の威力が増しています。


格闘技の練習で腰を痛める傾向のある選手は、当たる瞬間に捻りの動作が入っていないかどうかチェックしてみてください。
 

体に無理がなく、しかも威力も上がるフォームがきっと見つかると思います。





●道場で学ぶ意味  

気合いや呼吸の重要性、固有感覚の向上法、ABCDラインチェックなど、様々な方向から腰を守りパフォーマンスを向上させる方法について紹介させていただきました。
 
「腹から声を出す」 「呼吸と技のタイミングに気を配る」 「不安定なところでも動けるような稽古をする」 「上半身だけ、ではなく体全体で打撃を打つ」 などなど、


本来道場で伝えられてきたことばかりです。 ただ、それらを医学的な視点で見つめ直すと発見も多いのです。


例えば、腹横筋を収縮させると、腰椎が安定して大きなパワーが発揮できると述べましたが、それだけでなく、上段への蹴りが不得意な人は、腹横筋を収縮させる練習をすると邪魔になっていた内臓が背面のほうに移動するので、脚が上がりやすくなる。 そういう良い意味での副作用なんかもあるわけです。


 また、整備された道場での練習ばかりではなく、海岸の砂浜や山道、野原などでの稽古も固有感覚を鍛える最高の方法です。 ただ、それらは、やはり理解して意識的に行わないと効果は薄い。 先輩に声を出すように言われたから出す、この練習がいいって言われたからやる、そういう受け身では絶対に身に着きづらいです。
 

なぜ? どうして? を突き詰めて、痛みの原因が動作にあるならば、それを無視せずによりよい方法を探す姿勢が、予防にも強さにもつながる近道です。



 いま、核家族化が進み、子供が大きな声を出さなくなったし、出せなくなりました。家に帰ってゲームばかりやっていては、腹圧も固有感覚も弱い子になってしまうのは明らかでしょう。 そういう時代に、子供は子供らしく、思いっきり大きな声を出すこと、そして出す環境を整えることが、道場の役割のひとつ。


技術、戦術、勝ち負けももちろん大切ですが、大きな声が出せるようになったのは道場のおかげです、身体を動かすことの楽しさを道場で学びました……こういう人間として根本の強さが学べることが道場の本当の価値なんだと思います。