格闘家の食事と栄養5 ~試合前の食事~ | Dr.Fの格闘クリニック

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格闘技ドクター・二重作拓也の「強くなる処方箋」

●試合前の食事とグリセミック指数

Qプロで総合の試合に出ています。瞬発力には自信があるのですが、持久戦はあまり得意な方でなく、スタミナの不安があります。試合前の食事はどのようにしたらいいでしょうか? 試合中でなるべくスタミナ切れを起こしたくないので、試合で動ける食事を教えてください!

A試合前の食事で大切なのは糖質です。筋肉の中に糖がチャージされていると筋肉はスタミナ切れを起こしにくくなります。ですから試合前の食事では、糖質をしっかり摂取することが最重要と考えます。

 ただ、一つ気をつけなければならないのは、糖質がいつエネルギーに変わるか、という点です。糖質がエネルギーに変わるまでの時間のことをグリセミック指数という数値で表しますが、グリセミック指数が高い糖質ほど短時間でエネルギーに変わります。ですから試合前日や当日の食事はグリセミック指数の高い食材を選んだほうが、エネルギーという点で有利に働く、というわけです。

 例えば、同じ糖質(炭水化物)でもご飯とパンでは、分解されるまでの時間が全く違います。パンは食べてからその日にエネルギーに変わりますが、ご飯は食べてから1~2日後にエネルギーに変わります。パンの方が、ご飯よりもグリセミック指数が高く、エネルギーに変わるまでの時間が短いというわけです。ちなみに、パン(小麦)を主食とする欧米人にくらべて、ご飯(米)を主食とする日本人の方が胴が長い理由は、米の方が消化まで時間がかかるために腸が長くなったからだ、という説があります。また、ご飯でも、おかゆや雑炊にするとさらにエネルギーに変わるまでの時間は短くなります。

 試合ということを考えた場合、試合前の食事として、なるべくグリセミック指数の高い糖質を摂取する。また、試合数日前には、試合のときにピークを迎えるようにグリセミック指数が低い糖質を摂取するのが、合理的なやり方といえるでしょう。


<グリセミック指数>
●85以上  食べてその日のうちにエネルギーに
パン、もち、うどん、ポップコーン、コーンフレーク、マッシュポテト、せんべい、ブドウ糖、シロップ、はちみつなど

●65~85  食べて1~2日後にエネルギーに
ごはん、そうめん、スパゲティー、フライドポテト、かぼちゃ、バナナ、りんご、オレンジなど

●65以下  食べて3日後にエネルギーに
玄米、日本そば、牛乳、ヨーグルト、豆類、ジャム、桃、レモンなど

 
試合数日前からヨーグルトや豆類を積極的に食べ、試合前日に雑炊を含めた食事とおやつにバナナをしっかり食べ、試合当日に、うどんにもちが入った力うどんを食べ、試合前に吸収の良いブドウ糖やはちみつを飲む、といったアレンジも面白いかもしれませんね!

 スポーツ医学の世界では、グリコーゲンローディングといって、一度体内の糖質を使い切って枯渇させ、再びチャージして試合でのスタミナアップを図る方法があります。この方法も非常に高い効果が期待されるのですが、格闘家・武道家の場合、糖質を使い切ると集中力の低下を招いてしまい、時と場合によっては怪我につながりかねないので、練習している時期の糖質のカットは十分な注意が必要です。

 糖がしっかり働くためには、ビタミン類も欠かせませんから、野菜スープなども試合前に積極的に摂っておきたいところです。酸素を運搬してくれるヘモグロビンの原料である鉄も、スタミナという点で栄養素になりますね! これらに延長戦や後半ラウンドに備えた脂質と良質なたんぱく質を組み合わせると、栄養学的に優れた試合前の食事メニューができ上がります!