覚技体術 | 覚技ワーク~注意の行き届いた自然体★新海正彦

覚技ワーク~注意の行き届いた自然体★新海正彦

覚技(かくぎ)とは、さまざまな心理療法に、武術や音楽やシャーマン的テクニックを取り入れた、こころとからだに目覚めをもたらすトレーニング・メソッドです。

私たちは誰もが、さまざまな無自覚で習慣的な動き方のクセを持っています。
そのクセによる引っ掛かりのために、十分にパフォーマンスが発揮できずにいます。
そうした動き方のクセを発見し、心の深層でその動きと関連している感情や情緒まで
開放していく多彩なエクササイズが「覚技体術」です。「覚技体術」は心理療法、武術、
そしてさまざまなボディワークを取り入れ統合した、新しいスタイルの身体操法です。







.1.覚技体術は身体に現れる“クセ”を活用し内面へアプローチ

「なくて七癖」の諺通り、私たちは誰もが、知らず知らずのうちに身につけた、
さまざまな動き方のクセを持っています。そしてこうした無自覚で習慣的なクセが
あるがゆえに、私たちは十分にパフォーマンスを発揮できずにおり、さらにはクセに
よる心理的な引っかかりのために充実した人生を生きづらくなっています。

例えば自己紹介やプレゼンテーション、スポーツの試合など、人前で話したり
動いたりする場面を思い出してみてください。私たちはできるだけ自然に振舞おう
と懸命に努力しますが、ほとんどの場合、何かしらの緊張が邪魔をして自然で
いられないものです。声が震えたり、呼吸が浅くなったり、目があらぬ方向を
見てしまったり、手を意味もなく動かしてみたり、つい不必要な反応や動きを
無意識のうちにしてしまい、パフォーマンスも下がります。うまくやろうとする
気持ちが働いて、それが逆にプレッシャーとなり心身の不要な緊張を高めている
からです。

もう一つ、心配事や不安事など、何かふと見たり聞いたり感じたり考えたりした
瞬間のことを考えてみてください。このときも私たちは身体の筋肉に微細な反射を
起こしています。苦手な人が近づいてきたとき無自覚に息を潜めてしまうといった
反応がそのいい例です。息をひそめる必要もないのに息をひそめ、緊張の度合いを
さらに高めている。なのにそうしているという自覚すら本人にはありません。

私たちはこのように身体の内外からの刺激に対して本来ならば不要な反応をしている
ことが多々あります。「覚技体術」ではこのような、とっさの時につい無自覚に
やってしまう反射的なクセに注目します。そのクセがあることを自覚し、次にその
クセを注意深く探求していくのです。手なら手、目なら目、脚なら脚と、緊張が現れ
ているところから、緊張を引き起こしている原因を内面へ向けて探ってゆき、
最終的には覚技でいうところの「自覚的自然体」を目指します。




2.覚技体術の目指すもの
~クセを見つめ、「ただある」状態に入り、身体の叡智を発揮させる~


では具体的に「覚技体術」では、身体的なクセからどのようにして内面へアプローチ
していくのでしょうか?

まず身体的なクセを発見したら、そのクセが出ている瞬間、自分の身体や感情、
思考にどんな変化が起きているのかを、感覚を手がかりとしながら繊細に観察し、
注意を向けていきます。実はこのプロセスこそが覚技体術の核といえる部分です。

私たちは、「感覚を手がかりに自分自身のそのときの状態に深く注意を向ける」ことを
し続けると、「ただある」という意識状態に入りやすくなります。覚技ではこの状態を
「自覚的自然体]と名付け、呼んでいます。

「自覚的自然体」は言葉では説明しにくいのですが、たとえば瞑想を続けていくなかで
瞑想家が体験する境地であったり、武道家が鍛錬の成果として経験する研ぎ澄まされた
感覚に似たものといえるかもしれません。

この「ただある」意識状態に達すると、不思議なことに身体が自ずと内部に秘めた
“叡智”のようなものを発揮するようになります。ある場面においてどう動くのが
もっとも自然で適切なのかを身体自身が本来知っており、勝手にそのように動いて
くれるようになるのです。

その結果として私たちは、自由に伸びやかに動くことが可能な状態となります。
以前と同じように精神的な緊張のもとが内面に残っていたとしても、身体が動いて
くれるようになるのです。

この意味で、覚技体術は、身体感覚を手がかりにして生命の力と出会うための
「知的冒険」ということができるでしょう。



3.覚技体術の影響はあらゆる身体操法と内面世界にまで及ぶ

このため覚技体術のエクササイズを経験し、その感覚をいったんつかむと、
伸びやかで芯の通った、あなた本来の力強い身体の動きが発揮されるようになります。

その効果は日常のあらゆる所作や動作はもとより、あなたが行っている各種スポーツ、
武道、音楽の演奏、ダンスといったさまざまな身体操法にまで広く及び、いずれに
おいても活き活きとした変化をもたらします。

また覚技体術はこのように身体のパフォーマンスを向上させるだけではなく、
心の深い層で身体の動きとダイレクトに関連している感情や情緒といった内的世界
までも同時に開放する大きな可能性を秘めており、対人関係や物事の捉え方、感じ方、
考え方などにもダイナミックな影響を及ぼします。

覚技では、「身体と感情と思考は一つ。自分は個を超えた環境も含めて存在している」
という基本概念を主軸の一つにおいています。身体が変化すれば感情や考え方といった
内面も自ずと変化するという考えです。「覚技体術」はこの考えに基づいて組み上げた
新タイプのエクササイズで、心理療法や武術やさまざまなボディワークを統合して、
目に見える身体から内面へアプローチをはかろうとするものです。

この意味で「覚技体術」は、とてもユニークなセラピー手法のひとつと言うことが
できるでしょう。



4.覚技体術ワークショップの具体例

覚技体術にはじつに様々なバリエーションがあり、同じワークショップでも、
その日、その時、その場によって柔軟に変化していく性質を帯びていますが、
実際にどのようなワークショップがあるのか、過去の具体例からいくつかご紹介します。

■反射的なクセを自覚するエクササイズ
覚技体術には武術的な動きのエクササイズがあります。これは覚技体術に
おけるもっとも基本的なエクササイズです。私たちがふだん日常では気づき
にくい身体の反射的な動きのクセを浮き彫りにし、自覚するためのエクサ
サイズを行います。
例えばエクササイズの代表例として、「人に腕をつかまれる瞬間、自分が
どんな反応をしているかを観察する」というエクササイズがあります。
人はたいてい誰かに腕をつかまれると、相手の手を振りほどこうとするか、
押し合いになるか、あるいは何もできず固まるかのいずれかの反射的な
動きをしてしまいます。またそれだけではなく、実は腕をつかまれる以前から
すでに呼吸を止め、全身を緊張させ、重心の移動を行ったり、視覚、心境などに
さまざまな変化を起こしています。
しかしこれら一連の動きや反応は、実は本来不必要な動きであって、これらの
不要な動きさえ行わなければ、私たちは相手の手をゆるめたり外したりと自由に
動くことができるようになるものなのです。
エクササイズではまず自分がどのような反応をしているかを非常に繊細に観察し、
身体の理にかなった適切な動き方を知り、どれだけ楽に自然に動けるものなのかを
体験します。

■身体を他人にゆだねるエクササイズ
ボディワークを通じて「自分の身体を相手や重力に預けきる」ということを
体感します。このエクササイズは他人を信じるという意識状態が大きく結果を
左右します。その体験を通じ、他人との関係において自分の内面と身体に潜んでいた
隠れた緊張を浮き彫りにするとともに、全面的な信頼感を持って自己を人に預ける
ことにチャレンジします。

■身体感覚の拡張エクササイズ
よく気功の達人が手を触れずに人を動かしたり弟子を倒したりする映像を目に
しますが、実はそれは、程度の差こそあれ、誰にでもすぐにできることなのです。
特に難しいことでもありません。なぜなら人間には本来それができる力が備って
いるからです。このエクササイズでは、そうした力が自分にもあるということを
体感します。

■筋緊張自覚のエクササイズ
人は本来ならば身体の力を抜こうとすれば簡単に抜くことができるはずです。
ところが大多数の人は、いつの間にか自分の思うように力が抜けない状態に
なっています。「腕の力を抜いてください」といっても、抜くことができないのです。
そして案外そのことに気づいていません。
筋緊張自覚のエクササイズは、こうした不要な筋肉の緊張にまず気づくことから始まり、
次にその緊張がなぜ、どこから起きているものなのかを探っていきます。