→ そこで、落とし所をみつけるための手順を確認しておきたい。
業務委託契約から生じる一般的なリスクを、あたまのなかであらかじめリストアップし整理しておくことは、判断をスピーディーに、明確にするのに役立つだろう。
そこで、業務委託とはそもそも何で、どのようなリスクがあるのかを確認しておこう。
・業務委託とは?
いうまでもないが「業務委託」とは、ある業務を自前でやるよりも他者(他社)へ頼んだほうが何らかのメリットがある場合に、具体的に仕様を決めて委託することである。
単に物やサービスを売買するときとちがって、自社の要望が先にある。この、具体的仕様の決定権が発注側にあるというところが決定的な違いであり、また、自社でその業務を行うときと比べて、品質面、コスト面、インフラ面などなんらかの具体的メリットがあるのが特徴である。
・業務委託のデメリットはあるか?
ではここからどのようなデメリット、リスクが生じるのだろうか?
発注者(委託者)としては、他人にまかせるわけであるから、管理上の問題、ようするに自分の目の前で作業させる場合と比べれば、セキュリティなど様々な面で行き届かない部分が生じるおそれがある。具体的には下記のような側面がある。
1 情報が漏洩する可能性が高まる
2 もしかすると納期に間に合わせてくれないかもしれない
3 期待したとおりの品質に仕上がらないかもしれない
4 業務の責任の所在が不明確になるおそれがある
5 知的財産権など目に見えない権利の取り扱いが曖昧になる
6 再委託など業務のすすめかたの方針、流儀が合わない
これらをひとことでいえば、「管理限界」の問題といいかえられる。つまり自分の仕事を他人に依頼することによって生じる、ブレのことである。業務委託のリスクとはすなわち、このブレをどこまで小さくできるのか、小さくしよう、ということにつきる。
このように業務委託契約のリスクを「ブレの問題」と、かなりシンプルなイメージでとらえなおすことは、直感的に理解しやすくなって便利である。
自社が受託側だったとしても、ようするにブレの問題だとわかっていれば、上記のデメリットはそのまま委託者から要望と自社とのすれ違いが起きやすい、いわばブレの生じやすいポイントともいえるのだ。
よってこれらのポイントが満たされなければ債務不履行の主張をされるかもしれないわけだから、やはり受託側にとってのリスクの論点ともなっているのである。
デメリットを整理したことで、おのずと業務委託契約書のあるべき規定内容というものがみえてくる。
つまり、これらのデメリットに対応する条項は(ブレを小さくするために)必須ということであり、あらかじめ契約書において規定しておくことにより、①予防的に相手に知らせておく、主張しておくこと(注意喚起)になるうえ、万が一の際は②責任追及の手段としてその書面が書証として活用できる(証拠機能をもつ)ことにもつながる。
それらの機能を備えた契約書があることは、お互いにより強力な履行(契約遵守)のインセンティブとしてはたらくことが予想される。やみくもに完備契約書をゴールにすえるよりも合理的、あるいは実践的ではないだろうか。
結局、契約法務の積み重ねが、強い企業をつくるのである。