奥多摩の山の奥深く、泉に山芋掘りに連れられたマリーンが大木の根元を掘り続ける泉の姿を覗き込んでいる。土を掻き分け、黒い棒のような物を渾身の力を振り絞って引っ張りながら、覗き込むマリーンに泉が叫んだ!
「マリーン・・・スコップ取ってくれ!」
マリーンは回りを見回して、穴の中の泉に返事を返した。
「スコップって、美味しいの?スコップって美味しいんですか?」
泉は全身から力が抜け、穴の中でへたり込んだ。すぐに泥だらけになって地上に這い上がってくると、ニコニコしてリョックサックの中を探しているマリーンに呟いた。
「そんなとこには、スコップは入ってねぇよ・・・」
泉がスコップに手を伸ばしたと同時にマリーンの動きが止まった。
「あ・・・朋美さんが戦っている・・・」
同じ時、F市内、ラ・トゥールの店の奥のソファで横になってい星井ミカも、急な朋美の気配に腹痛を忘れたかのように飛び起きて、手元の携帯からカフェ朋美に電話を掛けた。
「もしもし・・・朋美?」
電話の呼び出し2回目で繋がった電話の向こうからは相沢ナナの声が!
「はい、カフェ朋美・・・あれ?ミカぁ?」
ナナの声に、少し驚いたミカが、数秒置いて話し掛けた。
「何?してるの・・・そこで?朋美は?」
フライパンで炒め物をしながらナナがハンズフリーの受話器に向かって答えた。
「出て行きおったわ!なんや知らんけど、4次元がどうしたこうした・・・そう言えば、あの子のエネルギー波、高くなっているんとちゃうか?」
オムレツをひっくり返すと皿に盛り付けながら、ナナも何かを感じ始めた。ミカは偶然、登校前に店に顔を出した麻貴に気が付くと、いったん携帯を顔から離し、手短に事情を伝え海岸線へと麻貴に様子を探りに行かせた。その指示の声をj電話で聞いていたナナが必死で呼んでいる。
「待て!優等生!麻貴と私、役割変えてぇ~~~」
携帯からナナの必死の叫びが聞こえるとミカは、思い出したように携帯を手に取ったが、朝から襲ってくる激しい腹痛が再び始ると、叫び続ける携帯をプチっと切りトイレに向かって駆け出して行った。
「おいっつ!コラ!優等生!ミカ!もしも~~~しっ!・・・プチってなんやねんっ!プチって!私よりトイレが大事か!そうなんや・・・そういう女やったわ!いいですいいです!いいんですよ~~~」
ナナは2枚目のオムレツを焼き始めた。
店を飛び出し、砂浜に置かれている朽ち果てた漁船の中でR-18と変身をした朋美。高速で魔物が4次元世界から3次元世界へと出現しようとしているポイントへ飛行をしていると、まるで茶化すかのように、突如出現したルイン・ダークの気配。
朋美の繰り出すナイフを、槍で受け止めようとする気配!実態を失っている筈のルイン・ダークの息遣いが朋美の耳元で聞こえてくる。
「邪魔しないで!」
朋美は、気配に向かって激しく怒鳴りつける。
『あっ、そう!つまんねぇ女!』
気配は、朋美の背後に回りこみ乱気流を作りながらピッタリと付いてくる。
「だいたい、貴方!その口の悪さ!どうにかしたら?うっとうしいの、そういう子!」
ポイントが近づくと、次元の裂け目を見つけようと旋回しながら、ルインを追い払うように冷たく言い放つ朋美。
『連れないねぇ・・・アンタさぁ、だいたいアタイが居なきゃ死んでいたんだろ?それをさぁ、どういう事ぉ?』
まるで、緊迫感の無い口調で、魔物の事などお構い無しで朋美に纏わり付くルイン。朋美は無視しながらポイントの手前で速度を落とした。
「ここね・・・、こんな大きな裂け目が空いているなんて・・・。」
魔物を待ち受ける為、裂け目の近くに身を潜めようとする朋美。海に張り出した巨大な岩の陰に身を隠すと、大きく息を吸い込み魔物の出現を待った。
『あれれ?ここで待ってるの?煮え切らない女ぁ~~!つまんねぇんだよっ、行っちまいなよ!行けってんだよ!なに、ビビリやがって!』
ルインは岩陰で態勢を整える朋美に食って掛かった!
「これが、私の遣り方!」
戦士の表情を徐々に取り戻し始めている朋美は、ルインの言葉には耳を貸そうとしない。無視するかのような朋美にルインは仕方なく隣に降り立った。
『ところでさぁ、アンタも可愛い所、有るよね!R-18なんて名乗ってくれちゃってさぁっ。ルインーエイティーンだなんて、照れさせるなっての!そりゃぁ、18の頃が美のピークだったけど・・・そこを名乗られるなんて!』
意識を魔物に集中させていく朋美の耳元に、相変わらずお構い無しで話し続けるルイン・ダーク!返事をすることなく裂け目を睨み付けている朋美。
『どこかのゴキブリとは大違いだよ、だから、アンタに目を付けたのに・・・、どうなってるんだか、無視だもんねぇ~~!良い根性してるよっ!手ぇ貸そうか?久しぶりに組んでやろうか?』
ルインの声が大きくなると、魔物の気配を見失ってしまう朋美。
「うるさいっ!静かにして!」
朋美が怒鳴りつける。
『う・・・うん・・・』
思わず岩の陰にルインの気配が逃げ出して行く。が、すぐに舞い戻ってくると、激しい突風を巻き起こした!
『なんて、消えるわけねぇだろってのっ!調子乗るところが光の世界の奴の大ッ嫌いなとこだよ。アンタなんて1秒も有れば倒せるんだよ!気ぃ使ってやりゃぁ・・・!』
ルイン・ダークは目に見えない槍の先端を朋美の喉元に突きつけると、不気味に低い声で唸るように怒鳴りつけ、突風の中、朋美の周りを回り始めた。
「いい加減にしなぁ、ルインっ!」
朋美の眼球が赤く光り、突風もろともルイン・ダークを弾き飛ばすほどの声を上げると、姿の無いルインの声が激しいエネルギー波で一瞬かき消された!
『あああ・・・そうじゃないと!来た来たぁ~~、アンタの、その勢い!愛してるわぁ~~~!』
まるで、ダメージを受けてないルインは朋美の周りを楽しそうにくるくる回っている。R-18となった朋美の悪の部分が、茶化し続けるルイン・ダークへの怒りと共に増幅されていく。
「わかったわ、じゃぁ、アナタとランデブー飛行してあげる!手を組んであげようじゃない、4次元に突っ込むからね!」
朋美はルイン・ダークの気配に向かってナイフを突きつけると、身を潜めていたい巨大な岩を拳で叩き壊し空中へ飛び上がった!
『ランデブー?それって美味しいのか?ねね?ランデブーって美味しいのかよ?』
朋美の言葉にルイン・ダークが戸惑いながら質問をしてくる。
「そんなもん、食べてみりゃ、わかるわよ!どこかの誰かさんみたいな事、聞かないで!行くわよ、ルインっ!」
4次元の裂け目へと一気に加速して飛び込んで行く朋美に、ルイン・ダークの気配が寄り添うと一つに重なりながら様々な色に輝くと、一瞬で重苦しい黒一色の球体に変わってしまう。
『脳内メルトダウンしちまいそうだよ!』
ルイン・ダークの叫び声が次元の裂け目に響き渡る。
「私がルール・・・あなたは力だけ貸してくれれば、それでいい!」
戦うことに狂喜するルイン・ダークを制するように朋美が。
『それは、こっちのセリフだよっ、アンタこそ、身体だけ貸しとけばいいんだよっつ』
ジャンヌとの戦いに敗れ、ルイン・ダークの力を失った朋美。突如現れたルイン・ダークと再び融合すると、全身から、真っ黒な炎を出しながら魔物へと突き進んで行く。
=完=
後述:
少し、整理しておきますね^^今回登場した嵯峨朋美は、ジャンヌ同様光の世界の住人で、超一流の戦士です。
偶然ジャンヌとルイン・ダークの戦いの余波に巻き込まれ4次元空間へと落ちてしまいました。
ジャンヌとの戦いに敗れたルイン・ダークの魂と融合して一命を取り留めた朋美は、R-18という悪の戦士として蘇ってきました。
ルイン・ダークに取って代わり、ジャンヌ達を付けねらう存在となったが、ジャンヌとの決戦に敗れます。そして、融合したと思っていたルイン・ダークの魂も、自らが作り出した妄想だと知ると、次第にジャンヌ達に心を開き始めたのです。