利他研究所

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科白_嘘

「他人に嘘を吐(つ)くのは仕方がない時がある」
「方便?」
「そうとも言う。でも、自分に嘘を吐くなよな。他人のは、現実する事が出来る。自分のは……」
「言い訳ね」
 彼女が言った。あなたのその言いが言い訳だ、と。

「あなたは嘘をついたことがないの?」
「あるさ。ベッドの中じゃ、しょっちゅうだよ」
「わたしは正直よ」
「それは間違いのモトだな」

「「真実は常に焦燥と絶望に対峙された刃の上の天使の羽根」」
「慰めているとは思えないな」
「慰めて欲しいのか?」
「いいや。もっとマシな物言いはありませんかね」
「女が一人、幸福になった」
「もっと(マシな)……。相手の男は?」
「もっと? 男に付いて語った歴史書は有りませんて」
「あるだろう」
「あれは職業。実際の男に付いて語るなら三行半(みくだりはん)だな」
「それワザとか?」
「自然だ。モンローもそう言っていた」
「マリリン・モンロー?」セックスは自然の一部です。私は自然に従います。
「ジェームズ・モンロー」アメリカ合衆国大統領。モンロー主義。
「モンロー宣言にそんな事……」
「さぁね」



門松一里の憂鬱な午後_或る日-01

「で」それがどうした。
 こんな時の門松一里は素(す)だ。
「頭が痛い」とジャスティス女史。
 正解だろう。この世に生まれて頭が痛くない人間などいるものか。少なくとも門松一里は会った事がなかった。アレに遭うまでは。
「生きている証拠さ」
「言うと思った」
「他に甘言が?」
「……有りはしない?」
 ジャスティスが門松の口調で返した。
 交渉成立。と言う訳だ。……商談破談とも言うが。ジャスティスは了解している。
「あっあぁ確かに生きているわよ。でもね、その理由が気に食わないの!……」
 続くジャスティスの文言を門松が聞き流していた。冷凍庫に並べた凍ったグラスをカウンターに置き、キンキンに冷えたウヰスキーのボトルを出して、優雅に溶け入れた。アルコールは冷凍しても凍らない。半分凍るだけの、氷も要らない通(ツウ)の飲みだ。
 零時十五分。時間だ。
 緩やかに食道から胃のカタチが解った頃、ジャスティスが問うた。
「……聞いているの?!」
「聞いているさ」即答。焼けた食道が声を変化させる。甘い。
「で」それがどうした。