(11)カール・フィリップ・シュターミツ(1745-1801):ヴィオラ協奏曲ニ長調(1774出版) (増補)

 モーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲などを除けば、ハイドンやモーツァルトにめぼしいヴィオラ作品はなく、古典派はヴィオラのレパートリー不毛地帯のように思えてしまうが、そんなことはない。ヴァイオリンやピアノの協奏曲に比べたら数は圧倒的に少ないにしても、彼らの周辺で知名度の落ちる作曲家には相応にヴィオラ協奏曲が存在するのだ。ディッタースドルフ、ヴァニュハル、ホフマイスター、ベンダ、シュペルガー、プレイエル、ヨーゼフ・シューベルト(フランツではない)、ロッラなど。なぜハイドンやモーツァルトがヴィオラ協奏曲を書かなかったのかはわからない。たぶん需要がなかったのだろう。
 こうした古典派のヴィオラ協奏曲の中でももっとも有名なのがシュターミツのニ長調だろう。ここでいっているのはカール・シュターミツ。父のヨハン・シュターミツにも弟のアントン・シュターミツにもヴィオラ協奏曲があり、シュターミツ一族のヴィオラ協奏曲を集めた便利な盤(下記)もあった。
 カール・シュターミツは音楽家シュターミツ家の三代目。祖父はスロヴェニア出身で、父のアントン・シュターミツはボヘミア出身、当時の多くのボヘミアの音楽家同様、戦乱を逃れてドイツで活躍した。マンハイムの宮廷で当時としては画期的な大規模のオーケストラを運営し、マンハイム楽派といわれた始祖にあたる。チェコ名はスタミツになるが、カールはマンハイム生まれだから、生まれながらにしてシュターミツ。
 カールにはヴィオラ協奏曲が複数あるようだが、作品1とされるこのニ長調ばかりが有名だ。どうやらこれまで20種くらい録音はあるらしい。上述した古典派のヴィオラ協奏曲中、まれにみる完成度の高い作品というわけでもないと思うのだが。また、ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲もあり、モーツァルトの同曲とカップリングされたりすることもある。
 ニ長調協奏曲はおおむね初期のモーツァルト風といった趣で、冒頭の主題からしてのんびり柔和な曲想でもう少しワサビがきいていてもいいと思うくらいなのだが、モーツァルト後期の深みは彼にしかなしえなかったものなのだから、シュターミツに求めても仕方あるまい。オーケストラの編成は工夫が凝らされていて、オーボエではなくクラリネット2本、ホルン2本、弦楽器はヴィオラが終始2パートに分けられている。オケの中で目立ちがたいヴィオラを引き立てるため、オケの音色を暗いほうに持って行っているのだろう。ソロは技巧的なパッセージも盛り込まれているし、第2楽章の暗い叙情性などはなかなかのもので、まずはヴィオラの佳曲であることは間違いない。

Viola Concertos/Hoffmeister

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 まずはお手頃価格のNaxosから。
 恐らく中国系アメリカ人と思われるヴィクトリア・チャンのヴィオラ、ザーカー指揮ボルティモア室内管弦楽団の演奏。美しい音色のオーケストラだが、古楽器奏法の影響はなく、ヴィブラートをしっかりきかせて、ややもっさりした感じ。チャンのヴィオラは低音から高音までヴィオラらしい音色を醸していて好ましいものの、発音の速度感が若干もたもたした感じになるところがある。
 カップリングはホフマイスターの2曲。

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 歯切れのよさでは、こちらのイトカ・ホスプローヴァ盤。指揮者なしのプラハ室内管弦楽団は、ボルティモア室内管弦楽団よりも厚みがある音だが、開放弦などざらついた音をいとわず出しており、ヴィブラートも抑え気味で、より古典派的。ホスプローヴァのヴィオラはまったくもたつかない疾走感。対してニ短調に転ずる第2楽章はロマンティックに歌う。カデンツァは誰作かわからないが、かなりグランド・マナーの長めのものが奏されている。終楽章ロンドも快速。

シュターミッツ:ヴィオラ協奏曲 ニ長調 他 (SINFONIA CONCERTANTE / .../Carl Stamitz

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 デメトローヴァ盤は早めのテンポと軽いオケが持ち味か。ヴァイオリン/ヴィオラ奏者のガブリエラ・デメトローヴァは古楽演奏も学んだという人で、このシュターミツ・アルバムではヴィオラ協奏曲の他、ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲と2つのヴァイオリンのための協奏交響曲をひとりで多重録音している。もう少し、古楽演奏の精華が取り入れられていればいいのだが、きびきびした演奏は心地がいい。デメトローヴァ盤で興味深いのは、ニ長調のみならず、イ長調のヴィオラ協奏曲を収録されていることである。アレグロとロンドの2楽章形式。内容的にはニ長調と甲乙つけがたいと思うのだが。オケはオンドルジェイ・ブラヴェツ指揮チェコ・フィルハーモニー・コレギウム。

シュターミツ:ヴィオラ協奏曲op.1/ホフマイスター:ヴィオラ協奏曲/ツェルター:ヴィオラ協奏曲/ツエルター

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 シュリヒティヒ盤はドイツ風というかどっしり濃厚なのが持ち味。ハリオルフ・シュリヒティヒはケルビーニ弦楽四重奏団のヴィオラ奏者だった人。この四重奏団、いまは指揮者になってしまったクリストフ・ポッペンが第1ヴァイオリンでニュアンスの濃い演奏をしていた。

Virtuose Violakonzerte/Roswitha Trimborn

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 ベルリン・フィルのソロ・ヴィオリストだったクリストのCDもミュラー-ブリュールの指揮と相まって骨太の演奏である。

カール・シュターミッツ:ヴィオラ協奏曲 ニ長調Op.1 他 (Viola Concertos.../Jan Vaclav Stamic

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 これがシュターミツ一族のヴィオラ協奏曲集。