(67) ローベルト・シューマン(1810-1856):おとぎ話の挿画 作品113(1851)

 シューマンは同じジャンルを連続して書いたことで有名だが、まず作品23までずっとピアノ曲。そのあとクラーラとの結婚を目前にして突然、歌曲を書きまくる。結婚すると交響曲とその周辺、その翌年が室内楽の年。ただこのときは弦楽四重奏3曲とピアノ五重奏と四重奏、それからピアノ三重奏の《幻想小曲集》などであり、その他の室内楽の多くは晩年のドレスデン時代からデュッセルドルフ時代に集中している。
 ヴィオラとピアノのための《おとぎ話の挿絵》は《おとぎの絵本》のタイトルで知られているものだが、直訳すると「メルヘン画」であり、絵本の絵のことか、童話の挿絵のことを示しているものと思われる。シューマンには子どものための一連の作品群があるが、この曲は子どもが演奏するために書かれたわけではない。
 1949年秋、デュッセルドルフ市の音楽監督をしていた友人のフェルディナント・ヒラーが転任にあたり、後任にとシューマンに打診してきた。シューマンはかなり迷ったあげくこの申し出を受け、1950年秋に赴任した。デュッセルドルフでは管弦楽団と合唱団を統率することになったが、次第に大人数を指導する資質に欠けることが明らかとなり、管弦楽団・合唱団と軋轢が生じ、1853年には事実上解任されてしまう。ライン川への飛び込みは1854年2月である。
 1949年頃から、管楽器とピアノのための室内楽曲、チェロのための《民謡風の5つの小品》、ピアノ三重奏曲第3番、3つのヴァイオリン・ソナタ、クラリネット・ヴィオラ・ピアノのための《おとぎ話》(これも正確に訳すと、《おとぎ話の語り聞かせ》といった意味になる)など、素朴さと大胆に実験とが共存する作品が書かれている。この時期、家庭音楽としての室内楽が構想されたらしく、楽器の変更が可とされているものも多く、《おとぎ話の挿絵》もヴィオラ譜だけでなくヴァイオリン譜も添付されている。
 《おとぎ話の挿絵》の作曲意図も家庭音楽に関心が向いていたという以上のことはわからない。ただ、この曲はヴァジエレフスキの演奏を念頭におき、彼に捧げられている。ヴァジエレフスキはシューマンの着任と同時にデュッセルドルフの管弦楽団のコンサート・マスターに招聘されたヴァイオリニストで、最初のシューマンの伝記を記した人物である。ヴァイオリン・ソナタ第1番と第2番の方は、初演はヴァジエレフスキがしているものの、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の初演者として有名な、ゲヴァントハウス管弦楽団のコンマス、フェルディナント・ダーヴィトの勧めで書かれており、ヴァジエレフスキのためになぜヴィオラ曲だったのかも不明である。

 シューマンらしいあこがれを秘めた状況音型で始まる〈速くなく〉は、上がって下る分散和音が頻出し、ピアノ三重奏曲第3番や、あるいはヴァイオリン協奏曲などとも共通する不思議な感覚を呼び覚ます。
 ダブルストップで飛び跳ねるような〈生き生きと〉はトリオを2つ持ったスケルツォ的な楽章。
 無窮動と大きな動きが双方の楽器に割り振られる〈速く〉はスケルツォIIという様相を取る。
 〈ゆっくりと、憂鬱な表情を伴って〉、素朴な旋律だが、堪えきれないほど複雑な感情がわき上がってくる。それは聴いているよりも、自分でヴィオラを弾いてみるとよりいっそう心に迫ってくる。中間からピアノが旋律を受け持って、ヴィオラには不思議な分散和音が続く。

 ニュー・ヨーク・ヴィオラ協会のディスコグラフィによると、この曲の録音は40種。ヴィオリストがリサイタル盤を出すと収録されている可能性が高く、またブラームスのヴィオラ・ソナタ2曲ではCD1枚には短いので、この曲をカップリングするという例も多い。
 お好みのヴィオリストでというところだが、結構、タベア・ツィンマーマン盤、トムテル盤など廃盤になっているものも多い。

Arpeggione Sonata/Schubert

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 バシュメトのRCAへの録音の初期のもの。

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 今井信子のChandos盤。ピアノはヴィニョールズ。

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 同じく今井信子だが、ピアノはアルへリチ。

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 カシュカシャン。「R.Sch讃」と題されたアルバムで、クルタークとのカップリング。

Works for Viola and Piano by Robert Schumann, B.../Naoko Shimizu

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 清水直子盤。

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 最近の若手ではメンケマイアーが入れている。

Piano & Chamber Works 2/Robert Schumann

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 ル・サージュのピアノ曲・室内楽曲全集には、タメスティットが参加。