(66) イェネー・フバイ(1858-1937):ヴィオラ協奏曲作品20(1884)

 フバイといったら19世紀から20世紀にかけて活躍した大ヴァイオリニスト。ハンガリー生まれのユダヤ系ドイツ人で実はオイゲン・フーバーというのが本名だそうだが、マジャール風の名前で活動した。ヨアヒムの弟子で、シゲティの師匠。作曲家としては、ヴァイオリンのアンコール・ピースが有名で、おびただしい量がある(Hungaratonで系統的録音があるが13集を数える)。しかし単にヴァイオリニストの余技とは言えず、4曲のヴァイオリン協奏曲、4曲の交響曲、数曲のオペラをもものしているのである。
 とはいえ、ヴィオラ協奏曲まであるとは知らなかった。ちゃんと作品番号まで付いているから遺稿から発見されたといったものではなさそうだ。結論からいえば、未完、しかも妙に中途半端に完成されているためにかえって演奏されなかったということになりそうだ。
 1884年、ブリュッセル音楽院院長の委嘱で、3楽章をさらりと書き上げ、1885年に第1楽章のオーケストレーションをした。なぜかそこで中断。1890年頃、第1楽章のみを《演奏会用小品》と題して発表。この1楽章版のピアノ伴奏譜が1891年に出版される。このとき、1楽章の協奏曲としての体裁を整えるために終結部に管弦楽のセクションとカデンツァを加筆している。ソロはヴィオラでもチェロでもよしとされ、のちに友人のチェリストのポッパーが手を入れ、フォイアマンなんかも演奏した。このヴィオラまたはチェロのソロの1楽章版はその後も演奏され、1929年にはさらにオーケストレーションに手を加えている。第1楽章が《演奏会用小品》として独立してしまったため、未オーケストレーションの第2楽章・第3楽章が忘れられてしまったのだ。
 本CDでは第1楽章はオリジナルのオーケストレーションに戻される一方で、1890年頃に加筆された終結部は温存し、オーケストレーションの傾向をオリジナル版と統一。さらに同様の様式でもって第2第3楽章をラヨシュ・フサールがオーケストレーションし、初めてオーケストラ伴奏付き3楽章のヴィオラ協奏曲の体裁にしたというものである。演奏時間34分弱のなかなかの大規模な作品となっている。

 しかしながら、大演奏家の協奏曲という趣ではなく、ちょっとノスタルジックで何ともリラックスした曲想で始まる。曲の作りも協奏曲というよりもラプソディックである。技巧的な経過句もあるが、さほど突出することはない。第2楽章も第3楽章も同様に穏やかな日だまりの中にあるような音楽で、ダークなところは全くないのはヴィオラ協奏曲としては希有なことではないだろうか。

 ペーテル・バールショニのヴィオラ、ゲルゲイ・ヴァイダ指揮エルケル室内管弦楽団。

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