(68) アンドレイ・ヤコブレヴィチ・エシュパイ (1925-):ヴィオラ協奏曲 (1987)

 小松左京にエスパーとスパイを引っかけて『エスパイ』という長編があったが(映画にもなっている)、われわれが問題とするのは、エシュパイ。
 旧ソ連マリ自治共和国(現在の名称はマリ・エル共和国。アフリカのMaliに対して、こちらはMariとのこと)の作曲家である。戦前、モスクワのグネーシン音楽院でピアノを学び、戦後、モスクワ音楽院でミャスコフスキイ、大学院でハチャトゥリャーンに作曲を学んだ。9曲の交響曲、多数の協奏曲(ピアノ2曲、ヴァイオリン4曲、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、フルート、オーボエ、クラリネット、ソプラノ・サクソフォン、トランペットとトロンボーン、ホルン、チューバ)、ピアノ曲など作品は多い。父も作曲家で民謡研究家、彼の作品はマリ・エルの民謡に強く影響されているというが、1966-67年の合奏協奏曲などはトランペット、ピアノ、ヴィヴラフォン、コントラバスというジャズ・コンボをコンチェルティーノとし、ジャズの語法とソヴィエト音楽の融合といった体であり、リズム面ではバルトークとともにジャズの影響が大きい。
 ディスクは結構出ていたが、廃盤が多いのではないだろうか。更新されていないようだけれど、エシュパイのディスコグラフィー

 ユーリ・バシュメトのために書かれたヴィオラ協奏曲は1987年作。第3回レニングラード国際音楽祭1988で初演された。ペレストロイカからソヴィエト崩壊のあいだに催された音楽祭で「東側」の作曲家を基調としつつ、「西側」の前衛も紹介されていた。余談だが、この音楽祭、日本からは芥川也寸志の《ラプソディ》がゲルギエフの指揮で紹介されている。

 オーケストラのうめきの中から、低音域のヴィオラの太い歌が始まる。まもなくヴィオラが早い動きになって、ちょっとショスタコーヴィチ調の急速な音楽になるが、そのテンポの中で幅広い歌を続ける。再び、ヴィオラが早い動きをとり、オーケストラも盛り上がってくると、情け容赦のないティンパニ連打に打ち切られ、ヴィオラの歌になる。といった具合に緩急をくり返しながら進んでいく1楽章制の協奏曲。ダークな音色でラプソディックな歌う部分と、いかにもソヴィエトの音楽といった金管の吠える部分とが短いスパンで交替するものの、全体には悲歌的な歌の部分の印象が強い。灰汁の強さが魅力である。約20分。

 col legnoの6枚組みの同音楽祭ライヴにバシュメトのソロ、グルシチェンコ指揮ソヴィエト国立交響楽団による初演の録音が収録されているが、このディスク、jpcではいまだカタログに載っているもののcol legnoのカタログでは廃盤状態。Russian Discのエシュパイ作品集(ヴァイオリン協奏曲第2番、ピアノ協奏曲第2番、合奏協奏曲と併録)にも同音源と思われるものが収録されているが、こちらも廃盤。もっともこれは今のところamazonのマーケット・プレイスでそう法外でない値段で手に入りそう。そのうち、新録や再発が出るのではないかと思う。同じく、Russian Discの交響曲第4・5番は、合奏協奏曲とカップリングされてVeneziaiconで再発されているから。

Andrei Eshpai: Concertos for Viola, Violin, Pia.../Andrey Yakovlevich Eshpay

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