(63) ベルント・アロイス・ツィンマーマン(1918-70):アンティフォーネン(1961)
 ─ヴィオラと25器楽奏者のための

 第2次大戦後、ドイツのダルムシュタット現代音楽夏期講習ではナチス時代に禁じられていた12音技法がシェーンベルクの弟子ルネ・レイボヴィツによって講義されたのをはじめ、当時の最先端の音楽が演奏され、またシュトックハウゼン、ブーレーズ、ノーノなどの才能がしのぎを削った。彼らはだいたい1930年前後の生まれという世代だったが、そのなかに少し年長の作曲家が混じっていた。ベルント・アロイス・ツィンマーマンである。若い作曲家たちが集うなかで、彼は自嘲的に「若い作曲家中の最年長」と称していた。ダルムシュタットではヴェーベルンの音楽が範とされ、やがて音高ばかりか、音価や音色までシステマティックに扱うトータル・セリエリズムの潮流が生まれてくるのだが、ツィンマーマンはそうした流れから距離をとり、十二音技法を使いつつ、過去の音楽の引用を織り込んだり、折衷的な作曲をし、これを多元主義と称した。
 ツィンマーマンは独自の時間論「球体的時間 Kugelgestalt der Zeit」をもって、作曲に当たった。これは過去から未来へと流れる時間が球状にたわみ、すべての時間が現前するという同時性の時間論である。過去も現在も未来もすべてが魂において現前するというアウグスティヌスの時間思想の影響のもと、神のわざは永遠に変わらず、そこに加えるものもそこからとるものもないという聖書の「伝導の書」を彼はたびたび引用するのである。
 代表作は歌劇《軍人たち》〔あるいは《兵士たち》と訳される)。ここでは複数の時間軸の出来事が同時に舞台で歌われたり、バッハをはじめ種々の音楽が引用され、「球体的時間」が実現される。しかしこのオペラ、いったん1958~59年に1959年に二幕まだが完成するが、翌年にケルン歌劇場で予定されていた初演は総監督のオスカー・フリッツと音楽監督のヴォルフガンク・ザヴァリッシュによって「演奏不能」と拒絶されてしまう。そこで彼は、オペラの演奏会用組曲である、声楽交響曲《軍人たち》を編集して初演し、その好評を得て、1965年、ミヒャエル・ギーレン指揮ケルン歌劇場により初演されるのである。
 ツィンマーマンのヴィオラ協奏曲《アンティフォーネン》は、ちょうどこの合間の時期である1961年に作曲された。南西ドイツ放送よりのヴィオラと室内管弦楽のための協奏曲の委嘱だったが、演奏者の反対にあって初演は取りやめられ、やっと1962年になって、ベルリン放送交響楽団によって初演されるという経緯をとる。同時期、いまや彼の室内楽の代表作である、チェロ・ソナタやピアノ三重奏曲《プレザンス》も初演者の抵抗に遭っており、苦難の時代であった。

 5曲のアンティフォンで構成されるのでアンティフォーネンと複数形になっている。アンティフォンは交唱と訳されるが、キリスト教会で左右二つに分かれた合唱隊が交互に歌う聖歌の歌い方である。編成はフルート3(ピッコロ、アルトフルート持ち替え)、トロンボーン3、ハープ、打楽器(6人の奏者)、チェロ7、コントラバス5というもので、管弦楽が交唱するわけではなく、恐らくソロと管弦楽の交唱という含みではないだろうか。フルート群とトロンボーン群という木管と金管代表と打楽器が「現代音楽」的な刺激的な音響を実に経済的に生み出している。ヴァイオリンを欠くのは、ヴィオラの音をかき消さない配慮であろう。
 アンティフォンIVではオーケストラの奏者によって下記の7カ国語のテキストが引用され、バベルの塔的様相を呈するのが有名。

 ジョイス:ユリシーズ(英語)
 ウルガタ聖書、伝導の書(ラテン語)
 黙示録(ギリシャ語)
 ダンテ:神曲(イタリア語)
 ヘブライ語聖書、ヨブ記(ヘブライ語)
 ドストエフスキイ:カラマーゾフの兄弟(ロシア語)
 カミュ:カリギュラ(フランス語)
 ノヴァーリス:夜の讃歌(ドイツ語)

 ディスクは2枚ともツェンダーの指揮。

Zimmerman: Cello Concerto; Impromptu; Antiphonen; Photoptosis

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 ザールブリュッケン放送響との盤はエッカルト・シュロイファーのヴィオラ。こちらは現役だし、下記のアンサンブル・モデルン、タベア・ツィンマーマン盤よりもこなれた演奏という感じがする。

Bernd Alois Zimmerman: Antiphonen
$かばの漬け物 (じゃあ、ヴィオラでもやるか)-Antiphonen

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