(58) エドマンド・ラッブラ(1901-1986):ヴィオラ協奏曲イ長調(1952)

 エドマンド・ラッブラはまず交響曲作家であろう。
 貧しいノーサンプトンの家庭に生まれ、音楽家としては遅咲きだった。ホルストに作曲を学び、ピアニストとしての腕は一流だった。ピアノ伴奏、付随音楽の作曲、音楽批評などで生計を立てていたが、ようやく1935年から1941年にかけて4曲の交響曲を書き、作曲家としての個性を確立する。
 未完の11番まで書かれるこの交響曲が素晴らしいのだ。基本的に調性音楽で、対位法の綾が豊か、聴衆を引きつけようという手管はほとんど皆無という点で地味なのだが、この世界に入り込むとこれほど深い音楽的体験はない。かつてLyritaから細々とリリースされていたが、いまやChandosで全曲が手にはいる。

 ヴィオラ協奏曲はラッブラがさらに深まりをみせる第6交響曲と同時期の作品で、プリムローズからの委嘱である。
 〈幻想曲風導入〉と題された第1楽章、モルト・ヴィヴァーチェの第2楽章、〈音楽的首飾り〉と題されたアンダンテ・モデラートの終楽章という3楽章構成。
 ヴィオラ・ソロから始まってエルガー風の悠揚たる歩みの主部にはいる。ここの旋律の気品の高いこと。技巧的なパッセージもちりばめられているが、技巧のための技巧のようなことをラッブラは決してやらない。諦念に染められながらもいまだ決然とした意志を持ったかのような音楽。
 ホルンとファゴットがリズムを提示するスケルツォはさながら牧歌的スケルツォといった趣きで、間奏曲的に機能する。
 終楽章の〈音楽的首飾り〉はある種の主題なき変奏曲といったもの。冒頭のヴィオラの独奏からすべての素材が抽出された「9つの相互に関連しあった冥想」である。この首飾り、陰影が強まったり、ほのかに明かりが射してきたり、たいへん美しい。
 全編にわたってヴィオラが低音域でも高音域でも個性的に鳴るところもうれしい。演奏時間およそ25分。

 ディスクはかつてConiferレーベルにリヴカ・ゴラーニ盤があったが、現況で入手できるのはローレンス・パワー盤。《ビザンチンの頌歌による冥想》というヴィオラ独奏曲の初録音もはいっている。

Walton, Rubbra: Viola Concertos

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