(60) ドミトリイ・ドミトリエヴィチ・ショスタコーヴィチ(1905-75):ヴィオラ・ソナタ(1975)
もっとも有名なヴィオラ曲のひとつ。死のおよそ1カ月に完成されたショスタコーヴィチの遺作。遺作かほぼ遺作に近いヴィオラ曲は多いが、その筆頭的な作品。
ベートーヴェン四重奏団のヴィオリスト、フョードル・ドルジーニンのために書かれ、捧げられている。最初の録音はドルジーニン
によってなされた。
第1楽章モデラート、第2楽章アレグレット、第3楽章アダージョの3楽章制。ショスタコーヴィチがソルジー人に電話で語ったところによると、第1楽章は「a novella」、第2楽章はスケルツォ、第3楽章はベートーヴェンを記念するアダージョだという。novellaは中編小説と訳されるが、ちょっとしたお話くらいの意味だろう。
第2楽章は、このまま作曲したら膨大な長さになってしまうと気付いて、1942年に放置された歌劇《賭博師》の1曲の流用である。
また、人生を締めくくるかのように多くの引用が仕掛けられている。様々な引用の指摘はあるが、明らかなのは第3楽章の《月光》ソナタの引用、それから《ムツェンスク郡のマクベス夫人》でヒロインのアリアで愛人のセルゲイを「セリョージャ」と呼びかける部分(これは弦楽四重奏曲第14番にも引用されている)。
第1楽章冒頭の開放弦をピツィカートしていく旋律は、ベルクのヴァイオリン協奏曲の冒頭で開放弦を上がり下がりするモティーフとの関連は誰もが気付くところ。
まずはバシュメトを挙げておけば文句はあるまい。
ベートーヴェン四重奏団のドルジーニンの前任者はソヴィエト・ロシアのヴィオラの巨匠ヴァディム・ボリソウスキイ。バシュメトはボリソウスキイに教わることはもはやできず、ドルジーニンの弟子となるが、彼らは気が会わなかったのか、その関係は緊張に満ちたものだったらしい。しかし、バシュメトにとってもこの曲は非常に重要なものである。ピアノのムンチャンはドルジーニンの共演者でもあり、作曲者の前で試演した人でもある。
とにかくねちこく、特に終楽章などは深み深みに沈み込んでいくような演奏である。またそういう曲だと思うし。
ショスタコーヴィチ:ヴィオラ・ソナタ/バシュメット(ユーリ)
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リヒテルとの共演盤も忘れがたい。むかしビクターで出ていたもののほかにも、ライヴがいくつかあるようなのだが、下記は2つともビクターと同音源ではないかと思う。確かめたわけではないが。
Shostakovich: Violin Sonata; Viola Sonata
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バシュメトよりも演奏に時間をかけているのが、ジュリアン・ラクリン。第2楽章の演奏時間は標準的だが、第1楽章に13分。終楽章に20分近くかけて、全体は40分を超える。冒頭から止まりそう。それだけにフォルテになると感情の幅を大きくとらざるを得ない。第2楽章との対比も強調される。特に終楽章の長いことといったら! しかしバシュメトよりもあっさりしているのは、テンポを落としただけにやり過ぎないという計算された抑制なのか、バシュメトの域にまで達せないだけなのか。いずれにせよまだ若いのにこの冒険には脱帽するほかない。
Beethoven: Violin Sonata No. 7; Shostakovich: Viola Sonata; 10 Preludes
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演奏時間の長さでいえば、ラクリンとバシュメトの間にいるのが、ヒリアー盤。いささかぶっきらぼうなところから味がにじみ出て、いい演奏だったが廃盤。
かたや、演奏時間が短いのはポール・コーテーズ。全体で27分。第1楽章モデラート(♩=108)、第2楽章アレグレット(♩=100)、第3楽章アダージョ(♩=80)と全曲の拍の速度は大きく変わらないということをコーディーズは指摘している。とりわけ第2楽章がしばしばアレグロやヴィヴァーチェで演奏されるが、アレグレットなのだということを強調している。もっとも録音で聴くかぎり、第2楽章はコーテーズと同様に7分台くらいの演奏が多いが。
コーテーズの演奏はこの拍動を意識し、あまり大きなテンポの変動をさせずにテンポは淡々としかし拍動はマルカートに進むことで、かえって曲そのもののもつ凄みを引きだしている。終楽章は11分で終わってしまうのだが、不足感はない。ダークで深い音色もいい。
Finale: Sonatas for Viola
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クーレンはヴァイオリニストとしてブレイクしたけれども、それ以前から、ヴィオラもよく弾いていたみたいで、いまでもヴァイオリン/ヴィオラ奏者を標榜しているので、「ヴァイオリニストのヴィオラ」とは腐すまい(ただそう思って聴くせいか、やはり軽い音なのだが)。彼女の終楽章は12分弱。特にカデンツァ部分が速い印象が強い。しかし、勢いを持った演奏で一気呵成に突き進む。
1992年録音、Fidelioレーベルから出ていたもののリイシューである。
Shostakovich: Viola Sonata; Violin Sonata
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およそ9分、7分、15分という演奏時間のカシュカシャンが、まあ標準的なタイミングだろう。現在のカシュカシャンならもっと恰幅のいい演奏になったろうか、などとは思うが。
Bouchard: Pourtinade/Chihara: Redwood/Shostakovich: Sonata Op.17
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最近の若手ではタメスティットとメンケマイアーが録音している。リサノフとパワーはまだだ。
タメスティットはタイミング的にはカシュカシャン的。持ち前の構成力で鮮やかに彫塑してみせる。
Shostakovich: Viola Concerto; Schnittke: Viola Sonata
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かたやメンケマイアーはゆっくり派。「白鳥の歌」「諦念」といったイメージで沈潜する。ちょっと音が軽めなのが残念。
Works for Viola & Piano/Monkemeyer
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数えてみると手元にはピアノ伴奏版だけで全部で24種あった。やれやれ。
日本人の演奏では今井信子、店村眞積、兎束俊之、長谷川弥生盤。
今井信子盤は20年以上現役盤。
ザ・ロシアン・ヴィオラ [Import]
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先日も書いたが、長谷川弥生盤はライブゆえの瑕疵はあるが、好きなんだけどなあ。
そういえば甘く美しいタベア・ツィンマーマン盤も廃盤。
ピアノ・パートを室内管弦楽用にウラディミール・メンデルスゾーンが編曲したものがあり、編曲者自身が録音している。
![icon](https://img-proxy.blog-video.jp/images?url=http%3A%2F%2Fimg.hmv.co.jp%2Fimage%2Fjacket%2F190%2F01%2F3%2F2%2F967.jpg)
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同じ編曲版を、バシュメトのヴィオラ、クレーメル指揮クレメラータ・バルティカが演奏したものが最近出た。
ピアノ伴奏で十全と思ってしまうけれど、ショスタコーヴィチにはヴィオラ協奏曲がなかっただけに、たまにはこれを聴く。
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリンソナタ/クレーメル(ギドン)
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だいたい書き上げて気付いたのだが、『ショスタコーヴィチ全作品解読』
の工藤庸介氏のサイトには、ヴィオラ・ソナタの膨大な録音評があった。同書で工藤氏のオススメは、ドルジーニン、バシュメト&リヒテル、バシュメト&ムンチャン、カシュカシャン、今井信子、である。
![icon](https://img-proxy.blog-video.jp/images?url=http%3A%2F%2Fimg.hmv.co.jp%2Fimage%2Fjacket%2F190%2F12%2F3%2F4%2F992.jpg)
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もっとも有名なヴィオラ曲のひとつ。死のおよそ1カ月に完成されたショスタコーヴィチの遺作。遺作かほぼ遺作に近いヴィオラ曲は多いが、その筆頭的な作品。
ベートーヴェン四重奏団のヴィオリスト、フョードル・ドルジーニンのために書かれ、捧げられている。最初の録音はドルジーニン
第1楽章モデラート、第2楽章アレグレット、第3楽章アダージョの3楽章制。ショスタコーヴィチがソルジー人に電話で語ったところによると、第1楽章は「a novella」、第2楽章はスケルツォ、第3楽章はベートーヴェンを記念するアダージョだという。novellaは中編小説と訳されるが、ちょっとしたお話くらいの意味だろう。
第2楽章は、このまま作曲したら膨大な長さになってしまうと気付いて、1942年に放置された歌劇《賭博師》の1曲の流用である。
また、人生を締めくくるかのように多くの引用が仕掛けられている。様々な引用の指摘はあるが、明らかなのは第3楽章の《月光》ソナタの引用、それから《ムツェンスク郡のマクベス夫人》でヒロインのアリアで愛人のセルゲイを「セリョージャ」と呼びかける部分(これは弦楽四重奏曲第14番にも引用されている)。
第1楽章冒頭の開放弦をピツィカートしていく旋律は、ベルクのヴァイオリン協奏曲の冒頭で開放弦を上がり下がりするモティーフとの関連は誰もが気付くところ。
まずはバシュメトを挙げておけば文句はあるまい。
ベートーヴェン四重奏団のドルジーニンの前任者はソヴィエト・ロシアのヴィオラの巨匠ヴァディム・ボリソウスキイ。バシュメトはボリソウスキイに教わることはもはやできず、ドルジーニンの弟子となるが、彼らは気が会わなかったのか、その関係は緊張に満ちたものだったらしい。しかし、バシュメトにとってもこの曲は非常に重要なものである。ピアノのムンチャンはドルジーニンの共演者でもあり、作曲者の前で試演した人でもある。
とにかくねちこく、特に終楽章などは深み深みに沈み込んでいくような演奏である。またそういう曲だと思うし。
ショスタコーヴィチ:ヴィオラ・ソナタ/バシュメット(ユーリ)
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リヒテルとの共演盤も忘れがたい。むかしビクターで出ていたもののほかにも、ライヴがいくつかあるようなのだが、下記は2つともビクターと同音源ではないかと思う。確かめたわけではないが。
Shostakovich: Violin Sonata; Viola Sonata
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バシュメトよりも演奏に時間をかけているのが、ジュリアン・ラクリン。第2楽章の演奏時間は標準的だが、第1楽章に13分。終楽章に20分近くかけて、全体は40分を超える。冒頭から止まりそう。それだけにフォルテになると感情の幅を大きくとらざるを得ない。第2楽章との対比も強調される。特に終楽章の長いことといったら! しかしバシュメトよりもあっさりしているのは、テンポを落としただけにやり過ぎないという計算された抑制なのか、バシュメトの域にまで達せないだけなのか。いずれにせよまだ若いのにこの冒険には脱帽するほかない。
Beethoven: Violin Sonata No. 7; Shostakovich: Viola Sonata; 10 Preludes
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演奏時間の長さでいえば、ラクリンとバシュメトの間にいるのが、ヒリアー盤。いささかぶっきらぼうなところから味がにじみ出て、いい演奏だったが廃盤。
かたや、演奏時間が短いのはポール・コーテーズ。全体で27分。第1楽章モデラート(♩=108)、第2楽章アレグレット(♩=100)、第3楽章アダージョ(♩=80)と全曲の拍の速度は大きく変わらないということをコーディーズは指摘している。とりわけ第2楽章がしばしばアレグロやヴィヴァーチェで演奏されるが、アレグレットなのだということを強調している。もっとも録音で聴くかぎり、第2楽章はコーテーズと同様に7分台くらいの演奏が多いが。
コーテーズの演奏はこの拍動を意識し、あまり大きなテンポの変動をさせずにテンポは淡々としかし拍動はマルカートに進むことで、かえって曲そのもののもつ凄みを引きだしている。終楽章は11分で終わってしまうのだが、不足感はない。ダークで深い音色もいい。
Finale: Sonatas for Viola
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1992年録音、Fidelioレーベルから出ていたもののリイシューである。
Shostakovich: Viola Sonata; Violin Sonata
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およそ9分、7分、15分という演奏時間のカシュカシャンが、まあ標準的なタイミングだろう。現在のカシュカシャンならもっと恰幅のいい演奏になったろうか、などとは思うが。
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最近の若手ではタメスティットとメンケマイアーが録音している。リサノフとパワーはまだだ。
タメスティットはタイミング的にはカシュカシャン的。持ち前の構成力で鮮やかに彫塑してみせる。
Shostakovich: Viola Concerto; Schnittke: Viola Sonata
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かたやメンケマイアーはゆっくり派。「白鳥の歌」「諦念」といったイメージで沈潜する。ちょっと音が軽めなのが残念。
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数えてみると手元にはピアノ伴奏版だけで全部で24種あった。やれやれ。
日本人の演奏では今井信子、店村眞積、兎束俊之、長谷川弥生盤。
今井信子盤は20年以上現役盤。
ザ・ロシアン・ヴィオラ [Import]
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先日も書いたが、長谷川弥生盤はライブゆえの瑕疵はあるが、好きなんだけどなあ。
そういえば甘く美しいタベア・ツィンマーマン盤も廃盤。
ピアノ・パートを室内管弦楽用にウラディミール・メンデルスゾーンが編曲したものがあり、編曲者自身が録音している。
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同じ編曲版を、バシュメトのヴィオラ、クレーメル指揮クレメラータ・バルティカが演奏したものが最近出た。
ピアノ伴奏で十全と思ってしまうけれど、ショスタコーヴィチにはヴィオラ協奏曲がなかっただけに、たまにはこれを聴く。
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリンソナタ/クレーメル(ギドン)
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だいたい書き上げて気付いたのだが、『ショスタコーヴィチ全作品解読』
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