(43) ミクローシュ・ロージャ(1907-1995):ヴィオラ協奏曲 作品37(1979) (増補)

 ミクロス・ローザはハリウッドの作曲家、代表作は『ベン・ハー』。しかし、彼はコンサート・ホールの作曲家でもあることもやめなかった。88年の生涯のうち55年をカリフォーニアで過ごしている「アメリカ人」とはいえ、ハンガリーに生まれた彼は、その音楽をみるかぎりバルトークとコダーイの同胞であり続けた。ハンガリー生まれのコンサート作曲家のことはミクローシュ・ロージャと呼んでおこう。バルトークらの新しい音楽に冷ややかなブダペストの音楽界を嫌って、ライプツィヒ音楽院に留学。卒後、パリで作曲家として名をなし始めるとともに、初めて映画音楽を作曲するのが1930年代。しかしこの頃はまだロージャはコンサート・ホールの作曲家だった。1940年代にヒッチコックの『白い恐怖』の音楽がアカデミー賞を受賞し、幸か不幸か、ハリウッドの作曲家の道が開けていくわけである。

 5歳からヴァイオリンを習ったミクローシュは、その後、ピアノとヴィオラも習うが、それだけに弦楽器の作品は多い。彼のヴァイオリン協奏曲はハイフェッツのために、協奏交響曲はハイフェッツとピアティゴルスキーのために、そしてチェロ協奏曲はシュタルケルのために書かれたが、ヴィオラ協奏曲は晩年の作品で、最後のフルオーケストラのための作品だ。ピンカス・ズーカーマンのために書かれている。彼の作品番号は44番まで振られているが、これ以降はソロの作品が多い。作品43が無伴奏ヴィオラのための『序奏とアレグロ』である。
 ロージャの曲にはハンガリー民謡の影が濃厚に浸透しており、一聴してバルトーク的に聞こえるが、彼はバルトークのように民謡を徹底的に分析する音楽家ではなく、ハンガリー民謡とその味わいを曲に素直に注入した。民謡の旋律線は明快だし、和声的にもすっきりしている。その意味で、初期のバルトークに近い肌合いで、果敢な現代的姿勢からは一線を画している。とはいえ、ハリウッド作曲家という括りから予想される甘美さからはほど遠く、気骨あるところはやはりバルトーク的だ。
 ヴィオラ協奏曲も初期のバルトークの管弦楽曲のような感じで、15分近い第1楽章は交響詩といってもいいくらいの重厚さだが、少々重く暗くなりすぎて、ロージャは3楽章の構想のところを、第2楽章にスケルツォ楽章を追加した。もっともそのスケルツォ、アレグロ・ジョコーソ楽章とて、そう明るく楽しげなものではない。しかし、ハンガリー的旋律を歌うヴィオラは実に格好がいい。第3楽章アダージョはバルトークの「夜の音楽」のような深遠には至らないが、いささか温度の高い黄昏時のような音楽を奏でる。終楽章アレグロ・コン・スピリトもダークな味わいに満ちた舞踏音楽で爽快な終楽章ではない。それがまたヴィオラのダークな音色と相まってしっかりと個性的な音楽となっている。演奏時間は32~36分ほど。

 唯一の現役盤がチューリヒ・トーンハレ管弦楽団の首席奏者ギラド・カルニのソロによるNaxos盤。カルニはイスラエル出身。1992年、ニュー・ヨーク・フィルの歳年少のメンバーとなり、バンベルク交響楽団とベルリン・ドイツ・オペラの主席を歴任した。冒頭から気持ちのいい鳴らしぶりである。
 オーケストラはポーランドの新鋭マリウス・スモリイMariusz Smolij(Naxosでは「スモリジ」と表記しているが、ポーランド語ではjはおよそ日本語のヤ行にあたる子音のようだ)指揮のブダペスト・コンサート管弦楽団は合奏の精度を落とすことなく野趣溢れる演奏を繰り広げている。この演奏を聴けば、ロージャのヴィオラ協奏曲がバルトークのそれに匹敵する傑作に思えてくること請け合い。

Miklós Rózsa: Viola Concerto; Hungarian Serenade

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