(45) ユグ・デュフール(1943-):白杉(2004)
 ─ヴィオラと管弦楽のための


 デュフールはフランスのいわゆるスペクトラル楽派に属する。音の内的生命を正確に分析し、次いでスペクトログラムとしてコンピュータによって画像化するのを作曲の出発点にする。デュフールといえば『冬』という管弦楽の連作が印象深かった。この「冬」は複数形で、冬にまつわる4つの絵画をインスピレーションとして書かれたCDにして3枚組の大作である。ぽつりぽつりと浮き上がってくる和音が連なるひたすら退屈な、それでいて何とも心惹かれる連作であった。
 ヴィオラと管弦楽のための「白杉」も音響的にはそれと類似の33分。
 白杉というのは紀元前7世紀の神秘的テクストに基づく。当時の考えでは、白杉とは、死にかかっている者に、いかに現世から逃れ、永遠へとつながる記憶とともに来世へと旅立つかを示す光の木である。曲のコンセプトはヴィオラの音色と旋律線を管弦楽の音色のプロセスの結果であるかのようにイメージするというもので、あたかも独奏の声に対して管弦楽が巨大な通奏低音を提供するかのようなものだと作曲者は述べる。逆にいえば管弦楽はヴィオラの音色のとてつもない拡張であり、反響室をオーケストレーションしたようなものである。
 ポツリポツリ浮き上がる和音の連鎖の中からヴィオラがようやくはっきり聞き取れるようになるのは8分過ぎ。ヴィオラの動きが細かくなって、管弦楽が激しくなってくるのが全体の三分の一あたりから。管弦楽も寄せては返す波のようになる。その先が聴きものということになろう。ヴィオラの音響が管弦楽へと反映され、管弦楽がひとつの巨大なヴィオラになる。
 そして遂に聴いている者は来世への指針を得ることになるという趣向だ。ということはここでもまたヴィオラは死の象徴となっているようなのだ。

 ヴィオラはジャラール・コセ。リュクサンブール・フィルを指揮するのは、ピエール-アンドレ・ヴァラド。ジョリヴェのフルート曲全集などを録音していたフルーティストだが、このCDのバイオではまったく指揮者としての活動しか触れられていない。

Hugues Dufourt: Le Cyprès Blanc

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