(42) ハインツ・ホリガー(1939):レシカント(2000/01)
 ─ヴィオラと小管弦楽のための

 ハインツ・ホリガーはまずなによりも最高のテクニックと音楽性を持つオーボイストとしてクラシック・ファンには周知の存在であったが、年齢的な問題もあるのだろう、最近はもっぱら指揮者としてディスクに登場している。しかし、オーボイストの経歴と平行して彼は前衛的な作曲家としても絶大な評価を得ていた。オーボエ吹きだから管楽器の作品が多いかといえばそんなことはなく、作品の編成は多岐にわたる。弦楽器の曲も少なからずあり、近作ではヴァイオリン協奏曲「ルイ・スーター讃」(1993-95/2002)などは前衛的な姿勢を崩さずに、しかも聴かせる音楽を作っていて、大変な傑作と思った。
 ヴィオラと小管弦楽のための『レシカント』は、ヴァイオリン協奏曲に続く弦楽のための協奏的作品で、「レシ」と「カント」を接合した造語である。「朗読」や「朗唱」を意味する「レシ」に「歌」である「カント」と結びつけ、ヴィオラが声や言語に関わることをタイトルが既にして示している。ホリガー自身は次のように述べる、「言語能力、音楽の『喋る』能力と取り組むもうひとつの試み。ある種の『抒情的情景』、大規模な『管弦楽付きレシタティーヴォ』、恐らくもうひとつの『ヴィオラの嘆き』、その暗く神秘的な声は私の作品の多くにおいても響き出ている。例えば、三重奏曲(1966)、カム・アンド・ゴー(1976)、トレマ(1986)、スーヴェニール・トレマエスク(2001)、マショー‐トランスクリプションズ(2001)」。
 本作には「クリスティアヌ・ジャコテの思い出に、タベア・ツィンマーマンのために」と添えられている。初演者「タベア・ツィンマーマンのために」はわかるとして、1999年に亡くなったチェンバリストのジャコテに捧げられているのはどういうことか。ツィンマーマンとホリガー、トーマス・デメンガはジャコテと共にバッハの6曲のトリオ・ソナタを録音し、ジャコテの最後のツアーで演奏した。そして、この曲ではヴィオラにはしばしばトリオ・ソナタのように同種楽器のオブリガートが加わるのである。
 3楽章35分ほどになるヴァイオリン協奏曲と比較して、レシカントはいささか小ぶり、単一楽章23分ほどの作品である。低音域の重音をふんだんに含んでのたうつようなソロから始まり、高音のトリル、微分音を含む旋律線、フラジオレット、技法的には様々な要素が投入されているが、確かに「語る」ヴィオラは饒舌だ。しかしよく聴いているとオーケストラとの繊細なインターラクションの素晴らしさに気付く。
 CDはツィンマーマンのヴィオラ、ホリガー指揮のローザンヌ室内管弦楽団。

Grammont Portrait: Heinz Holliger

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