(29) ズデニェク・ルカーシュ(1928-):ヴィオラ協奏曲 作品185(1983) 

 ズデニェク・ルカーシュはチェコでもっともよく演奏される現代の作曲家なのだそうだが、まだまだ国外では知名度は低いようだ。
 彼の経歴はかわっている。まずは教職の道を選び、プラハ界隈で教えていたが、その際に文法などの暗記ものに節を付けて歌わせるという方法を採っていたという。第二次大戦中は合唱指揮をし、1953年にピルゼン・ラジオに音楽プロディーサーとして入社、ここでチェコ民謡のプロモーションに携わる。チェコの歌アンサンブルを結成、その指揮をするとともに民謡を合唱用に編曲すること20年。この経験が作曲家としてのインスピレーションのもととなった。1960年代にミロスラフ・カベラッチに私的に師事して作曲技法を学び、伝統的な全音階と古い旋法の進行のアマルガムのスタイルを形成したという。
 作品は交響曲7曲、多数の協奏曲や室内楽など作品番号にして350ほど並んでいるが、何といっても合唱音楽で有名らしい。ヴィオラのレパートリーでは、ヴィオラ協奏曲のほかにヴァイオリンとヴィオラの協奏曲、それから無伴奏ヴィオラ・ソナタを含むヴィオラの室内楽が10曲ほどある。
 1883年のヴィオラ協奏曲は共産主義国チェコ・スロヴァキアの保守的作品となめてかかって聴いたが、それはたいへんな予断だった。
 まずは荒れまくるヴィオラ独奏から始まり、管弦楽がはいると、民謡風の雄渾な旋律が登場。第1楽章は「ラプソディコ」と題されており、さまざまな楽想が目まぐるしく通り過ぎていく。ヴィオラの無窮動的動き、低弦の旋律。不協和な弦楽器の合いの手。ヤナーチェクの『カーチャ・カバノヴァ』を思い起こさせる太鼓(トムトムか?)の連打に乗る金管のコラール。不協和音が増して突入するカタストロフ。基本的に調性的な作風ながら、テンションを高めるさまざまな仕掛けが施されており、陳腐に陥らない。
 第2楽章「カンタービレ」は木管の合奏で導かれる鄙びた民謡風の旋律と、金管合奏で導かれる悲愴な旋律の交代。
 第3楽章「ベン・リトミコ」は太鼓の連打が打楽器的な弦楽器のトッティを低弦から呼び覚まし、まるで蛮族の出撃のようだ。リズムの饗宴は、チェコの伊福部昭かと思える瞬間も多々ある。
 この古くて新しい協奏曲を繰り返し聴いていると、だんだん私の中にイメージが湧いてきた。悲愴で英雄的。中世を舞台とした冒険映画のサントラ。逆らえない運命に立ち向かう主人公、絶望的な戦い、友情、裏切り、かなわぬ愛、云々。ドラマはまさに主人公が絶望的な戦闘に駆け出すような体で終わる。約25分。
 演奏は2種。いずれもArcodivaレーベル。イカすお姉さん、イトカ・ホスプローヴァのもの(マルティヌーとシュターミツの協奏曲とカップリング)と、初演者カレル・シュペリーナの1985年録音(ルカーシュのヴァイオリンとヴィオラ、ヴィオラとピアノの曲、ヤローチの協奏的作品とカップリング)である。テクニックの切れや、颯爽とした音楽運びでは断然ホスプローヴァ版。長らくチェコ・フィルの主席を務めたシュペリーナはこれに比べるともたもた弾いている感じがするが、それはそれで民族的な風味が濃くなって味わいがある。前者は国内盤扱いとなったが、後者は同レーベルのサイトから購入するのが手っ取り早いだろう。

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